第216話 トゥルの依頼 18 ~山の集落~
竜の近くには、3人の女性が竜に果物を与えていた。近くには2人の小さい子供がウロチョロしている。
あれ? あの子達って黒目黒髪か? ていうか双子なのか。
確かにまだ、ようやく歩き始めたという感じだが、これだけ小さい子を平気で竜の近くに居させるのをみると、たしかに竜はあまり危険じゃないんだろうと感じた。
だが、結局ある程度の距離で竜の威圧感に負けて、サクラ商事の子供たちは「ここら辺でみてます」と少し離れた所で足を止めた。俺とみつ子とモーザの3人で竜に近づいていく。果物を与えていた女性たちも俺たちに気がついて振り向く。俺たちを案内してくれた子供たちはわっと女性たちに近づき、果物を受け取ると竜達に渡し始める。楽しそうだ。
「おはようございます」
声を掛けながら近づくと女性たちも答える。黒目黒髪の双子は男の子と女の子の2人だった。てことは二卵性か、それでも2人とも黒目黒髪ってのは面白い。
ん? なんとなく竜たちが俺たちの方に気を取られている。案内してくれた子供たちが差し出す果物にもあまり興味を示さずにコッチを見ている感じだ。……俺じゃない? 龍珠か?
『あれ? その珠なんだあ?』
『なんか温かいね?』
『なんだろうこれ~』
気がつくと周りを竜に囲まれていた。デカイしビビるが喋る言葉を聞いていると確かに子供っぽい。龍珠から何かを感じるようでクンクンと匂いを嗅いだりするやつもいる。流石にモーザも引き気味だが……そういえば。
「モーザ。竜たちの言葉わかるか?」
「え? ああ……そう言えば……マジか……これ他の奴らは聞こえないのか?」
「ああ、多分そうだ」
やはり解るか。よし。これでモーザの龍の加護説は実証されたか。俺も解ってしまうので、わからない人の聞こえ方というのがちょっと理解できないんだが多分そうだろう。
女性たちも子供たちも、突然竜に囲まれているのをみて驚いている。竜をかき分け女性に近づいて行く。
「すいません、俺たちも果物あげてみたいんで、もらっていいですか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
籠から桃っぽいのを3つ取り出し、みつ子とモーザにも1つづつ渡す。果物ごと手を噛まれないかちょっと不安だったが竜は器用にパクリと食べる。おおお。なんか可愛い。
「キャー。省吾君。やばいよ。チョー可愛い」
みつ子もなんかすごいドハマリしている。お、そうだ。忘れないうちに……
「なあ、お前ら。村の人達が肉を食いたいんだってさ。ちょっとそこら辺行って魔物の肉狩ってきてくれないか?」
『魔物? 肉?』
『良いよ。持ってくるよ。肉持ってくる~』
声を掛けると、周りに居た竜たちがテンションを上げてバサバサと飛び立つ。ていうか。いきなりコレは止めろって。突風で俺たちが吹き飛びそうになる。
……突風が終わる頃には辺りの竜はあらかた飛んでいってしまった。
「お肉ですか? ありがとうございますっ! あ、もしかしてシーンちゃん?」
「え? 解るんですか?」
「ふふふ、あの子お肉好きですからねえ」
「ははは、途中で手に入れたお肉を上げたら喜んでいましたよ」
「まあ、申し訳有りません。でもやっぱり冥加の方はすごいですね、皆一斉に肉を取りに行ってしまいましたよ」
「竜って言っても皆子供ですからね~。食べれない量を持ってこられても困るのに……」
飛び立たないで居座り続ける竜もいる。だけど……あれか? そういう竜は皆退化したような小さな翼を付けているのが多い。もしかしたらグランドドラゴン的なやつなのかもしれないな。
「それにしても、あの大きい体で果物だけで足りるんですか?」
「え? ああ~。果物はあくまでもおやつ代わりですね。普段は自分たちで勝手に狩って食べたりしてますよ」
「なるほど。ですよね」
竜について色々質問してしまう。やっぱ不思議だからな。確かに羽の小さいやつはグランドドラゴンらしい。土竜ってやつか。完全に羽のないのも居る。ただそういうのも自分で狩りはしに出かけたりするらしいのだが、山を登ってくるのが少し大変らしく、仲間が取って来た獲物を横からつまみ食いしたりする事もあるようだ。
それから黒目黒髪の子供だが、まだ2歳ということで竜との会話もまだ出来ていないそうだ。最近なんとなく言ってる単語を拾うようだが……。
「そういえば、以前に居た黒目黒髪の人が竜に乗って端の村に来たりって話を聞いたけど、そういうのってお願いすれば乗せて貰えるんですかね?」
「それは冥加の方が竜と契約をするという話を聞いています」
「契約?」
「はい、竜といっても子供ですので、普通に乗せてもらっても割と自由に飛び回って落とされちゃうらしいんです。契約することで竜との間に意識のつながりが出来て、自由に動きをコントロール出来るのだと」
「ほほう……それってどうやって?」
「良くは分からないのですが、そういう相性が有るみたいで、竜の方から契約を持ち出すとか」
ううむ。好きに気に入ったやつと契約って訳じゃないのか……。
そんな話をしていると、狩りに行っていた竜たちが少しづつ戻ってくる。俺達の前にドサドサと持ってきた獲物を落としていく。見ているとガゼルの様な岩山に住んでいそうな魔物が多い。ホーンドサーペントまで一匹混じる。まじでこいつら魔物最強なんじゃね?
おおおお
おおお?
おい……持ってきすぎだぞ?
『ホント、ガキはこれだから困るで。おでが少し減らしてやるで』
一匹の割と大きいグランドドラゴンが突然近づいてきて、魔物の山に顔を突っ込むと、一匹の魔物を引きずり出しその場で食べ始める。
グチャグチャと食いつくその姿はなかなかエグい。まああっという間に飲み込んでしまうのだが、するともう一匹を取り出し再び食べ始める。
まあ、大量過ぎだからな良いんだけどさ。
果物を配っていた女性や、奥の方で糞を集めていた男性まで一緒になり魔物たちの血抜きを始める。そういえば、ウチの子達はあまり魔物の解体とか慣れてない気がするな。そう思い遠くで眺めていたフォルやスティーブを無理やり呼び寄せ解体作業を手伝わせる。それでも多すぎる魔物に、他のグランドドラゴン達に分けてあげようという話になり、モーザに声を掛けてきてもらう。
実際モーザにも竜と会話をしてもらいたいってのが大きいんだ。モーザは少し躊躇していたが、目の前で食事中の竜に声を掛け見てることにしたようだ。
「わ、悪いが他のドラゴンで、魔物を食いたいのが居たら少し食べてもらってもいいか?」
『お? わかっだ。おめえ優しいなあ。おでが持ってってやるで』
そう言うと1噛みで5匹程の魔物を咥え、奥に居た竜の所に運んでいた。まあ、こんなもんか、あまり大盤振る舞いすると人間の食う分が無くなるかもしれねえからな。
近場に大きな木が1本しか無かったからしょうがないのだが、その大木の枝という枝から逆さに吊るされ血抜きをしている魔物が大量にぶら下がってるのは正直ホラーだ。
やがて話を聞いたのか、村から荷車などを引いた男たちがやってきて次々と魔物の肉を運び出す。村の氷室は壊れているらしいが、終の壁にある洞窟を使ったものらしく周りより少し涼しいから少しは日持ちをするだろうということだ。後は干し肉などに加工するという。
昼飯を食べませんか? と一度村に戻るようにと声を掛けられたのでそろそろ俺たちも戻ることにした。
『おめえたちは端の村からきたのかあ?』
戻ろうとした時だった。先程つまみ食いをしていた竜が声を掛けてきた。
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