第13話 ダンジョンでびゅー
村からダンジョンまでは30分程との事だ。どうせまた走っていくんだろうと思ったら、ちょっと説明しながら行くと言われ、歩いて行くことに。
「このダンジョンは2層になってる。1層も2層もストーンドールと言う魔物がいる。こいつが固くてな、通常はハンマーか斧を持って入るんだ。でも冒険者の武器は大抵が剣か槍だから、こんな初級ダンジョンのために新しい武器を揃えるやつは少ないからな。結果、村の鍛冶屋がたまに鉄を目当てに来るくらいになってる」
なるほど。石の魔物だから鈍器系でガツガツやるのが一般的なのか。ん?
「俺も剣しかないけど、大丈夫なのか?」
「それはほれ、俺の剣だからな。コツがあるんだよ。それはダンジョンに行ってから教えるよ。」
「いつも直前に練習ぶっこんでくるなあ……」
「まあ、その程度で十分って言えば十分なんだ。あと2層に上がるとロックリザードが出てくる。こいつがちょっと動きが早いから注意するくらいかな」
「ボスとかはいねえの?」
まあダンジョンって言えばボスだからな。レイドボスを皆で倒すなんてRPGだってやったことはある。
「ボス部屋っていうのは無いんだが、2層の奥にストーンゴーレムが居て一応それがボスだ。ストーンドールを切れるようになれば、まあやれる」
なるほど。話を聞いていると確かにあんまり需要はなさそうな感じはするなあ。
「ドロップもしょぼいのか?鉄とか言ってたが」
「たまに鉄も落とすな、でも多いのが石だ」
「石?ただの?」
「そう、特に使いみちが無いから誰も拾わないが。あとまれに石英が落ちるかな。それは売れる」
石英か、この世界にもガラスはあるからな。掘り出して精製するよりダンジョンで石英を集めたほうが純度が高いし簡単だろう。などと思ったが、ダンジョン産の石英は純度が高すぎて強度などを上げるためにわざと違う異物を混ぜたりするようだ。
それからしばらくして鉱山ダンジョンに到着した。
見るからに鉱山といった感じの入り口なのだが、入り口には分厚そうな木の扉がついている。その脇には古ぼけた掘っ立て小屋が建っており、覗くと一人の老人が寝ていた。
「おい!爺さん起きろっ!」
裕也が声をかけるとゆっくりとした動作で老人が目を覚ます。
「珍しいな、ユーヤか。どうした?鉄でも足りんのか?」
「ちょっとこいつを鍛えようと思ってな、2人分で頼む」
「あいよ。一人100モルズだ。2人で……えーと……」
「200モルズだな、ほれ」
そう言いながら銀貨を2枚手渡した。
「じゃあ、そこのノートに名前書いていけ。日が沈むまでには帰ってこいよ」
そう言うと再び眠ろうと言うのか、爺さんはポジションを作っている。びっくりするくらいのどかな田舎の施設だ。
でもやっぱりノートでの管理はするのか……。
ダンジョンには大きな木の扉でなく、その扉に着いている小さな通用門から入っていく。少し薄暗いようだがちゃんと中は明るいようだ。
中に入るとヒンヤリとした空気に変わる。そこで裕也の授業が始まった。
「前も言ったように、その剣にはミスリルとオリハルコンを少々混ぜ込んである。ミスリルってのは……まあお前なら解るか。真銀、つまり”まことの銀”、というふうに言われかなりレアな金属な上に、加工が難しいんだ。だからミスリルの武器っていうのはとてつもない金額になる。なんで真銀って言われるのか。銀というのは地球でも狼男をやっつけるのに銀の銃弾を使ったりしたように魔を退けるような性質があると言われてる。それともう一つ特徴があってな、魔力をよく通すんだ。だから魔法陣を描く時は銀を溶かし込んだインクを使う。導線的な役割だな。まあ、廉価な水銀を溶かした物もあるが通りはより銀のほうが高いと言われている……話が逸れたが、そんな銀の性質が更に優れたものがミスリルなんだ。ちなみにオリハルコンはとてつもない剛性と魔法耐性があって、どちらかと言うと鎧の方に使われるのが多い。これもレアな金属で加工が難しいから……」
うん、話が逸れたどころか、ぜんぜん要点が出てこない。
体動かさないと寒くて風引くんじゃないか?
「……というわけでその剣は普通の鋼と比べると段違いの剛性と魔力の伝導率があるんだ。ここのモンスターは主にストーンドールだが、文字通り石でできた人形のようなモンスターで普通に剣で切りかかっても中々斬れない。そこで出てくるのが魔力だ」
「剣に魔力を纏わせるってことか?」
「そうだ。そこの柄を見てみろ、木の柄に金属のラインがあるだろ?同じ様にミスリルを混ぜ込んだ鋼を埋め込んであるんだ。魔力を柄に流すとそのまま剣の方に伝わる」
ふむ。もう俺はウォシュレットだって起動できるんだ。魔力を流すだけならなんとかなりそうだな。俺は「よし解ったやってみよう」と答え奥に向かおうとする。
「をおおい、ちょっとまて、まずちゃんと流せるか試してから行くぞ」
そう言うと、マジッグバッグから鉄の塊を取り出し地面に置く。
「さっき言ったやり方で切ってみろ。出来たら中にすすむから」
やはり裕也は基本にうるさいタイプだな。だが、まあ確かに初めてのダンジョンなんだ。きっちり確認するに越したことはないだろう。
ふむ。ウォシュレットの要領だな……よし……流れたかな? 俺は剣に魔力を流しながら裕也が置いた鉄の塊に斬りつける。
フンッ……スパッ
「おおおお」
いや。出来るって言われたから出来るんだろうけど……流石に鉄をスパッと切るとちょっと感動だな。裕也もそれを見てウンウンとうなずいている。
「おお、意外にも一発で行けたか。よしじゃあ行くか」
……お前いまさり気なく「意外にも」って言ったろ。
ダンジョンの中は<光源>を使う必要のない程度の明るさがあったが、前世のムダ知識のおかげで驚きはしなかった。至る所にほのかな光を放つ石が埋め込まれているのだ。この石は掘り出しても1~2時間は光っているらしいのだが、ダンジョンからの魔力が枯渇すると自然に消えて唯の石のようになってしまうらしい。ただ、光る石を掘り出すとその後新しい石が補充されるのに1年位かかることもあるため、掘り出された辺りがしばらく暗い状態が続いてしまう。そんなわけでダンジョンマナーとして光る石を取り出すのは基本的にNGとなる。
大事な話だ。
一匹目のストーンドールに遭遇したのはそれからすぐだった。いつものように裕也が教えてくれると思って気を抜いていたのだが、壁の割れ目から突然「ォォォォォ」という唸り声とともに殴りかかってきた。
慌てて転がるように避けたが、すぐにそいつはこっちに向かってくる。だがそこまで動きが早い敵でも無い。しかし表情のない石人形が「ォォォ」と小さく唸りながら向かってくるのはかなりのホラーだ。俺は体勢を崩しながらも必死にストーンドールに剣を振るう。
ガキィンッ
「ぅぉお、硬えっ!」
くそ。魔力を込めるのを忘れてた。ストーンドールは硬さに自信があるのかそのまま向かってくる。隙きも大きい。そうだ魔力魔力……慌てて魔力を剣に込めながら切りかかった。
ガキィン!
「ぐぉぉぉ 何故斬れねえ、手が痛え!」
力いっぱい斬りかかっただけに、手がしびれて剣を落としそうになる。そこにまたストーンドールのパンチが向かってきた。慌てて体をそらすがパンチが肩をこする。うグッ! 痛い痛い……足がもつれて倒れこんでしまう。
「相手も魔力抵抗あるぞ、もっと魔力込めないと」
ちょっ……くっそっ……裕也っ……おまっ……うおおお
倒れこんだ所にストーンドールが更にこぶしを振り下してくる。ゴロゴロと転がりながら逃れ、ストーンドールに背中を向けて逃げるように距離をとる。振り返ると再びストーンドールが向かってきた。必死に、それはもう必死に剣に魔力を込めていく。ていっ!
グゥワン!
「魔力に意識取られすぎて、腰が入ってないな」
「チキショー!」
今度は斬る事は出来たが、全然浅い。
ドールは体を斬られたことに一瞬ひるんだ動きを見せるが、直ぐに怒りをあらわに突っ込んできた。
キエエエエイ!
ゴゥオオウ
ようやくまっぷたつになったストーンドールがサラサラと崩れていく。
はぁ……はぁ……おおし!
「裕也っ!敵が来るなら教えr……ごわわわ!」
嫌な気配がして振り向くと、新しいストーンドールが殴りかかってきていた。体をそらして避けるが勢いが付きすぎてそのまま倒れ込む。
「おおおお、マジかっ!」
倒れたところを再び詰めてくるストーンドールに、倒れたそのままの体勢で不格好に後ろに下がっていく。
「ぎゃははは! なんだそれっ! エルム街の悪夢かよっ!」
「コノヤロー、スパイダーウォークはエクソシスっ……ちょっ!」
裕也は全く俺を助けようともせずに楽しそうに見ているだけだ。くそっ。逃げる俺に追撃しようとストーンドールが向かって来る。必死に距離を取りながら体勢を取り戻そうとするが、なかなか立ち上がらせて貰えない。ぐぉぉ。きつい……なら……こんなのはどうだっ。
とっさに足に魔力を集中させて、ストーンドールの腹の辺りを蹴る。
ドオオン
効いたか効いてないか解らないが、ストーンドールはたたらを踏んで後すざる。その隙に立ち上がり剣を構える……魔力を込めて……
ガキィン
「ぐぉっっっっ手が痛えっ!」
「おお、足のアイデアは良かったが、そのせいで剣に込める魔力が足りなかったな」
おいおいおい。こんな窮地にまだヘルプを出さねえのかよ。なんか裕也ムカつく! 後でシッペしてやるっ!
ぬぬぬぬ。殴りかかってくるストーンドールを避けながら、魔力を込め……魔力を込め……斬るべし!
ゴオオン
……ふう。はっ! 一瞬気を抜きそうになるが、慌てて周りを見渡す。だが新しい敵は現れていない。
そしてストーンドールが居たところには、小さな魔石が転がっていた。
ハァ……ハァ……ゼェ……ゼェ……
「だっダンジョンの魔物は索敵効かないのか?」
「いや、いちいち来てるの教えてたらお前いつまで経っても索敵系のスキルを覚えないだろ?」
「ぐぬ……」
「それにゴブリンの巣でお前を見て解ったんだ」
「何をっ?」
イキる俺に自信満々な顔で裕也が言い放つ。
「お前はある程度追い込まれたほうが、伸びるってさ」
「ひぃぃぃぃっ!」
「Lv9もあれば即死はしねえよ。生きていれば回復もしてやれるぜっ」
マジかよ。このおっさん。
「た~す~け~て~」
ダンジョン内に省吾の悲鳴が 響き渡る。
こうして鬼合宿が始まった。
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