第45話 マンドレイク採集 3
突然声を掛けられ、驚いて振り向くとそこに三人の冒険者が立っていた。
1人は剣士だと思う。もう1人はアサシンとか盗賊とか言った感じの痩せぎすの男、そしてもう1人は杖を持ち魔法使い風の男だった。
「え、ラッキー?」
「ああ、ごめんごめん、そういうつもりじゃねえんだけどね。せっかくで悪いんだけどそのマンドレイク没収で~す」
「いや、ちょっと何言っているか……」
何だこいつら、俺の採取したマンドレイクを奪おうって事か……昨日寄合小屋に入らない方が良いって思ったのはこいつらが居たからか。
「それにしても最近の若い子は良く考えるね~滑車とロープかあ。えらいっ!」
すると魔法使いの男がニヤニヤしながら声を掛けてきた。
「君、燃えたくないでしょ? スパズって魔法適性が弱いんでしょ? すぐ燃えそうだよね」
うわあ……最低だなこいつら。ノイズ使いの俺に取っちゃ魔法使いはきっと怖くねえ。
「てめえ、何黙っているんだよ。ここは俺たちのマンドレイク採取場所なんだよ。なあ?」
「そうそう、俺たちが大事に育てているマンドレイクちゃんを持ってかれたら悲しいんだよね~」
くっそ。ありかよこんなの。
「でも、これは自然に生えてるものだろ?」
「あれえ? Gランク君がCランクのアジル様に口ごたえですかあ~?」
うわあ……そうか、こいつがアジルか。屑だな……しかしこいつ恐らく強い。他の連中もそれなりに強そうだし。人数的にも……絶対勝てない……ちくしょう……
「じゃ、じゃあ、2つあるから1つなら、どうかな?」
「ん~。2つあるんでしょ?どうしてそういう計算になるの?」
「え? いや、俺だって」
「あ~あ、俺説得下手だよなあ……ん? ……あれ?本当に居たんだ」
突然アジルが横を見る。釣られて俺もそっちを見る。
ズン ズン ズン ズン
こいつらとのやり取りで気が付かなかったのか。だんだんと地響きが近づいて来ているのが解る。
なっ……なんか嫌な予感がする。すぐに木をかき分けながらこっちに向かう魔物の姿が見えてきた。顔が木の葉に隠れて見えないが、人型であることは解る。でか過ぎる。トロールか??? Cランク相当とか、嘘だろ?
「どうやら、マンドレイクの叫び声につられてこっちに来たみたいだね~君が呼んだんだよ? わかる?」
「と、トロール???」
「正解! しょうがないなあ、マンドレイクのお礼に助けてあげよーか?」
「え? マジっすか???」
どんどん近づいてくるトロールはマンドレイクを持っている俺に向かってまっすぐやってくる。走ってる感じでは無いのだが、足幅がデカイだけにかなりのスピードだ。超怖ええ。命が助かるのなら、甘えるのもありかっ。有りだよな。
「俺の後ろで隠れてるといいよ~」
アジルがラウンドシールドを構えてトロールと俺の間に入る。マジか。いざと成れば後輩をかばう。これが先輩冒険者の姿か。
「あ、ありがとうございます!」
とっさに、アジルの後ろに入る。それを見るとアジルはトロールに対して戦闘体制をとる。アジルの背中でトロールの動きが見えにくいが、トロールが一瞬立ち止まったのがわかる。カッコいいじゃねえか。頼りになる背中がそこに……
「ばーか」
……え?
突然アジルの姿がかき消える様に無くなる。そして目の前にはトロールの全力で振り下ろす拳があった。
とっさに魔力を体に巡らせ拳を受けた。
ガッ……ドガッ……ボグッ……バキッ……
トロールのパンチをモロに受けた俺は、石切の様に地面をバウンドしながら吹き飛んでいく。
「ギャハハハ。死んだか? 死んだよなあ? アホだこいつっ」
「おい、アジルよ、お前は天才か? くっくっくっ」
「おいおい、あまりウケてるなよ。そっちはトロール始末してから剥いじゃおうぜ」
俺は吹き飛んだ先で木にぶつかって止まる。
「がはっ!!」
……痛え……まじ痛え……ちぐしょう……
<根性>のせいかギリギリ意識が残る。しかし、痛すぎて体の状態が全くわからない。折れたり潰れたりしてるんだろうな……やべえ。
……動けねえ。ぶつかって止まった木に寄りかかったままアジル達を見る。いや、にらむ。ぜってえ許さねえぞ、この野郎。
アジル達はCランク冒険者というやつの実力か、トロールに対しても危なげなく戦いを続けている。
ちくしょう、あいつら死んでくれねえかな……邪魔してやりてえ。……動くか? よし。右手は動きそうだ。左手は……無理か。折れたくせえ。足は……動くじゃねえか。……傷みは……無視できそうだ……怒りは? ……無視できねえな
木に手をかけながらなんとか立ち上がる。思ったほど痛みを感じない。
ん? 感じない? ……そうか。たしか<疼痛耐性>もセットだったな。行けるか。きっと<逆境>もマックス状態だろう。
……容赦しねえぞ。
「流石にタフねえ~」
「でもダメージが通らないワケじゃ無ねえ、問題なく削れてる。」
「ああ、ただデケえだけの魔物に俺たちが殺られるかよ……ん?」
「一本残しておいてよかったよ」
俺はマンドレイクを握りしめて、トロールと戦っている奴らに笑いかけた。
気が付いた魔法使いが顔をひきつらせていた。
「ちょっ。おまっ!」
マンドレイクを引き抜くと同時に投げつける。
ギャアアアアアアアアアアア!!!!
一帯にマンドレイクの叫びが響き渡る。
Cランクの奴らだ、死にはしないだろう。だがとっさに気がついた2人と違いこちらに背を向けて一番近くに居たアジルは、トロールとの戦いに集中して無防備だったのだろう、泡を吹いて倒れていく。
マンドレイクの叫びはトロールにも効くらしい。耳を押さえてうずくまるトロールに飛び乗りそのまま片手で剣を振るい首を切り落とした。まもなくレベルアップ酔いに襲われるが<極限集中>が発動している今の俺に問題となる影響はない。
胃液を吐いている痩せぎすの男の横に近づく。唯一動けそうな魔法使いの男が怪しい足取りで立ち上がり杖をこちらに向ける。そいつに俺は尋ねた。
「ポーションはあるか?」
「このやろう、死ね」
<ノイズ>
ヤツの魔法の構築に合わせそこに<ノイズ>を紛れ込ませる。不完全情報では魔法は発動しない。
「へ? あれ?」
やっぱ殺るしかねえか……剣を振り上げ、痩せぎすの男の首をはねた。くそう。
魔法使いが何か罵倒を続けているが無視だ。俺は再び尋ねる。
「ポーションはあるか?」
質問をしながら魔法使いに近づいていく。魔法使いは何度か魔法を試そうとするがすべて<ノイズ>でキャンセルしてやった。剣の届くところまで近寄ると腰が抜けたようにへたり込み、命乞いをしてくる。
「ひっ。なんで出ねえ!!! ポ、ポーションならアジルが持ってる。それやるから、たたた助けてくれ」
「いや……無理だろ?もう」
そう。もう無理だ。たとえここで見逃しても、後々面倒になる事しか思い浮かばない。
俺はそのまま魔法使いも斬り捨てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます