第215話 トゥルの依頼 17 ~山の集落~
部屋に戻ると、みんなモゾモゾと起き始めていた。
「ショーゴ。どこ行ってたんだ? ん? お前飲んでるのか?」
「おおう~ ちょっとだけな~ ちょっとだけ~」
「たくっ。結構飲んでるな?」
「ははは~。よし。あとはモーザに任せたっ!」
「ん? 何をだよ」
「ううん。まあ。ちょっとだけ寝る~」
「お、おい」
寝具を掴むと、奥の部屋に向かう。目を覚ましぼ~っとしているみつ子に1時間だけ寝させてとお願いし、部屋の中で目を閉じた。
……
……
ふむ。やはり<強回復>は素晴らしい。二日酔い的なのも出ず目を覚ます。リビングに戻ると既に皆起きてリラックスして話をしていた。どうやら、俺達の転生の話をみつ子から説明を受けていたらしい。モーザが妙に優しげに話しかけてきて気持ち悪い。まあトラックに轢かれたっていってもな、痛みの記憶もないし何の問題もないんですよ。
「いや、そうことじゃないだろ。みつ子だって辺境の森で目を覚ましたらいきなり野盗に襲われて、隊商が通りかからなかったら今こうして生きているかなんて分からなかったって言うじゃねえか?」
「え? ああ……」
「スキルも魔法もない世界からいきなり連れてこられて、手持ちの金もなく、よくゼロから冒険者としてここまでやってこれたよな……お前だって同じだろ?」
「えっと……いや……」
ぬ。そう言えば俺と違ってみつ子はアルストロメリアに入るまでだいぶ苦労したって言ってたしな……。だが俺は……。
「いやまあ、正直俺は転生してすぐに裕也に会えてさ。戦い方もきっちり教えてもらったし、裕也に剣も防具も最高のを揃えてもらえたし、魔法も買ってもらって始めたからさ。あ、でも裕也のシゴキはメチャクチャキツかったんだぜ? もう本当に死ぬかと思うくらいで……え?」
あれ?
寝起きできっと正常な思考が出来ていなかったに違いない。どうやら空気を読み間違えた発言をしてしまったようだ。
やべえ。
みつ子の苦労話を聞いて思わず目に涙を貯めていたらしいショアラが表情のない顔で俺の方を見る。いや。ショアラだけじゃねえ。モーザもフォルもスティーブも……トゥルまでなんとなくシラけた目で俺を見てる。
「え? 俺が悪いの?」
「悪くは……ねえが」
でもさあ。俺だって苦労したんだぜ? みつ子と違って黒目黒髪だったしさあ。なんて事を言える空気じゃねえな。
追い詰められた空気を排出してくれたのはシーンだった。数人の女性が朝食を持ってやってきてくれる。昨日の晩に食事をしないで皆寝てしまったため、皆かなり腹が減っていたようだ。意識が自然と食事の方に向く。
「省吾君……」
「あ、うん。まあみつ子が苦労したのは本当だし」
「別に言わなくていいのにさ。損な性格だよね。でもそういうの嫌いじゃないわよ」
朝食はとても質素なものだったが、流れ的に自分たちが普段食べている物よりお客様用に無理をしている事も考えられる。贅沢は言っちゃいけねえよな。
硬めのパンをムシャムシャと食べていると、村の説明などもしてくれる。竜の子供たちはもっと山脈に近い岩肌にデカイ洞穴の様なところがありそこに何匹も居るらしい。見に行っていいかと聞くと問題ないとの事だった。
「もし竜の子達にお願いできるようだったら、少し肉を取ってきてもらうようにお願いしてもらってもいいですか?」
「ん? ああ、そうか魔物が近くに来ないなら肉類って竜が取ってきたりしないと無いですもんね」
「そうなんです。冥加の方が居るときはそういう心配は無かったのですが……今でも竜たちとの共生関係はあるのですが意思の疎通が出来ないのでそういったお願いが出来なくて」
「じゃあ、ずっと野菜生活を?」
「いえ、近くに魔物がやってきた時とかに気まぐれで魔物の肉を採ってきてくれる事はあるのですが、数ヶ月に一度くらいで特に氷室の魔導回路がもう壊れているので保存も干し肉とかになってしまうんですよ」
「なるほど……」
うん。でもまあこういうお願いとかをなるべく対応して心象を良くすれば果物の苗とかも貰えるかもしれないしな。後で行ったら交渉してみよう。……と。携帯氷室いっぱいにロック鳥の肉が有ったなあ。
「そう言えば、来る途中にロック鳥を仕留めたので、その肉ならいま少しあるんですがいりますか?」
そう言うとシーンさんはパッと目を輝かす。ああ……この目。肉に飢えてるな。氷室を手元に引き寄せ蓋を開けると他の女性たちも嬉しそうに中を覗く。全部あげますよと、そのまま持っていって貰うことにした。
食事が終わると、皆で竜でも見に行こうかと言う話になる。そりゃそうだ。竜が安全に間近で見れると言うなら見てみたいのが人の子だ。
村の中を歩いていくと通りがかりの村人達が皆笑顔で挨拶してくる。俺たちも愛想よくそれに答えながら歩いていく。そのうち数人の子供たちが縄跳びのような事をして遊んでいるのを見かける。と言っても縄でなく蔦のようなものを使っていたが、大きめの少年2人が綱を回し、小さい子たちがピョンピョンと飛び跳ねている。なかなかやり込んでいそうで上手い。
子供たちが俺たちに気がつくと、わっと集まってくる。こういう距離感の近さが子供なんだろうな。
「こんにちはー」
「おう、元気に遊んでるなあ」
「お兄ちゃんたちどこに行くの?」
「竜の子供たちを見ようと思ってな」
「場所わかる? 僕たちが連れてってあげるよー」
「まじか? おお。たすかるなあ」
子ども達に先導されて山の方に向かう。思った以上にこの村の敷地は大きいようだ。建物が立ち並ぶ住宅のゾーンを過ぎると今度はたくさんの木々が立ち並ぶ場所を通っていく。綺麗に計画的に植樹されているような木々には沢山の実がなっており、ここで竜の子たちに与える果実が作られているのだろう。何人か収穫している人の姿も見える。なんか長細い葉っぱといい、見てみるとなんとなく桃っぽい。
「コレが竜の子たちに上げる果物なのかい?」
「そうだよ。あと他のところでも作ってるけとそっちは違うやつ」
おお、一種類だけじゃねえのか。どっちかだけでも分けてもらいたいよな。
「コレは一年中実がなってたりするの?」
「え? お兄ちゃん何にもしらないんだね。実がなるのは今の季節だけだよ」
「はっはっは。そうだよな~。一年中取れたらおかしいよな~」
「そうだよ。普通そうでしょ?」
ほほほほ。子供は容赦ねえわ。
トゥルもだいぶ嬉しそうに果物を眺めている。やっぱり下界じゃ見かけない果物なんだろうな。
果樹園を過ぎるとようやく洞窟と思われる穴が見えてきた。うんデカイ……ていうか超でかい穴だ。その中や、周りにドラゴンと思われる個体が何頭もだらけたように寝転がっている。思った以上に居るな。
って……あれで子供? 結構デカイぞ?
トゥルやフォルがそのデカさにビビり足を止める。いや。その気持ち超わかる。調教されているから大丈夫だって言われててもライオンの頭を撫でるとか普通無理だろ? そんな感じだ。
「兄ちゃんたち。大丈夫だよ。取って食われるとか無いから」
子供たちは竜にだいぶ慣れているのだろう、ビビって足を止める俺たちに声を掛けて促してくる。
うん。大人として気合を見せなくちゃな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます