第217話 トゥルの依頼 19 ~山の集落~

 ん? 俺たちのことだよな? 話しかけてきた竜の方を向き質問に答える。


「いや、俺達はゲネブっていうもっと街の方から来たんだ。まあ端の村は通ってきたけどな」

『なるほどなあ。ゲネブかあ。知ってる知ってる』

「え? ホントか? ここから出たこと無いんじゃねえの?」

『何を言ってる、おでは産まれて200年くらいだけどな。竜は親の知識とかがずずっとつながっていくんだで。色んな事をしってるんだ。馬鹿にするな』


 なるほど、遺伝情報で知識を共有しているような物なのか。知識は数千年あってもコイツの知能は200年くらいなもんだろうけどな。なんか話し方が駄目っぽい。


 それじゃあ。と村に戻ろうとすると竜が更に話を続けてくる。


『オデはアース・ドラゴンの幼体だべ。こっちで成体になったら向こうにいくんだ』


 なんか、何をいいたのか分からないが、自分は大人になったら山脈の向こうで巨人と戦うんだぞって自慢をしたい感じなのだろうか。しょうがない少し話し相手をしてやるか。


「へえ200年でまだ幼体なのか?」

『え? い。いや違うど。おではアース・ドラゴンの成体だで』

「いや、どっちだよ」


 ううむ。やっぱロッソとかと違ってここは子供の遊び場なんだろうな。まあ子供の相手はそこまで嫌いじゃないんだが……腹も減ってきてるんだよな。



『よし、じゃあお前と契約してやる』

「は? 契約?」

『龍様の眷属達は龍様の加護を持ってる人間と主従契約を結べるんだで』

「いやそれは聞いてるけど、じゃあ契約を結べば俺の騎獣みたく従うのか?」

『お? 従わねえべ。友達になるんだで』

「いや、今主従契約って言ったじゃねえか」

『それは言葉のアヤだで。お前はいちいち細けえな。よし手を出せ』

「……いや、まあ良いや」

『なんだど? どういう事だ?』」

「だってお前飛べねえだろ? 俺飛ぶドラゴンが良いや」

『……俺だってお前とは契約しないって決めてたで。ずっとそう思ってただで。横のお前と契約するだで』


 突然モーザに振られる。モーザはまだドラゴンの言葉を理解できていることに脳がついていってないのか、それとも竜の巨体に圧倒されているのかキョドっている。


「……え? 俺?」

「そうだ。手を出せ。おでの額に手を当てろ」

「お? 手?」


 モーザは言われるままに首を低くしたアース・ドラゴンの額に手を当てる。


『それでええ。……お前の名前はなんつうだ?』

「も、モーザだ」

『よし、龍の加護を持つ人族のモーザと、アース・ドラゴンたるはーれしゅ※ふぁ☆る♯をっが契約するだ』


 そう竜がつぶやくとモーザの手の触れている辺りがホンワカと光る。それもすぐに終わると、竜は満足したようにウンウンと頷いている。


 モーザは茫然自失といった感じでぼーっとしてる。でもこんな簡単に契約できちまうのか。そばに居た女性たちが「おめでとうございます」と祝福の言葉を述べているが……モーザはまだ状況を理解できていない感じだ。


「それにしても竜の名前ってやつは発音しにくいなあ」

『なんだと。おでの名前を馬鹿にするのか? お前嫌いだ。なあ。モーザ』

「え? いや俺も発音できねえよそれ」


 するとみつ子が「ハーレーで良いんじゃない?」なん適当な言葉を挟む。だが竜はその名前を気に入ったようだ。『それで良いそれで良い』なんて嬉しそうにしている。


『モーザとハーレーはいつも友達だな』

「お、おう……」



 流石に腹が減ってきたのでハーレーとは分かれ、ようやく村に戻る。なんかハーレーが付いてこようとしていたが流石に止(や)めてもらう。渋々と群れの中に戻っていくハーレーを見てなんとなく俺じゃなくてよかったなんて思ったりするが。モーザの方は「お、俺が竜と契約を……」などと呟いている。嬉しそうでよかったぜ。




 昼飯は例の集会所的な場所で振る舞われる。と言っても建物の外にデカイ焚き火が用意され肉塊を豪快に焼いていた。


 出来上がるまで建物の中にどうぞと招かれると、入って早々に昨夜俺が加護の人間じゃないといった後の、お酒を仕舞ったりした対応を平謝りされる。しかし事実だから謝られるわけにも行かない。むしろ美味しゅうございましたと俺も必死でお礼をする。


 どうやら俺が普通に竜と会話をしているのを伝えられて、やはり冥加の方じゃないかと言う流れになったような気がする。


「しかし、来て早々に竜と契約をするとは流石ですな」


 話を振られたモーザは、まんざらでも無さそうに「いえ、そんな」なんて返事をしてる。どうやらハーレーは以前にも加護の人間と契約を持ちかけたらしいのだが、その時にもう一匹翼竜が同じ様に契約を持ちかけ、そちらが選ばれたために契約出来なかったと言う経緯があるらしい。やはり竜に乗るってのは大空を飛びたいものだしな。特にこんな山の集落では飛べないとキツイんだと思う。


「竜ってのは何頭かと契約できるんですか?」


 そう尋ねると、出来ないと言われた。と言うより1頭の竜と契約するとそのどちらかが死なない限り契約も無くなることが無いとも……やっべえ。モーザには言えないが助かったわ。ナイス俺だわ。


 それから契約した竜を連れて外界に行くことも問題ないらしい。というよりそういう事が起こったことが無いのと、竜の自由意志は常に尊重されると言うのが理由だ。


 そしてもう1つありがたいことがあった。


「竜と契約し、下の街に連れていかれるのであれば果物の苗をお譲りしましょう。ただ、果実が生(な)りましたら必ず竜に奉納していただくことを約束をして欲しいのです」


 それにはトゥルも了承した。


 おおお。なんだなんだ。いきなりいい感じで話が進んだじゃないか。ハーレー様様だったりするのな。


 昼飯は大量の肉を村人総出で食べるような感じになった。屋外でバーベキュー的に久々の肉を楽しむことに。





 なんか色々してもらって負い目も有り、ちょっと壊れた氷室というのを見せてもらうことにした。氷室は終の壁の村側に開いている洞穴を利用して作られており、洞穴の入り口を木の扉で閉じれるように成っていた。


「コレです。このコアの部分が湿気で腐ってしまって中の回路が露出してしまっているんです」


 確かに石壁にはめ込まれた木板がだいぶひどい状態に成っている。エルフの集落で買ったコアもそうだが、魔導回路は基本他人に真似されないように2つの板の間にはめ込み、外すとグチャグチャになって回路構造を見れないようにしてあるらしい。


 見ると家の氷室もそうだったのだが木板のサイズが同じ様な大きさなんだ。確かエルフの婆さんが作ったやつもサイズは同じだなあと思った記憶がある。俺は持ってきた携帯氷室のコアの板を外しサイズを見てみると問題なく嵌りそうな感じがする。


「ちょっと交換してみますね」


 そう言って古い板を外し、携帯氷室の板を嵌める。うんバッチシだ。下についてる魔石ボックスの中を確認し古い魔石を新しいのに交換する。


「コレで此処に置いてある肉が明日にでも確認して凍っていたらまた使えそうですね」

「ショーゴ様……ここまでしていただいて本当にありがとうございます」


 シーンもこれが上手く行けば肉の保存も出来ると期待感を膨らませていた。

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