第43話 マンドレイク採集 1

 

 ギルドの資料室を断られたので、次に思い当たるのは商業ギルド。ビジター会員で何処までで情報貰えるかわからないが、取り敢えず聞いてみよう。


「マンドレイクですか? そうですね、少々お待ち下さい」


 こちらの方は割とスムーズに話が進む。特にマンドレイクの品不足で最近困っているようだが、マンドレイクの実際の取れる場所などは各冒険者の飯の種で在るため大まかな場所しか解っていないらしい。日本でもキノコの取れる場所などを人に教えないと言った話を聞いたことがあるが、そういうものなんだろう。


「今年は雨が少なくて、マンドレイクがあまり出ないようなんです。もし収穫出来ましたら買取は出来るのですが、かなり不作のようで」


 そう言いながら、簡単な情報しか書いてありませんが、と一冊の本を渡される。貸し出しは出来ないのだがロビーで読んでもらう分には構わないのでどうぞと言われ、ふっかふかの椅子に座って開いてみた。


 うん、確かに簡単だ。でもマンドレイクの図があるのは助かる。俺の知識に有るものとほぼ同じ様な植物らしいが、マンドレイクの叫びは魔法の類で間違いないようだ。レベルの高い魔法抵抗の強い者であれば耐えることは出来るらしい。しかし低レベルの者などは厳しいと。アンチマジックの魔法を使うことで安全に収穫は出来るらしい。俺のレベル15が低レベルなのかは判断がつかない所があるが、魔法ならやはりノイズで何とか出来そうな気がする。


 よく、ロープをかけて犬に引かせたりする話もあるが。それはとてもじゃないけどやりたくない。水気が多いところを好むようで湿地帯の周りとかにポツポツ生えるらしく、やはりゲネブ周辺ではカポの集落周辺が採取地として有名らしい。


 ……どうせホテル生活が終了したのだし、行ってみるか。寄合小屋で泊まれるというから一泊……保険で二泊分くらいの食料を見繕って行こう。


 受付の人にお礼を言って。本を返す。そうだ。図書館ってあるのかな?そう思い聞くと。


「図書館もございますが、貴族街の中にありますので一般の方は近づけないと思います」


 むむむ、本が高価なものなら当然なのか。


 野営用の保存食などを売っている店を聞き、商業ギルドをあとにした。



 保存食といっても、現代日本のようにアルファ米とかがあるわけじゃない。乾物屋のような店で干し肉、ドライフルーツ、ナッツ類、そんなものを買うくらいだ。あと大事な水は水魔法が刻まれた魔道具らしいが、やっぱこれは買わないと駄目だろうな。乾物屋の親父に魔道具がある店を聞き、次に移る。


 水の魔道具も何種類かあった。まず魔石を使うものと、持ち主の魔力だけで起動させるもの。魔石を使うものは大量の水を必要とするものだったり、元々魔力量が少ない人向けらしい。それから形状のタイプも二種類。ただ魔力を込めると水が出るだけの物と、水筒のような物に回路が刻まれていて魔力を込めると水筒に水がたまっていく物。高価な物はそれだけ水の出が良いらしいが、農業用だったりで携帯向きじゃない。出先での水分補給を考えれば水筒タイプの方が使い勝手が良いだろう。魔力量に不安はあまりなかったのと、魔石を使うタイプは少し高めだったので、魔石を使わない水筒タイプの物を買った。それでも2000モルズ弱はする。痛いが必要経費だろう。


 火をおこす魔導具も買いたかったが、取り敢えず火を使う料理をしなければ問題ないのでもう少しお金に余裕が出来てからにしようと思う。火打ち石とか有ればそっちでも良いのかもしれない。


 街を歩いてる時に気になった雑貨屋に寄ったが火打ち石のようなものは見つからなかったが、小さいスコップのような物を買ってみた。引っ張って抜けるとは書いてあったが土壌が固い場合などを考えての保険だ。


 やっぱ久しぶりに狩りに行くと思うとちょっとウキウキする。いやマンドレイクだから収穫か? でも外に出れば戦闘もあるだろう。もしかしたら俺は戦闘ジャンキーかもしれない。準備に飛び回っているとあっという間に太陽は天上に差し掛かってくる。確かにこっちの世界に来てから雨に当たったことがないなあ。雨季とか有るのか?


 後なんか見落としあるかな……大丈夫だとは思うが。

 まあ、考えてもしょうがないので昼飯を食べたら出発することにする。




 東門から出て石壁を過ぎ、しばらくすると道は森の中に続いていた。あまり広くは無いが裕也の小屋に繋がる獣道のようなものとは違って一応ちゃんとした街道になっている。<俊敏>の効果もあるのか、カポの集落と思われる場所には2時間ほどで着いた。裕也師匠が居ないとは言えもちろん全力だ。


 確かに、村と言うにはお粗末な集落で店や住民は居ないようだ。一応簡単な木の柵で周りを囲ってはあるが外敵から守るとなると心もとない感じで、一応囲いの中に石造りの簡単な砦のような物がある、どうやら警護の兵隊の詰め所になっているようだ。それから1軒の掘っ立て小屋のような物があり、恐らくそれが寄合小屋だろう。中を覗いてみると、誰も居なかったが日本で登山時に山小屋のように管理人が住んでいない避難小屋と言われる場所があるのだが、そんな感じの作りになっていた。


 買ったばかりの水筒に魔力を通し、喉を潤す。


 まだ時間も有るし取り敢えず周りを探ってみるか。革鎧をつけるのを忘れていたので、きっちりと装備を整え、取り敢えず集落の南側の方を散策してみることにした。



 ここら辺の森林は若干温暖な気候なのか殆どが広葉樹の様に思える。時期的に葉は青々としているが、枯れ葉も残る地面はフカフカとして頼りない。松茸や竹の子の様に葉の中に埋もれていて見落としたら嫌だなと思い、目を皿のように下を見ながらゆっくり歩いていく。


 それっぽい感じが全く無いなあ。もっと開けた所じゃないと無いのかな。ん?

 ふと上を見るとガサガサと木が揺れ木伝いに何かがこちらにやってきた。


 キキッ!


 叫び声と同時に、襲いかかってきたのは2匹のデカイ猿だった。


「おおおお!そりゃ、いるか。忘れてたっ!」


 猿は爪でえぐろうとフルスイングしてくる。必死に避けながら腰から剣を抜いて構えた。剣を抜くととたんに猿たちは警戒を露わにしてフーフー牙を剝く。なんか強そうだが。とりあえず攻撃は見えた。行けるな。


 猿の魔物は両側に分かれながら挟み撃ちにしようとしているようだ。俺も必死に場所を移動しながら位置取りを調整する。調整しながら微妙に2匹との距離をずらしていく。じわじわと1匹に近づいていき、もう1匹との距離を取るような感じで。


 今だ。


 数歩の距離を一気に詰め、1匹の猿に向かう。猿は腕を大きく振り攻撃してくる。それに合わせ腕を斬りつける。ジャストミート。腕の根元から斬り落とす。ギャー。斬られた猿はそのまま痛みに叫びながら転がる。すぐに向きを変える。慌ててこちらに向かって突っ込んで来ていた猿とは一足一刀の間合い。やはり猿は爪での攻撃がメインだ。同じ様に振るわれる腕をかいくぐり脇腹から斬り上げる。これは一発で致命傷になる。ふう。


「悪いな」


 逃げようとしていた猿に止めをさすと2匹から魔石を取り出した。


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