第15話 ダンジョン2層へ

 ダンジョンの外で宿で用意してもらった弁当を食べている。

 ダンジョン内は明るさが一定のため時間の感覚が解らなくなる、時間の感覚は腹時計に頼ることになるのだが。狩りに夢中になるとやはり微妙にずれてしまう。ましてや裕也だ。下手したら日没までノンストップになりそうなもんで。太陽は真上から少し傾き始めていた。


「そうむくれるな。なんにしろ10体行けたんだ。2層に向かおう」

「お前は鬼か??? もう手がマメだらけだよ」

「そうやって人は強くなっていくんだ」

「グルルル……あ、これうめえ」


 そして、2層の説明を聞いた。2層には今までのストーンドールと、もう一種ロックリザードが出るという。ロックリザードはストーンドールと比べ数は少ないのだが、だいぶ素早く、噛まれると石化の呪いが発現することがあるという。「ことがある」と言うのは確率的にはそんな高くなく、加護や祝福持ちであればまず呪いを受けないだろうと言うことだった。


 とはいえ、気持ち良い物ではない。病気だってありそうだ。噛まれないようにしないと。

 ていうか祝福だって転生者でキャパも多いから恐らくあるだろう? と言うのが現状だ。現状確定議とはいたしません。


 早速2層へと向かう。

 1層の隅まで行くと階段がありそこを降りていく。階段を降りればそこが2層だ。


「取り敢えず慣れる為に今日は奥までは行かないでここらへんでやるか」


 2層はやや入り組んだ狭めの洞窟で、道もうねうねと湾曲しているのか先が見えない。

 少し歩くとストーンドールが2体いた。ふっ。もうストーンドールに2体など敵では無い。華麗な剣さばきで一息に屠る……おや?


 ストーンドールが消えた後にいつもの魔石と共に半透明の綺麗な石が落ちている。お、石英ゲットだぜ!

 かがみ込んで石英を取ろうとして手を伸ばした時。


 ガブッ


「!!!! 痛てえええ」


 見ると50cm程のトカゲが俺の拳に噛み付いていた。

 へっ? こんなのさっき居たか???

 ブンブンと手を振るが取れない。


「裕也っ 取って、取ってくれ!」


 慌てて振り向くと、裕也が腹を抱えて悶絶してた。

 ……コノヤロー。


 もう裕也には頼らんちん!

 そのまま壁にトカゲを何度か叩きつける。ぐぅおおお激痛だ。しかし噛むのが少し緩んだのを感じ、床にたたき付ける。体を足でギュッと踏みつけなんとか手を抜くことが出来た。超痛い。フラフラのトカゲに剣を突き刺すと、トカゲはサラサラと消えていった。


 ふう。


「えーっと。裕也さん集合」

「悪い悪い。でもタイミングがな? くっくっくっ。お前は天才か?」


 涙を拭きながら弁解しながらも弁解出来ていない裕也に無表情のまま右手を差し出す。


「はい。すぐ回復する」

「解った解った、ほれ」


 列になって空いていた傷穴がみるみるうちにふさがっていく。


「エリシアさんに報告ね」

「なっ!!! ちょっ! それはっ!」


 青い顔で慌てふためく裕也を眺めているとようやく溜飲が下がる。


「おれ……手を噛まれるのトラウマになっちゃったかもなあ……いい感じの手甲があれば安心感が増すかもなあ……」

「あ、ああ任せろっ。とびっきりのを作ってやる」

「ほんとかっ!?」

「おっおう……その代わり……」

「ヒヒヒ」

「……」


 あのトカゲがまさにロックリザードだった。ロックリザードと聞いてコモドオオトカゲ的なデカイトカゲをイメージしていただけにショボさを感じてしまう。しかし、上側が保護色になっていて油断すると気が付かなかったりするのが一番厄介な点だったらしい。

 裕也は説明しなかったが。


 確信犯だな。間違いない。


 その後そこら辺を行ったり来たりしながら狩りを続ける。

 確かにロックリザードが混じるだけで戦いの難易度が跳ね上がる。気が付きにくい上に素早さもある。ロックリザードにもたついているとストーンドールの鉄拳が飛んでくる。ストーンドールを先に処理しようとすると、微妙なタイミングでロックリザードが飛びついてくる。

 そうなってくるとだんだんとストーンドールだけしか居なくても、ロックリザードどこかに潜んでいる気がしてしまって、集中しきれずミスも増える。体力だけじゃなく気力まで削られる。厄介極まりない。


「ゼェ……ゼェ……超バテるな」

「そうだろ? 1層なんて魔力斬の練習にしかならんからな。ここはそういう意味では色んな経験を得れるんだ」

「ん? 魔力斬って言うのか。ほほう。魔力斬ね……で、それは割と使える奴はいるのか?」


 結論としては特に珍しい技術では無かった。

 この世界ではあまり豊かでない人間が冒険者になることが多いという。スラムの出身だったり、農家の三男坊、四男坊の様に跡を取る畑の土地など無い層が一攫千金を求めて始めたりするのが殆どだと言う。

 そんな立場の人間が高級な魔法のスクロールを安易に買えるかと言うと厳しいのだ。結果、自然に戦士系の冒険者が多くなる。魔法使いは元から使えた人間か、あとは裕福な家庭に育った人間に多いという。


「なるほどなあ、でもこんな魔力を通す剣なんてそれこそスクロールより高いんじゃね?」

「やつらは普通の剣で同じことをやってるんだ。鉄でも魔力を全然通さないわけじゃないしな」

「うへっ。じゃあ普通に考えて魔力斬を出来る奴らは俺より上ってわけか……」

「一応今後の予定としては、ある程度問題なくなったら普通の鋼の剣に交換してやるつもりだ」

「うわ……前にハヤトに魔力の流れが弱いって言われたぞ?」

「今見てる感じだともう問題なさそうだぞ? やっぱ使ってるうちにバイパス開いたりしてるんだと思うぞ」


 ふむ……。


 そろそろ日没の時間になりそうだと言うことで、今日のダンジョン活動を終えて帰ることにした。2層まで来ると出口まで戻るのが少し面倒になる。相変わらずストーンドールもうろついているわけで、それなりの時間を使って出口まで戻る。


 ダンジョンを出ると、真っ赤に焼けた空が出迎えてくれた。日本の四季の感覚だと晩夏というころなのだろうか? ダンジョン守の爺さんは既に村に戻ったようで、小屋は無人だった。


 村に向かって歩いていると、後ろから付いて来る裕也が声をかけてきた。


「お、今ちょっと見てみたんだがな、覚えてたぞ。スキル」

「へ……今なんと申した?」

「スキルだ」

「おおおお、で、で、どんなのだ?」

「あ、ああ……<根性>だ」

「ほほう、何となく俺根性あるからな。それで?」

「……瀕死の重症や、体力の限界になったとき、もう少し頑張ることが出来るスキルだ」

「……おや?」

「ほら、お前の<極限集中>を考えれば最適なスキルだぞ。即死を免れて形勢挽回できるじゃないか。」


「……おや?」


 なかなか当たりが来ないじゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る