第14話 ダンジョン一層とか

 ストーンドールに殴られ、地面を這いずり回り、ボロボロになった俺は、宿に戻ると、すぐさま部屋で革鎧を脱ぐ。まるで帰宅後に靴下を脱ぐ。そんな爽快感を味わいながら、備えつきのタオルと着替えを手に取りそのまま風呂に向かった。


 日が沈み、時間としては六時ごろだろうか。何気なしに男湯の暖簾をくぐると脱衣所には数人の先客が居た。宿にあまり人が泊まっている感じがしなかったのだが団体客でも来ているのだろうか。浴室の方にも人が居るのがわかる。


 なんとなく隅のほうでいそいそと服を脱いでいると、同じように裕也とハヤトが脱衣所に入ってきた。


「なんか、今日は宿混んでるみたいだな。」

「ああ、ここの宿は午後4時から7時くらいまでは村の住人も入浴が出来るんだ。宿も常に人が居るわけじゃないからな、食堂も普通に村人が食べに来るし」


 なるほど、例の夜は居酒屋、昼は食堂のお店と同じようなものか。



「ふう……生き返るぅ」


 やはり風呂は大事だな。子供の頃風呂に入るのがめんどくさくて堪らなかったが。いつの間にか心が癒しを求めるようになってしまったのだろうか。特にダンジョンでの裕也はハッスルしまくるから、俺は今猛烈に癒されたい。


 なんか地元の爺さんたちと湯船に使ってると日本に居た頃を思い出してしまう。


「お兄ちゃん、今日は2層まで行ったの?」


 今日は他のお客さんが居るのでちゃんと泳がずに湯船に浸かってるハヤトが聞いてきた。


「いや、今日はずっと1層をウロウロしてたよ。ちゃんと確実にストーンドールを斬れるようにならないと、2層は駄目だって裕也が言うからな」

「お父ちゃんそういうところ頑固だよね~。僕も6歳のときに初めてダンジョンに行ったときもすごくうるさくてね。ダンジョンにこもりっ放しで特訓したときなんてお母さんがすごい怒ったんだよ、3日目くらいに迎えに来たんだ~」

「嘘だろ? そんな小さい頃に3日もあそこで泊り込みでやらされたのか???」


 裕也のほうを見ると。サッと目線をそらされた。

 こいつ……


「お父さん、今回も始めは食料買いだめして1週間くらい篭るからって言ってたんだよ。だからさあ、お母さんに絶対に日が沈むまでには帰ることって釘刺されたんだよねっ」

「あっああ……エリシアは心配性だからな」


 ぶっ……おっさん……本気でか???


「……裕也」

「……なんだ?」

「……俺まだ異世界初心者だから……」

「分かってる。任せとけ、必ず強く仕上げるから」


 え??? そこ???



「明日朝の鐘がなったら起きろよ、朝飯を食べに行くからな」

 その後四人で宿の食堂で夕食をすますと、次の日の約束をし、各々の部屋に戻る。


 今日は大分疲れていたが、自分の部屋に戻るとすぐさま魔法を試してみることにした。

 そりゃあそうだ。念願の魔法が使えるようになってウキウキが止まらないんだ。


「光源!」


 特に声を出さなくても使えるのだが。なんとなく出したくなるのが人のサガ。声に出して使う。

 すると、目の前に仄かな明かりを発する玉が浮かぶ。


 おおおお。


 やっぱすげえ。どうなってるんだろ。

 真ん中に光の妖精でもいるのかと、まじまじと眺めるが良くわからない。まあ妖精は居ないか。裕也がゴブリンの巣の時に光量を調節したと言っていたのを思い出し、光量の調節が出来るかとウンウンうなりながらやってみる。


 が、なかなか難しい。


 しかし頭の中で電気を切る感じでイメージすると、光の玉は簡単に消えた。ふむ。


 今度は、思いっきり魔力を込めるようにやってみる。


 おおっ。ちょっと明かり強くなった。

 もしかして光量の調節は、発動時しか出来ないのかもしれない。

 一度消して、今度は弱めのイメージで……


 おおー。やっぱりそうか、大分暗い感じだ。。

 ちょっと、部屋の電気を消してみるか……そう思い、俺は明かりのついてる魔道具を切ってみる。

 うんうん、豆電球っぽくて寝るには良さそうだ。


「これって、どの位光ってるんだ?」


 再び明るめにして光源を発動させる。

 そのまま、ベッドに横になり持続時間を見てみようとしばし眺める。


 ……


 おお、普通に長続きするなあ。


 ……


 あれ……なんかくらくらする……ん?


 ……まさかこれ……まりょくぎ……



 カラン♪ カラン♪ カラン♪


 今日も教会の鐘の音で目を覚ます。

 なんとなくだるいな……ベットの上でウダウダしてると、ハヤトが呼びに来た。


「確かにそれは魔力切れだな」

「やっぱりそうか、よく魔力切れまで練習しまくってどんどん魔力量が増えるって話あるけど、そういうのはあるん?」

「俺も一時期やってみたけど、あまり変わらなかったなあ。ただ魔力を良く使ってるとレベルアップ時の魔力の伸びは高くなると思う。あと魔法を使えば使うほどその魔法のレベルアップには繋がるし、<魔力操作>とかのスキルも発生しやすいぞ」

「なるほど……そこまで根つめて消費しなくてもいいか」


 朝食時に、簡単に今日の予定を決めておく。


「確か、今日子爵がこの村に宿泊するって言ってたからな。護衛が恐らくここの宿に泊まると思うんだ。あんま顔を合わせたくないから夕食は外にしよう」

「そうね、私たちは先生のところに行くわ、今日は1日良いって言ってたから。まあ、あなた達も日没には帰ってきなさいね。」

「お母さん……僕もダンジョンに行きたいよぉ」


 可哀想なので今日ものど飴を1つあげた。




 今日もダンジョン守の爺さんは寝ていた。

 昨日と同じ様に爺さんを起こしてお金を払い、ダンジョンに入っていく。


「とりあえず、一撃で確実にドールを倒せるようになれ」

「昨日、大分いける様になったぜ」

「まずは10体って所か、連続で一撃で倒せたら2層に下る」

「ほう、すぐに終わらせるよ」

「ギリギリまで回復はしないからな」

「……」



 ガキィン


「ぐぅおわ!」

「はい、初めから」

「チキショー!」


 全然終わらない……5体くらいまでは行くのだ。ストーンドールの動きに慣れ一対一の時には問題なく一撃で倒せるようになってきた。だけど複数出てくるとどうしても慌ててしまう。しかも体力的にも段々厳しくなってくる。

 まるで賽の河原状態だ。




 ゴオオン



「はぁ……これであと1匹じゃね?」

「あと2匹だな。」

「うぐ。でもまあ、単品で2匹おなしゃします!」


 1階の入り口と2階への階段を何度も往復しながら狩りを続ける。RPGでもやってる気分だ。ん? ほぼRPGか? 超疲れるけど。

 お。湧いてる……2匹だけど。いまの俺なら!


 向かいながら歩幅と間合いのタイミングを計りつつ、少しずつ足を早めていく。間合いに入るタイミングでストーンドールが腕を振り上げて殴り掛かってくる。もうストーンドールの動きのパターンもだいたい把握した。俺はそれを躱しつつドールの脇から切り上げる。よし。

 そのまま振り上げた剣を切り返し、奥にいたストーンドールに向かって振り下ろす。


 タイミング問題なし。

 体勢全て正常。

 魔力注入120%。

 速度、切断スピードを維持。

 全て問題なし。オールグリーン!



 ……レベルアップ酔いが来なければ。



 ふにゃ。カツン。


 ……


 いや! まだだあ! まだ終わらん!


 うっうおおおお!


 グゥオン!


 全力の俺の斬撃を喰らい。目の前のストーンゴーレムがサラサラと崩れていく。


「ふう。何とか終わったぜ」

「何がだ?」

「ストーンドール10体抜き。無事終了致しました!」

「いや、リセットな」

「いやいやいやいや、レベルアップ酔いはノーカンでしょ???」

「いや、リセットな」


「NOOOOO!!!」


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