第44話 マンドレイク採集 2

 2匹の猿の死骸を前に佇む。

 ううむ。裕也のように狩った命を粗末にしないって言うのは解るが。マジックバッグもないし氷魔法もないし、俺には埋めるしか出来ないよな。


 ……この猿を食う気も起らないし。


 ちょうど小さいスコップを買ってあったので、穴を掘り出す。どうせなら大きい方が楽だったな。2匹分の穴と考えると結構キツイ。スコップに魔力を通してみると少し穴掘りが楽になった感じはあるが、面の小ささは否めない。程なくして埋め終わると、そこそこいい時間になってきてる。もうちょっとだけ走りながら探してみて、集落に戻るか。




 少し離れすぎたのか、ちょっと迷ったりもして集落に着くころにはだいぶ暗くなり始めていた。寄合小屋に向かうと窓から明かりが漏れ煙突から煙も出ていた。おや?誰か着ているのか?そう思い近づこうとすると<直感>が働く。すごい嫌な感じがする。


 ……


 なんか近づいちゃ駄目な気がする。

 まさか……狂犬でも来ているのか?


 こういう時は<直感>を信じよう。裕也から貰ったテントがあるからまあ何とかなるだろう。そう思い集落から光源などが見えないように、少し離れた街道のど真ん中にテントを設営して中にもぐりこんだ。龍脈沿いなら魔物の襲撃は無視して良いんだよな。たしか。



 テントの中で干し肉をむしゃむしゃ食べ、水で流し込む。ドライフルーツは詰合せの様な感じで色んな種類が入っているが、なかなか行けるかも。ただ、毎日だとこれはキツイな、やはり火をおこして温かいものを作れるようになりたいかも。


 食べ終わると特にやることが無いため時間を持て余す。


 時に寝とくか。


 それでも1日動いていたので、体は疲れている。水筒の水でタオルを湿らせて簡単に体を拭いてから光源を落とした。




 陽の光で目を覚ます。まあ、宿代が掛からなかっただけアリかな?何ていう思いもあるが寄合小屋で泊まれなかったのがちょっと残念だ。干し肉を噛みながらテントの外に出て体を伸ばす。


 こういうのはテントの設営より撤収の方が億劫に感じるんだよな。水筒で口をゆすぎ、指で歯ブラシの代わりにゴシゴシと汚れを拭う。そう言えばこの世界に歯ブラシはあるのかな。


 今日は北側を回ってみるか……イメージは森の少し開けた場所。水が湧いていたり湿地の様な場所が有ればその周りをさがしてみる感じでざっくりと方向性を決める。昨日のようにいちいち下を見ながら歩くんじゃ範囲が狭くなりそうだからな。


 ……よし。


 集落には近づかないようにそのまま森の中に入っていく。俺の体力的には森の中だと小走りくらいがやっとか。ザッ ザッ ザッ、とリズミカルな枯れ葉の音をさせながら散策を始める。


 途中休憩もしながら散策を続けるがいい感じの所が見つからない。途中一度フォレストウルフが現れたが、魔物もそんなに居ないようだ。


「まあ、そんな簡単に見つかるなら値上がりとかしねえか」


 あまり塩味の効いていないナッツをボリボリ食べて昼飯の代わりにする。完全に登山の行動食だな。このまま見つからなかったら明日も探すか? それとも一度帰るか。ちょっぴり弱気になってきた。


 ん?


 休憩しながらふと周りを見ると、裕也に教わった薬草が生えていた。まあ何にも無いよりはと少し刈り取って鞄に入れる。ポーションは薬草から作るのかな? 回復魔法から作るのかな? よくは解らないが、ポーションが高級なら薬草が使い所が無いわけはない。一枚口に入れて噛んで見ると、とても苦い。ぺっぺっ。


 裕也に塗られた奴は乾燥してるのを使ったけど、干して使うものなのか、保存していれば勝手に乾燥しちゃうから、自然乾燥しちゃってるだけなのか……わからん。 それでも次元鞄に取れるだけ取って詰め込んでおいた。


 まあ、まずはマンドレイク!




 その後その周りを適当に走っていくが、なかなかそれっぽい場所が見つからない。昼飯の休憩から1時間ほど経っただろうか、気持ちも萎えて来たころ足音が枯れ葉の乾いた音から、やや湿った感じになってきているのに気が付く。


 この辺りか?


 辺りを調べていくと、小さい泉が沸いている開けた場所があった。泉と言ってもちょっとした水溜りの様なもので、その周りには森の中とは少し違う植物が生えている。


 丹念に周りを見ていくと……おおおお。あった。これか!?


 そいつは球根から葉っぱが出ているような感じで、球根には目、鼻、口がはっきりとある。目も口も閉じてまるで眠っているかのようだ。気持ち悪い……さらに周りを調べていくと、合計で三つ見つけた。


 さて……一応考えていた取り方があるんだが。ちょうど10m程離れた所にちょうど良い木がある。ステータス補正もあるし何とかなるだろうと、木によじ登り手ごろな枝に滑車を取り付けた。そう。窓拭きの時に購入したアレだ。その滑車にロープを通し下に垂らす。再び下に降りてロープの一端をマンドレイクに括りつけた。といってもロープは少し太すぎて縛りにくそうだったので、細い紐でマンドレイクを縛り、その紐をロープにも縛りつけた感じだ。ロープは二種類あったものを結んで長さを充分に取る。


 こうすれば遠くで引っ張って抜けても、すぐ近くで叫ばれるよりリスクはググッと下がるという予測。限界ギリギリまでマンドレイクから離れ、体の回りをノイズで覆う。そして一気にロープを引いた。


 ギャアアアアアアアアアアア!!!


 おおおおお、ウルセエ!!!

 しかし、ダメージは無い感じ。やはりいけた。ノイズ使い勝手良すぎじゃねえ? なんか、他の不人気魔法とか色々試したくなっちゃうなあ。


 しばらくして叫び声が止む。ロープに釣り下がったマンドレイクを見てみると目を見開いて口を大きく開けたまま固まっていた……キモさ倍増してるじゃねえか。あまり顔を見ないようにしながら、鞄からズタ袋を取り出して丁寧にしまう。


 さてもう一個行くか。同じようにもう1本に紐をくくりつけて、充分に距離を取る。そして引く。


 ギャアアアアアアアアアアア!!!


 相変わらずうるさい。だが、これでそこそこの買取であればかなり旨い。

 叫び声が止むのを待ち、マンドレイクに括りつけた紐を外していると突然後ろから声がかかった。



「うひゃひゃ、これはラッキーだな。1人だぞ。おい」

「お? あいつ例のスパズじゃねえか?」


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