第42話 狩り欲求とマンドレイク
朝、ホテルに鍵を返しながら、もっと冒険者として成功したらまた来ますから! とフロントマンに宣言をしてホテルを後にした。
ギルドであまり遅くならない依頼がないかと見る。今日から宿無しだからな。宿とか探したいんだよなあ。
依頼を見ていて気がついたのだが、実は低ランクの依頼にも討伐依頼はあったんだ。畑を荒らすグランドモールと言う魔物の討伐、隣で見ていた低ランク冒険者に聞くとこれは常設の依頼で依頼を受けなくても良いらしく、農業系の依頼を受けている時に見つけて討伐したら一匹10モルズ貰えるという物、このグランドモールと言うのは話的にモグラの様なモンスターらしくこれを狙って……というと中々見つからない物ではあるらしい。
もう一つが、スライム。これは討伐と言うより捕獲。コチラは依頼を受けたら街の下水管理団の所に行き捕獲用の樽を借りて町の外の海辺の方に行って捕獲するらしい。異世界あるあるの下水をスライムに処理させると言うシステムがここにもあったんだなあ。
他の討伐依頼と違って副産物で魔石が手に入るとかはないので旨味も微妙なのだが、領主依頼と同じ扱いで公共的なものとなり、手数料は指名依頼と同じく1割引きになるため依頼が出ると受けるスラムの子たちがいるらしい。
しかし、公共系は役人達が絡むので、スパズの扱いが厳しい予感がしてしまう。受ける気はあまり無いかも。
……たまには狩りとかしてえなあ。
ふと隣の中ランク向けの掲示板にどんなのがあるかと見ようとするが、混み合ってて見にくい。くっそ、もうちょい背が伸びてくれないかな。後ろから背伸びをしながら見ようとしていると気になる会話が聞こえてきた。
「なんか、カポの集落の辺りでトロールっぽいのを見かけたって言う話だぜ」
「ホントか? じゃあマンドレイクは辞めておくか。最近相場が上がってたから行こうと思ってたんだがな」
「まあ、ホントかわからないけどな、アジルたちが行ってみるって言ってたぜ」
ううむ……トロールかあよく聞く名前だな。大きくて力持ちって感じか。
「すいません、トロールって強いんですか?」
「ん? DからCって所だな、安定して狩れるならCランクは欲しいかな」
「よく出るんですか?」
「よくは出ねえが、ん? お前スパズの新入りか? Gランクじゃ討伐出来ねえだろ?」
もう、ホント冒険者の皆さんはガサツで口が悪いですねえ。
「スパズは辞めてくださいよ、傷つきますよ」
「ん? なんで傷つくんだ?」
「だって好きで黒目黒髪に産まれた訳じゃないんですよ?それを古い差別用語をいつまでも使われて、そんなのどうしようも無いじゃないですか。きっと産まれた瞬間に黒目黒髪だからって死産扱いにされちゃって処分された赤ちゃんだっていっぱいいると思いますよ」
「いや……うーん……そうか」
「僕も家出するまでは、親が隠してずっと家から出してもらえませんでしたからね」
「う、ううむ、じゃあなんて言えば、お前名前は?」
「省吾って言いますよ。よろしくおねがいしますね」
よし。基本冒険者はあまり学があるやつは少なそうだからな。心が腐ってなければ割といけそうだ。特にこういう差別は田舎と比べて都会だと薄れる傾向があると思うんだよな。その冒険者と話していた他の冒険者もなんとなく解ってもらえたっぽくてちょっと嬉しい。
でも……いろいろ考えていたらダブルブラックはかっこ悪い気がしてきて口にできなかった。
カポの集落は、東門から森の方に向かう街道沿いにある集落らしい、集落と言われる場所は龍脈溜まりも控えめで村を作れるほどの大きさが無い場所になる。簡易的に誰でも寝泊まりしていい寄合小屋という物があって、その先の村への移動時の休憩や近くにマンドレイクの採集や狩りに来た冒険者達の宿泊に使われているらしい。集落でも更に小さめで寄合小屋と警備団の詰め所がある程度の集落だとのことだ。
話的にウーノ村から裕也の小屋くらいの距離っぽい。
それにしてもマンドレイクか、たしか、別名マンドラゴラじゃなかったっけ、引き抜くと叫び声を上げてそれを聞くと死んじゃうとかじゃなかったかな。異世界物じゃ定番の植物。叫び声が即死魔法の類なら、ノイズで体囲めばなんとかなるんじゃね?
とりあえずこの世界のマンドレイクが全く別物だったら厳しいからな。調べたいのだが。
再び、先ほどの冒険者に聞いてみる。
「マンドレイクの事を調べたいんですが、そういうのって何処で調べれば良いんですか?」
「ん?ギルドの2階に資料室があるぞ。そこのラウンジの奥に階段があるから」
おお、資料室か。大事だな。ていうかラウンジ? 奥の方にテーブル席が2セットほどあるが、ラウンジっていうんかね。あそこ。
冒険者にお礼を言って、ギルドの2階に上ってみた。
階段を上るとまっすぐ廊下があり、両側に何部屋かあるらしくドアがあるが、その中の小さめな部屋が資料室のようだった。ドアを開けようとすると中にそこそこの気配を感じる、まあ他にも調べ物をする人は居るだろうからな。
ドアを開けるとすぐに小さな受付があり、そこにいつかの栗毛の子が据わっていた。ああ、解った。ぴんと来た。ここにいる他の冒険者はこの子狙いだな。そう考えると、なんだか皆可愛く見えるぜ。
「あれ? ショーゴさんどうしました?」
おお、俺の名前覚えてる。俺の黒目黒髪という容姿的な特徴はインパクト大なのかもしれないがこれは男心をくすぐる。
「あ、ちょっとマンドレイクについて調べたいと思って」
「ん~。駄目です」
「え?」
「低ランクの人がよく一攫千金を狙って色んな情報探そうとするんですよ。でもみんな死んじゃうんです。だからEランクにならないと資料室は使えないのです」
「いや、ちょっと後学のためにと」
「駄目ですよ。決まりですから。それにスパズで冒険者を目指している人は、みんな過去の勇者と自分を重ねてしまうんです。俺は違うって。でもそのせいで無茶して死んでいくんです。急がないでゆっくり進んでください」
「はあ……解りました」
たぶん、この子は駄目だなあ。ルールを盾にしながら、心配してもらってる感じもあるから強く言えないし。何となく、隙がねえ。
しょうがない、他の手を考えるか。
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