第47話 マンドレイク採集 5

 寄合小屋は無人だった。暖炉には昨日料理にでも使ったのか燃え尽きた薪がそのままになっていた。


 ふう。


 とりあえずアジル達の次元鞄の中身を見てみようか。鞄もどうしたら良いか兵士に聞いたのだが、行き倒れでも揉め事でも、死体に所有権は無いから好きにしろと言われた。


 さすがCランクパーティーだ。3人合わせると所持金は6万モルズ強あった、まあこれが全財産とは考えられないので銀行的な所でもあるんだろうか。


 水筒タイプの水の魔道具が3つ。これは口つけたくねえなあ。調理道具のセットは、浅底の鍋とお玉があった。あとは焚き火の上に置くのだろうか、大分焦げて錆びついている五徳のような物。ナイフも2本。それと簡単な食器類。これらは結構使い込んである。


 食べ物は、小さいズタ袋にポルトと、玉ねぎのような物が入っている。それとパン、干し肉、ドライフルーツ。調味料なのか匂いの強いハーブのような葉っぱ。あと塩。酒瓶が数本。



 冒険者に必須なんだろうと思える物の数々を見ていると勉強になる。なるほど。こういうのが必要なのかと。ロープにランプ、それからマント。他にもあったが、正直あまり使いたくないな。食品類など使いそうなものだけ1つの次元鞄にまとめて、後は適当に残りの鞄につめこんだ。


 当面は、外に出ることは無さそうだからな。正直な所、新しいものを買いたいが。ちょっとだけ使ってあげるのが供養なのかもとも考えてしまう。


 まあ、寝よう。


 寝ればもう少しは気が晴れるだろう。




 早めに寝たので、日の出前には目を覚ましてしまった。それでもしばらく目を閉じていたが、もう寝れなそうなのでそのままゲネブの街を目指すことにする。寄合小屋を出るとちょうど昨日の兵士のおじさんが居た。


「昨日はありがとうございました。言い忘れてたんですが僕、省吾って言います。お名前伺ってもよろしいですか?」

「ん? 俺か? ボーンズだ。あの手紙を見せれば問題は無いと思うがな、あいつらの仲間に逆恨みされる事もあるだろうし、気をつけろよ」

「はい」


 そう答えると、まっすぐにゲネブに走り出した。脚力も上がるはずと<剛力>を使ってみるとヤバイ。一歩が倍以上遠くまで行く勢いだ。消費が激しいようで長くは使えない感じだが、使い場所を選べば相当具合の良いスキルだ。




 ゲネブまでは1時間ちょっとか、すげえな。足を緩め東門に行くと門番にボーンズさんに貰った手紙を見せる。そして警備団の詰め所の場所を聞き、向かった。


 警備団は騎士団とは別の組織らしく、日本で言う警察と自衛隊の様な差なのだろうか。どちらも管轄は領主の配下と言う位置づけらしい。警備団の本部は領主の城の敷地にあるらしいが、俺が向かったのは貴族街をグルッと囲む塀の外側にある第三警備団の詰め所だった。ゲネブ領の役所的な建物はみな同じ様に貴族街を囲む壁の外周にそって建てられているようだ。



 飾り気はないががっしりとした威圧感のある建物の前に行くと入り口に立っている警備兵に再び手紙を見せる。しばらく待たされて中に通された。やっぱドキドキするよな。こういう待ち時間。


 通されたのは個室だった。個室持ちの警備団員……うわ。絶対偉い人じゃないか。なんでまた……。


「第3警備団長のクルト・リバーだ。今、アジルと言う冒険者の事はギルドの方に問い合わせに行ってる。それより、トロールを殺ってくれたらしいな。礼を言うぞ」


 部屋に居たのは口ひげをはやした。文字通り偉い人だった。第3警備団長。ここのトップだ。第3?? と解らない顔をすると簡単に教えてくれる。第1警備団が貴族街、第2警備団がゲネブの一般市街、門番の兵士も第2になるらしい。そして第3警備団が他の村などの領土内の街の外全般を受け持っているらしい。


「ボーンズの奴はなかなかお節介だからな。特に黒目黒髪の子の関連にはどうしてものめり込む。ショーゴと言ったか。少し世間の事を知らないようで家に閉じ込められたと思われるって書いてあるな。そうなのか?」

「はい……やっぱりそういうの解ってしまうんですね」

「珍しい話じゃないからな。昔ほど扱いが酷いわけじゃないが、やはり黒目黒髪は敬遠される事が多いからな。特に公務は厳しい。ボーンズの家も代々警備団に務める家だが、息子は恐らく入団出来ないだろうな、本人も解っているだろうが」

「黒目黒髪だと聞きました」

「そうだ。まあ、今回の件は、というより冒険者同士の揉め事には警備団は基本立ち入らない。かなり悪質な物だったり、ピュリールが絡んだりすると動くことは有るがな」

「ピュリール?」


 新しい言葉が出てきた。『ピュリール』とはここゲネブの街の開拓時代の初期からこの街に来ていた人達の子孫で、貴族ではないがゲネブでは少し特権的な立場に居るらしい。冒険者同士の諍いも片方がピュリールだったりして、更にそれが力のある一族だと警備団が入らざるを得ない場合が有るとの事だった。


 少し雑談を続けてると、ノックの音がして団員が入っきて団長に一枚の紙を渡した。それをしばらく見ていると、こっちを向きニヤッと笑う。


「よし、今回は問題ないだろう。相手の冒険者はだいぶ問題のある連中だったみたいだな。寧ろトロールと一緒に始末してくれてありがたいくらいだ。トロールはまだ討伐依頼を出していなかったが受付で言ってくれ、報酬を渡させる」

「しかし、僕はまだGランクなので討伐依頼は受けれ無いのですが」

「ん? じゃあ尚更良かったじゃないか。遠慮なく貰っていってくれ」


 よし、貰えるものは皆もらおう。お礼を言って部屋を後にした。


 報酬は5000モルズ……すげえな、やっぱゴブリンとは違うか。そこから税金は引かれたが手数料は引かれない。ありがたいな。



 警備団支所を出ると教会の鐘の音が聞こえる。


 まだこんな時間か……ギルドで簡単な仕事さがすかな。

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