第266話 人形回収
一度船の上に戻り状況を確認する。どうやら1週間ほど前に大量のアンデッド達が村に強襲してきたらしい。村を維持できなくなった村人たちは別の場所に避難しているという。そこが過去の勇者たちがこの島まで来たときに乗ってきた船だという話だった。
やはりメイセスは久しぶりに帰ってきて村が無人だったのにショックを受けていた。簡単な話は道中に聞いていたが、犠牲もだいぶ出ているようだ。それでもかなりの人数が避難することが出来たということで、ホッとしていた。
「その船はもう動かないんですよね?」
「はい。200年前の船ですからね。それに私が生まれる前なのですが、嵐のときに打ち上げられてしまい、その後はそのまま固定して倉庫のように使用していたんです」
「人は住んでいなかったの?」
「老朽化で雨漏り等もありましたし、打ち上げられた場所が村の囲いの外でしたので。ただ氷室などの魔道具が設置していたため中の施設は使ってはいたんです。
「なるほど」
船が港に泊っていれば港に打ち上げられたのだろうと考えるが、当初は他に安全な島が無いかと定期的に周りを調査で航海していたようだ。嵐の中無理して帰港しようとして失敗したとか言う話らしいが。この本島から少し離れた小島に乗り上げ、船艇の穴など修復が難しい状態になり、そのまま土魔法で固定したという。
古船は勇者が「オゾン号」と名付けていたようで、皆からもそう呼ばれている。そのオゾン号は乗り上げた小島から本島まで浮き桟橋のような物で繋ぎ、今では歩けるようになっているらしい。
「で、ユピーはなんで村に来ていたんだ?」
メイセスが尋ねると、「弟の人形を探しに来たの」と答える。ユピーの両親は小さい頃にアンデッドとの戦いで命を落としていて、姉弟の2人で村の孤児を預かる施設に住んでいたという。なれない船の中、外で遊べず、食べ物も節制している中、泣き止まない弟の為に探しに来たのだろう。
「で、人形は有ったの?」
俺が聞くとユピーは首を横に振る。まあ、魔物が出てたまたまドアが開いていた家に逃げ込んでいたんだ。そんな暇は無いだろうな。
「じゃあ、おじちゃんが一緒にいってやるから。探しに行こう。その後、その古い船まであんないしてくれよ」
「ちょっと。ショーゴさん!」
メイセスが止めようとするが、まあ。止まらないわな。
「船長、船はどうします? こうなるとここに停泊しているのもちょっと危険な気がしません?」
「ううむ。そうだなあ……船は少し離れたところで一度待機したほうが良いのか。子爵。どうしましょう」
「そうですね……あちらに挨拶をするのであれば、私達も船から降りて皆様が避難している船まで歩くのが良いのでしょうが……」
そこにメイセスやハヤトも混じり会議が始まる。俺たちは雇われの冒険者だからなあ、あまり口を出すのも良くないわな。面倒くさいし。とりあえずさくら商事は皆で降りる準備を始める。
「倉庫に山ほどあるジャムを少し持っていくか。手土産に良さそうじゃね?」
「ジャム? たしかに甘いものは喜びそうね」
「うん。さっきユピーにジャムのジュース飲ませたら、結構いい反応していたもんな」
俺たちは準備を終え甲板で村の方の様子を見ていると、プレジウソが近づいてきた。無口イケメンの彼とはこの一ヶ月の航海で殆ど会話をしてこなかった。突然近づいてきた彼に何の用かと少し身構える。
「すまんがアンデッドは、どんな魔物だったか教えてもらって良いか?」
「え? ああ。おそらく普通のフォレストウルフがアンデッド化したような感じでしたね。ただ、普通のフォレストウルフよりだいぶ強化されてる感じ……でしょうか」
「なるほど……元々この島にフォレストウルフは居たのだろうか……」
「え? ああ……どうなんでしょう」
ううむ。確かにフォレストウルフは大陸じゃ一般的な魔物だけど。それがこんな離れた孤島でアンデッド化して歩いているのって、たしかに違和感はあるな。魔物の説明をするとプレジウソは少し悩むような素振りをみせる。
俺が取り残され感に困惑してると、やがて考えがまとまったのか「ありがとう」と言い、そのまま船の中に入っていった。
「あの司祭さん愛想悪いっすね。旦那」
「馬鹿だな。あれがモテる男の秘訣なんだ。あえて余計なことを喋らず、謎に満ちた男を演出するんだ。ミドーもやるべきだな」
「まじっすか? あれ。演技なんすか?」
「いや。まあ……たぶん素だとは思うけど……」
「なるほど。モーザさんみたいなもんすね」
「いや、そこは俺みたいって言うべきだぞ?」
「いやだって、旦那はほっといても喋り続けるじゃないっすか」
「ええ??? 俺ってそういうイメージなのか???」
ミドーとアホなやり取りをしているとお偉いさんたちの会議が纏まったようだ。ハヤトが出てきて説明してくれる。
俺たちとハヤト、メイセスさんがユピーを連れて、例の人形を回収後そのまま「オゾン号」に向かう。ルミノールさん達は、船で少し離れた所に待機をし、状況をみて俺たちの合図とともに再び合流すると言った流れだ。
うん。俺たちは斥候みたいなもんだな。でもまあ、足手まといが居るよりは楽だろう。
準備を既に終えていた俺達は再び村に向かう。
村では、周りの警戒をモーザに任せて、まずはユピーの目的の品物を探しに行く。と言っても子供たちが住んでいた大きめの建物にはユピーとメイセスの2人で入っていく。その間俺たちは外を警戒する。
村はある程度計画的な規格を元に作られているのだろうか、きっちりと升目上に建物が並んでいて村としては不思議な光景だ。おそらくこの島に入植して、過去の勇者の計画を元に村の整理もしていったのだろう。
ただ、それでも似たような建物が並んでいるわけではない。入植して200年もあれば当時の建物など残っていないだろうし、順次建て替えが行われ今のような状態になったのだろう。
やがて1つの人形を抱えたユピーが出てくる。ボロボロだが、子供のお気に入りってこういうのなんだろうな。俺も子供の頃カンカンだかランランだかどっちかの名前が付いていたボロボロのパンダのぬいぐるみをいつまでも大事にしていたと親から聞いた。俺が噛むものだから臭いし穴が開くしで、捨てたいのにどうしても俺が抵抗していつまでも持ってたという。ほぼほぼ記憶には無いが、子供というのはそういうなにかに執着する事があるのだろう。
人形を回収した俺達はそのままメイセスの案内でオゾン号を目指した。
村の門はものの見事に破壊されていた。アンデッドのイメージだと知性があるように思えないのだが、一点集中で狙ったように壊された門にただならぬ不安を感じる。
オゾン号にはそこからユピーの足で3.4時間ほどかけて歩き、日がだいぶ傾いてきた頃ようやく着く。その間に魔物と出会うことは無かったが、アンデッドだけに日中の遭遇率は少ないらしい。先程のフォレストウルフとの遭遇も日を避けたのか、建物の中に居た個体がユピーに気が付き襲ってきたようだ。
やがて森の切れ間からオゾン号が見えてきた。
※ストックは無いんですけどね。明日はアップしたいなあ~ なんて思ってますが。 週末更新ダーになったりしてw
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