第240話 王都に向けて 2
翌朝、護衛騎士のリーダーにうちの従業員が一人増えたことを伝える、リル様は獣車の中で就寝中だったのでリーダーはエドワールに確認をとり、早速出発する。
フルリエはいつもレザー風のつなぎの服に身を包んでいた。体のラインが見えるセクシーなやつだが、本人曰く女性をアピールするような服装じゃないと不安になるらしい。はじめは短めのスカートだったり、スリットの入った様なスカート等を履いていたが、流石に森の中を走りまくったり、戦闘などをするのにそれは不味いとみつ子がフルリエと相談して作った服だ。
絶対みつ子は、某三代目大泥棒の恋人をイメージしてデザインしていると思うんだな。
俺達が走っている横で、フルリエもみつ子と一緒にハーレーの背中でのんびりしている。
「ふふふ。男の子たちが汗をかいて走っているのって良いわね」
「もう。フルリエさんエロい~」
何故か、全然性格の合わなそうなみつ子とフルリエだが、みつ子はフルリエに妙になついている。「フルリエさんって超エロカッコいいよね~」なんて言っているのを見てみつ子も同じ様な路線を目指すのかとも思ったが、本人はそういうつもりは無いらしい。
女の子って分からねえ。
そして、護衛対象の女の子。リル様は獣車で寝ている。お昼休憩を挟んできっとまたハーレーに乗るのだろう。
護衛騎士のリーダーが言うには、現国王がゲネブ公の後ろ盾を得、即位したのもありゲネブ公の力が大きくなってきている。その裏で他の王子を擁立しようとした者たちの中でゲネブ公に対して良くない感情を抱いているのも多い。
そういった勢力の放った暗殺者などが特に危険だという話だった。
とはいえ、ハーレーが付いている俺達に襲いかかってくる山賊などは出ないだろう。
それから数年前から俺達が隊商などの護衛につく時はかなり目立つ旗を掲げて護衛につくようにしている。「サクラ商事が護衛についているぞ」と言うアピールをしながら護衛に就き、襲いかかる山賊を尽く全滅させていく事で、今では山賊は俺達の旗を見るだけで逃げ出す様になってきている。
今回も、モーザはハーレーにまたがり背中に大きな旗をくくりつけている。結び桜のイメージを象ったデザインの旗だ。
隊列は特に問題もなくシュワの街を過ぎ、ラーダの街へたどり着く。
ラーダの街は、大きな牧場を抱える畜産で有名な街だ。いつかシュワの街の露店で食べたポルトに大量のチーズがかかった料理があったが、そんなチーズなどもここで作られている。商人による食肉の買付なども多く、割とラーダの街への隊商の護衛依頼は多いので俺も何度か来たことはある。
道中も俺達はうまい肉を食べたいなと盛り上がっていた。
ハーレーには小さくなってもらい、他の騎獣等とホテルの獣舎あずける。ホテルにチェックインをしている時に、護衛騎士達が全員分の食事を頼んでいたので、俺達は外に行くからと断る。するとリル様がすぐに反応してきた。
「なに? あなた達食事はどうするの? まさか……何か美味しいところがあるのね!」
「え? いやあ、店は知らないっすけど畜産の街だから旨い肉を食わせてくれるところがあるかな? ってくらいですけど……」
「そうね……。私も外で食べるわ!」
リル様の発言に護衛騎士達はギョッとする。
「しかしリル様――」
「ショーゴ達と一緒なら危険はないわ! ね?」
ね? って言われてもなあ。ううむ。余計なことをしなきゃ良かったか? 俺はちょっと後悔しながら説得しようとする。
「いやあ、リル様はホテルで食べると良いですよ。ほら、これだけ格の高いホテルなら食事も最高だと思いますし」
「黙って。もう決めたの。行くわ。外に」
「えー……」
なんとなく暗殺者などの話を聞いてしまっただけに、リル様を外に連れ出すのには抵抗があるんだが。言い出したらきかないリル様だ。受け入れるしか無さそうだ。
先に、リル様と護衛騎士を連れ、俺とみつ子とジンの3人が街に出かける。エドワールは興味無さそうにホテルで食事をするということで、モーザとフルリエとミドーが留守番をする。モーザたちには俺達が戻ってから食事にいってもらおう。
「カトブレパスの旨い店ってあるかなあ」
「うーん。冒険者ギルドで聞いてみる?」
「冒険者向けだと、大衆的な店を紹介されそうじゃない? リル様も居るしちょっと格式のある店のほうが良いと思うんだけど」
「大丈夫よっ! 私も大衆の味というのを味わいたいわ」
「そうですか? じゃあ、ギルドに行くか……」
今まで来た時は、シュワの街の様に露店が並ぶ場所で立食い的に食事をしたり、宿の備え付きの食堂でしか食べたことが無かったため、今日は普通の店舗で食べてみたいという予定だったが、リル様が居るとなると余計露店での買い食いは憚れる。
俺はみつ子の提案に乗り、ギルドでおすすめのお店でも教えてもらうことにした。
ラーダの街は街と言ってもそこまで大きい街ではないため、ギルドもすぐに分かる。リル様や護衛騎士と一緒にギルドに入っていくと中の冒険者達がその異様な面々に露骨に警戒心を表す。
もしかしたら俺の頭上の龍珠が一番怪しげで警戒されるのかもしれないが……。隠しておけば良かっただろうか。
それにしても俺はあまり遠出しないからな。たまに入る王都の護衛とかも今までモーザとかに任せてばかりだったしな。
受付に近づくと、少し緊張したような受付嬢が対応してくれる。
「もしかしてショーゴ様……ですか?」
「え? あ、はい。ショーゴです」
「ああ、やっぱり。えっと。どういったご用件でしょうか」
「あ、えっとカトブレパスの旨い店でも教えてもらおうかと……」
「はい?」
やばい。ラーダの街でも俺の龍珠は知られるように成ってきたのか。ギルドの職員だから分かったというのもあるのだろうか。突然名前を当てられ、少し当惑する。
それにしても……「美味しい店お教えてくれ」なんていうしょうもないことを聞くだけなのにギルドの空気を変な感じにしてしまったかもしれない。
それでも受付嬢は何店舗か目ぼしいところを教えてくれる。その中で気になった店に向かった。
その店は、なんというか日本で言う焼肉屋の様な店だ。と言っても各テーブルにグリルがあるような感じではなく、店内に大きく細長い鉄板が2列並んでおり、その周りにカウンターのように椅子が並んでいる。
鉄板は魔道具のようなもので熱せられて居るのだろう、椅子に座った客がそれぞれ自分の前の鉄板に肉を乗せて焼いて食べるといった感じだ。
「焼き肉というより鉄板焼屋なのかな?」
「うーん。どっちでも良いと思うよ。しっかし。焼肉かあ。あがるな!」
「うん。楽しみ!」
「そうね。お肉食べ放題ね!」
庶民が集まるような大衆の食堂などなかなかいかないのだろう、店内に漂う肉の焼ける匂いなどもリル様の胃袋を刺激するのか、目をキラキラさせて辺りを見渡している。なんだかんだ言ってリル様の様な子供がこんな楽しそうにしていると、おじさん的に微笑ましく感じてしまう。
連れてきてよかったかもな。
みつ子も店の雰囲気は気に入ったようだ。ジンも見たことのない店舗形態なのだろう、興味深そうに周りを見渡していた。
出てくる肉は、切り方といい提供され方もほぼ焼肉屋と同じだ。日本の焼肉屋の様にトングなども無いのでお互い適当に自分の食べる分を自分で焼いて行くと言った感じだ。流石にアルコール類は遠慮せざるをえないが、護衛騎士達も出てきた肉を嬉しそうに焼いて食べまくっていた。
「焼肉のたれが欲しくなるな」
「ああ、わかる。でもこれはこれで良いじゃない」
「うんうん。ナイスチョイスだったね」
こうして俺達は久しぶりの焼き肉を堪能する。
その後満足したリル様をホテルまで帰すと、今度はモーザ達が食事に出かける。俺達の帰りが少し遅くなったため腹を減らした3人はややイライラしていたが、俺達の行った店を教えると、やがて大満足で帰ってきた。
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