第41話 ゴブリンが出たらしい
久しぶりに鐘の音が鳴るまで熟睡をし。すっきりした気分でギルドに向かう。
ボストン農場の仕事が一段落したのでまた新たなお得意さんを探さないといけない。とりあえず今は色んな仕事をしてみて、向いているのとか見つけていこうかなとは思っているが。
ギルドに着くとなにやら盛り上がっている。というより騒いでいるのか。掲示板の前で職員の男性が声を張り上げていた。
「昨日、ヤギ村からゴブリンの集団が現れたとの報告が入りました。村でもだいぶ被害が出始めているようで村の冒険者では対応できない状況となってます……」
何だろう、ゴブリンの巣でも出来たのだろうか。確かにあの時のボスみたいなのが居ると対応できないのとか出てくるのかもしれないな。話を聞いていると、ゴブリンの巣の殲滅に20人ほど、5パーティー程を募集しているとのことだった。
しかしどうも冒険者たちの反応はあまりよくない感じだ。近くにいた青年に聞いてみる。
「なんで、皆手を上げないんだ?」
「あ? 何だスパズかよ、おめえには関係ねえよ」
お? 感じ悪いなあ。言い返そうとした時職員がさらに説明を続けた。
「今回は緊急依頼として、指名依頼と同じ条件で報酬が支払われます。一人頭3000モルズ、Dランク以上のパーティーでお願いします」
うーん。やっぱ低ランクの依頼と比べて実入りが良さそうだな。しかしゴブリンはやったことあるしなあ。そう思い後ろから声を掛けてみた。
「すいません! Gランクなんですが、個人で参加とかは出来ますか?」
職員がこちらを向くと少し驚いた顔で返事をする。
「残念ですが、見習いランクはこの依頼は受けられません」
聞いていた回りの冒険者たちの嘲笑が痛い。予想できる答えだっただけに失敗感が否めない。
「おいおい、スパズってのは頭まで悪いんか」
「Gランクで討伐依頼受けようとか、どうかしてるんじゃね?」
「はあ? スパズの癖に。何考えているんだ?」
おいおいおいおい、言いすぎだろ。泣いちゃうぞコラ。
居たたまれず、少し集団から離れ、遠巻きに眺める。と、あのスキンヘッドがでかい声でうちのパーティーが依頼を受けるとか言い出した。チラッとニヤケ顔でこっちの方を見たからきっと当て付けじゃねえの? と被害妄想が膨らむ。
「兄ちゃん相変わらずチャレンジャーで面白いなあ」
突然隣にリンクがやってきて笑ってる。
「いやだってさ、ゴブリンで困ってるんだろ? 誰も名乗り出ないならやるしかねえじゃん」
「まあ、誰かがやらないとヤバイんだろうけどさ、どうせモグラの方にも声かけてるんだろ? 20人くらいなら集まるんじゃね?」
「モグラ?」
「ここで依頼を探したりしないで、ひたすらダンジョン潜ってドロップ品で金を稼いでる連中の事だよ。けっこういるんだよ。まあうちらのランクじゃダンジョンすら入れてもらえないけどな」
なるほど、ダンジョン専門でやってる冒険者もいるのか。言われてみれば普通にいそうだな。しかしそのダンジョンもランク制限あるんか……。
話に入れてもらえないならしょうがない。俺は俺で出来る依頼を探すとするか。どうするか……時間的に石壁積みなら間に合いそうかな。そう思い依頼票を剥がして受付に向かう。朝にしてはゴブリン騒動で列があまり混んでいなかったので、水色の髪の子の所に並んでみた。
「すいません、これは常時依頼ですので掲示板から剥がさないで申告だけでお願いします」
いきなりミスった。はぁ……上手く行かねえよ。
レンタルビデオ屋でCDのケースごとカウンターに持っていって「次は中のCDだけ持ってきてください」って言われたときの恥ずかしさを感じる。
残念ながら、ここから会話に持っていけるほどの頑強な心は俺には無い。
「それではコチラを持って東門に行ってください。門番の方に見せれば後は説明があると思いますので。頑張ってくださいね」
お?
今頑張ってくださいって言ってくれた?
嫌だねえ、男って生き物は単純なんですよ?
そりゃあ頑張って石を積んできますわ。
なんとかやる気を持ち直した俺は、元気にギルドを飛び出した。
東門にも早朝の農家の依頼人が集合していたりするらしいが、時間的にそんな姿は見かけられなかった。門番の人に受諾書を見せると場所を指示される。
石積みは、漆喰なのかな? モルタルっていうのか? それを少し盛ってその上に石を載せていく。一応形に合いそうなのを選びながらやるらしい。パズルみたいで楽しいかも。
でも俺は、石運び。
二輪の手で押す荷車で石が置いてある場所まで行き、荷車に乗せてまた戻って来て下ろす。それの繰り返し。つまらねえ。
朝、現場に着くと役人っぽい人が現場の監督をしていたのだが、例によってスパズかとちょっと対応が冷たい、役人は貴族の関係だったり良いところの出の人間が多いんだろうか。取り敢えずお前は石を運べと。そんな流れだ。
でもしっかり仕事を続ければいつか氷は溶けるさ。なんてモチベーションで頑張って運ぶんだが。お弁当とか気の利いたものを用意していない俺は、他の労働者や冒険者たちが昼飯を取っている間もひたすら運んでいた。石積みと石運びじゃ仕事場所が微妙に違うから会話を通してのお近づきの機会も無く物悲しい。
なんとなく「ちょっと休めや」みたいな事を誰も言わないので休んで良いのか悪いのかも解らない。ここらへんは指示待ち族の日本人感覚だな。
仕事が終了の時間にはクッタクタの上に空腹で死にそうな気分だ。
ジロー喰ってからギルドに向かおう。
トボトボとギルドに戻ると朝の喧騒は収まっていた。完了書を提出した時に人は集まったのか聞くと、なんとか4パーティー集まったので村に向かったとの事だった。
ただ、公共工事みたいなものだから恐らく指名依頼も求めても無駄だろうなと思っていたら、まさに公共工事ということでギルドの手数料は指名依頼と一緒の3割だった。
ふう、めぼしい仕事が無いときにでも来るかな。
これで最後のホテル住まいかと思うと、急に色んなことが不安になってくる。風呂にも2度入ってしまう。赤城の山も今宵限り……なんてね。赤富士だね。
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