第46話 マンドレイク採集 4
アジルは失神してるだけなのか、死んでるのか解らないがうつ伏せに倒れて動かない。足で仰向けにすると腰に派手な次元鞄がついているのが解った。段々意識が怪しくなってくる。急がないと。
次元鞄を必死に探るとポーション瓶が見つかった、蓋を開けて……飲む前に念のため折れて変な方向を向いている左手を元の位置に戻す。激痛を予想したがまだスキルが働いているのかなんとかなる。変な方向に曲がったまま治っても嫌だしな。
そのまま一気にポーションを飲み干した。全身が熱く、痒い。なるほど……これがポーションか。一気に怪我が治っていく。回復魔法寄りな感じか。
……それにしても。ポーションを探してるときに出てきたこれ……オーブだよな。
いつか見た玉虫色の綺麗な玉があった。スキルを入れる器が広がるのを待ってたのか? それとも売る予定だったのか?
「うう……」
アジルが呻きをあげ身じろぐ。どうする。起きる前に決めないと。
……
この世界で生きていくなら、この世界のやり方でやっていくべきか。それにもう2人は殺ってる。
……
剣をアジルの心臓あたりに突きつける。
……
くそ……
そのまま深く押し込んだ。
「きっとこれで良い。他に選択肢は無かった」
アジルを殺すと、再びレベルアップ酔いに襲われる。やはりアジル達はそれなりにレベルも高かったのだろう。それにしても人間でも経験値が来るのか? 糞だな、このシステム……
<極限集中>が切れたのかどっと疲れと痛みが戻ってくる。ポーションといってもダメージが大き過ぎると完治までには至らないのか。と同時に罪悪感も増してくる。人を殺した。無いほうがおかしい。思考が整わないが、こういう時はやる事をやって気持ちをそらすに限る。
トロールをひっくり返し、心臓のあたりを切り開く。血で汚れるが今更か。取り出した魔石は今まで見た中じゃ一番の大きさかもしれない。しかし魔物のサイズと比べるとどうしても頼りなく感じる。そして放り投げたマンドレイクも回収した。
革鎧を脱ぐと、泉でじゃぶじゃぶ洗い血を流す。染み込んだ血までは取れないが付いたばかりの血は割と簡単に流れていく。……そう言えば革って水で洗っても大丈夫なのか? ふと心配になり慌てて服を脱いで、脱いだ服で水気を拭う。地面は少し湿っているのでトロールの血がついていない所に乗せて少し干しておく。
はぁ……なんか憂鬱だなあ。泉で清めるか。
そのまま全裸になり泉に飛び込んだ。
身体がサッパリすると少し気分が楽になる。そしてオーブを手に取り少し悩んだ。
……ま、いっか。毒食えばだ。
そのまま手で砕くと何かが身体に入り込んでくるのが解る。ん……お? これアクティブスキルじゃねえか? 目を閉じて確認すると<剛力>とある……ん? <ノイズ>の領域も少しでかくなってる気がする。レベルアップしたかもしれない。使いまくってるからな。
さて……このまま放置っていうのも寝覚めが悪いしな。
死体のそばにスコップで穴を掘った。ためしに<剛力>を使ってみると凄い楽になる。サクサク掘れる。どうやら名前の通り一時的に力を底上げするスキルなのだろう。ただずっと使っていたら少しクラクラしてきた。
魔力切れ??? これスキルだろ?
……いや、魔力って裕也が書いていたからゲームで言うところのマジックポイントだと思ってたが、もしかしたらマナポイントとかかもしれないな。あとは、言語理解で無理やり俺たちの解るステータス表記になってるだけで、実は微妙に違うものなのかもしれない。結論は出なかったが、それでもスキルを使うときにも魔力に気をつけなければならないって事は解った。それで良しとしよう。
3人とも次元鞄を持っていたので外し、死体を穴に埋めた。やっぱり弔った方が良いかなと思うんだ。決して証拠隠滅とかを考えたりした訳じゃない。土を戻すと少しこんもりと盛り上がる。そこにそれぞれの剣を刺していった。魔法使いは杖だったが、一応それも刺した。墓標代わりにはなるんじゃないか。
「迷わず成仏してくれよ」
手を合わすと、そうつぶやいた。
そして、次元鞄を3つ肩からかけるとカポの集落に向かって走り出した。
カポの集落に着くと砦に向かう。取り敢えず警備隊の人に話はしておきたい。やっぱ後ろめたい気分で生きて行きたくないしな。
砦の扉をノックすると、1人の若い兵士が出てきた。
「ん? 冒険者か? どうした?」
「はい、マンドレイクを採取していたら、3人の冒険者に襲われて殺してしまって」
出てきた若い兵士と話していると、話を聞いていたらしく奥からもう1人中年の兵士が出てきた。
「坊主が1人でやったのか? お前スパズだろ?」
うぐ……やっぱスパズだと刑も重くなったりするのか。
俺が一瞬強張ったのに気がついたのか、その中年の兵士は宥めるように言う。
「いや、スパズだからどうこうって話じゃない。俺の息子もスパズでな」
「え?」
確かにこのおっさん目が優しい。
「昨夜、寄合小屋で騒いでいた冒険者パーティーだろ? 何度か小屋で揉め事起こしたりしてたからな。知ってる。しかし、良く1人で殺ったな」
「あ……あの3人が気を抜いている時にマンドレイクを引っこ抜いて……僕、精神攻撃に耐性のあるスキルを持っているので無事で、無力化出来たんです」
「精神耐性? ……そうかお前も苦労してるんだな……まあ奴等は自業自得だろう」
なんか、哀れむような視線が濃くなる。親からの虐待で自然に耐性スキルがついたとでも思われたのだろう。ここはこのままその方向で。
ちょうど最近トロールの目撃情報があったために、定期的に見回りをしているらしく。その時にアジルたちが俺を襲ったのを確認済みと言うことにして警備団に手紙を書いてくれた。ん……トロールの話もしたほうが良いのか。でも今更それだと矛盾が生じそう。どうするか……やはり嘘は嘘を重ねちまう。
「あ、あのう。実はアジル達を殺ったときにマンドレイクの叫びに気がついたトロールがやってきて……同じ様にマンドレイクの叫びで倒したんです」
「なに!? ホントか?? それなら寧ろ功労者として扱ってもらえるかもしれない、それも書き記しておこう」
良い兵士の人たちで助かった。
話をしていると日も陰りだしたので、今日は寄合小屋で泊まってから朝に街に戻ることにした。寄合小屋に泊まる話をすると、じゃあ食っていけとスープとパンをご馳走になった。こんな不安定な気持ちのときは、人の暖かさとスープの暖かさが余計身に染みた。
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