第265話 勇者の村
夜の間に島まで着いた船は、事故を避けるため明るくなるまで岸から離れた所に停泊していた。
「これは、ここで錨を下ろして船で上陸する感じかな?」
「いえ、港が整備してありますのでこのまま入港する予定です」
「へえ、港かあ。お、たしかに2隻停泊してるね」
「え? 2隻……ですか?」
確かに港に2隻の船が停泊している。桟橋っぽいのが2つあるから……どうにか3隻目も入れるのだろうか。メイセスはなぜ2隻あるのかわからないと言った感じで、必死に望遠鏡を覗いている。
「確かに……よく見えますね」
「遠く見えるスキルあるからね。他にも漂着した人が違う勇者見つけてアンデッド退治に来てるとか?」
「え? ……それなら良いのですが、あれは……商船ですね」
「商船? ああ。一応商船が来るようになったって言ってたな」
あ、俺は目の関係のスキルが増えてきてとうとう<慧眼>なる統合スキルになっているんだ。<慧眼>は、<魔力視><速視><察視>の3つのパッシブスキルと、<適視><千里眼>の2つのアクティブスキルという5つの視力系のスキルが詰まってる統合スキルだ。そのうち<千里眼>というのが遠見の効果を持ったスキルで、まさに望遠鏡要らずだ。
入港時は帆を降ろしているため、また俺たちは魔道具室へ行き推進魔道具へ魔力を注ぐ仕事を任される。出港時と違い、ぶつかったりしたら大事故になる。伝声管から伝わる船長の支持に従い、じっくりと、ゆっくりと港へ入っていく。おかげで港の様子が見れないが、がまんだ。
『よーし。魔力を切れ。よし。よし。ちょっとだけ逆推進だ』
船には逆方向の、いわゆるブレーキ的に使うような魔道具もある。それで逆推進を掛けて、ようやく船は港に停泊した。
「もう帰りもショーゴにまかせて大丈夫そうだな」
「って、ナバロさん。僕は今初めての魔道具が楽しくてやらせてもらってるだけっすからね。帰りはもうやらなくても大丈夫っすよ」
「おーい。俺なんかより魔力量も多いし、使わなければ勿体ないだろ?」
「いや~。まあ。足りない時はいつでもお貸ししますけどね」
うん。仕事が出来すぎると余計な仕事を呼び寄せてしまうのは今も昔も異世界でも同じようだ。
さて、それでもいよいよ大地に足を降ろせるというのはなかなかに楽しみだ。俺とナバロで軽口をたたきながら甲板に出る。
ん?
歓声でも湧いているのかと思ったが、甲板の上は少し緊張感でピリピリしている。教会から派遣されたプレジウソが厳しい顔で隣に停泊している船を見ている。「やはり……」そんな言葉を呟いていたが、なんか有ったのか。
「あ、みっちゃん。どうした?」
「なんか村の様子が変だって、メイセスさんがなんか顔色を変えて飛び降りていったの」
「様子が?」
ん? プレジウソが隣の船を見ていたからそれに問題があるのかと思ったが、村の方なのか。
港は村の外れに設置してあるような感じなのだろう。甲板の上からも村の建物が見えるが、確かに破壊されているような建物も見える。襲撃のある村のように煙が立ってるわけでも無いが、それが数ヶ月前なら……。
「モーザ、ミドー!」
俺は2人に声をかけると船から桟橋に飛び降りる。只事じゃないのを感じたのかミドーもシールドを荷物から出してくる。
「みっちゃん。ハーレーも起こして、こっち来るように言ってくれ」
「分かった!」
「フルリエとジンは、船の安全を」
「はい」
ハーレーは航海中、船の倉庫の一つを占有してずっと眠りこけていた。食事をどうしようかと悩んでいたら本人は休眠するといってずっと寝ていた。冬眠みたいなものなのだろうか。
桟橋へ飛び降りて村の中の方へ走っていく。すぐにモーザとミドーもついてくる。「ワシもいくぞ」と、ゾディアックも甲板へ飛び降りてくる。
港の左側には石垣のようなものが連なっているのが見える。おそらくグルっと村を囲うように続いているのだろう、俺は右側の村の中心部と思われる部分に向かって走っていく。
ハッ ハッ
全力で走るとすぐにメイセスが見えてくる。そしてメイセスの前には……フォレストウルフか? 見慣れたような魔物が数頭、牙をむき出して威嚇している。それに対してメイセスがウィンドカッターで攻撃をしていた。
ん?
結構弱い魔物代表のフォレストウルフだが、予想以上の俊敏さでウィンドカッターを避ける。いや。完全に避けきれてないか、体に切り傷が刻まれる。
「メイセス!」
「気をつけてください。こいつらがアンデッドです!」
アンデッド? 確かに魔法でパックリと斬られた所からは出血もない。それどころか何もなかったかのように反撃をしてくる。俺はつい癖で、フォレストウルフたちに<ノイズ>を仕掛けるが、これも全く効果が無い。
くっ
飛びかかってくるフォレストウルフを避けながら胴を真っ二つにする。
ガウゥルルルル!
うわ……体を真っ二つにされたフォレストウルフが前足だけでこっちへ向かいながら牙をむく。俺はその異様な光景にドン引きして、後ずさりする。
「頭を潰してください!」
メイセスが怒鳴りつけ、完全に引いている俺を余所にモーザの槍が螺旋を描きながらウルフの眉間に差し込まれる。
「珍しいな。ショーゴ。ビビってるのか?」
「あっ……ぜ、全然! ビビってねえよっ!」
「そうかい。じゃあ、とっととコイツラ潰すぞ」
そう言いながらモーザは違うウルフに向かう。くっそ。モーザめ。負けてられねえ。アンデッド化したことで強さは多少は上がっているようだが、俺たち5人もいれば5分もかからずアンデッドたちを始末する。
そしてメイセスは魔物が始末されたのを確認するとすぐに横の家の戸を叩いた。
「ユピー。大丈夫だ終わったよ」
戸に向かって声をかける、しばらくすると戸が開けられ1人の少女が顔を出す。
「ああ! メイセス様っ!」
少女はそう言うとメイセスに飛びつきギュッと抱きつく。少し興奮もしているのだろう。メイセスは少女が落ち着くのを待って声をかける。
「これは一体どうしたんだ? 皆は?」
そうメイセスが尋ねると、少女は顔を曇らせ下を向く。周りを見渡すが、他に人間の気配は感知しない。モーザに聞いても、特に察知に引っかからないようだ。
『モーザぁあ~』
ようやくハーレーもやってきた。もう終わってるけどな。やれやれといった感じで俺たちはハーレーの方を向くが、ユピーと言われた少女にとっては巨大なドラゴンが唸りながら走ってくるのだ。「ヒィ!……」と絶望に近い声を漏らし固まってしまう。
「ユピー。ユピー。大丈夫。このドラゴンは危険じゃないよ」
「だっ……でっ……でもっ……でもっ」
「もう安心して、大陸で竜騎士様と出会えたんだ。ほら。彼がこの竜の主人だよ」
「えっ? 竜……騎士?」
呆然と、ショックから立ち直れていないユピーだが、メイセスの落ち着いた語りに少しづつ状況を見つめ始める。メイセスはユピーに色々と聞きたいようだし、ユピーもメイセスに色々話したいことがありそうだ。とりあえず一旦船に戻ることにした。
※ちょっとづつ頑張ってますよー!
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