第239話 王都に向けて 1

 今回サクラ商事からはミドーとジンを連れてきている。


 ミドーは黒目黒髪で王都近くの出身ということでなんとなく声を掛けた。もう1人のジンはミュラと共に現在のサクラ商事の最年少という事だが、実はランゲ爺さんの外孫になる。現ランゲ商会の商会長の妹、つまりランゲ爺さんの娘の3男坊だ。


 ジンは、ハヤトと同じく王立学院を出てる。その時にゲネブ出身ということで良くしてもらったという学院の先輩だったハヤトからどうやらサクラ商事の話を聞いたらしく、卒業と同時にサクラ商事への就職を希望し、うちにやって来た。ランゲ爺さんからお願いされた訳でもなく、自主的にやって来た。


 そもそもジンは産まれた頃より水魔法を持っていたらしく、貴族の出でも無いため冒険者にも憧れていたという。頭も良いし、うまく育てばそのうちサクラ商事を任せられる人材になるんじゃないかと俺としては期待している。


 ただ。ミュラと同い年なのに商業ギルド所属のブルーノとしては、ランゲ商会の親族になるジンは過保護にしている感もあり、ミュラとの扱いが違うのが気になる所だ。俺としては同じ様に扱ってほしいのだが、まあ、そこら辺は段々と変えていけば良いのかもしれない。


 本当はフルリエも王都に行きたがっていたが、あまり多く連れてきてゲネブの人数が減るとブルーノがてんてこ舞いになりそうだから今回は我慢してもらったが。



「そろそろ出発? リル様は?」


 ハーレーの上からみつ子が聞いてくる。


「まだ寝てるみたい。とりあえず起きるまでは獣車で寝かせておくってさ」

「ははは。ずっと寝ていてくれたほうが楽かもね」

「それは……言ってはいけない。まあ、その通りだけど」


 それから、ミドーとジンにも声をかける。


「さ、お前たちは降りて。獣車で行くなら走ってついていけるぞ」

「げ! 旦那。マジかよ」

「おうよ。体力は付けれる時につける。バテたら乗せてやるから」

「はぁ。旦那に付いてくるといつもこんなだぜ」


 2人ともしょうがないと言った感じでハーレーから降りてくる。みつ子は……まったく走る気が無いようで「がんばれー」なんて言ってる。まあ。俺に出来るのはここまでだ。


 やがて1団が動き出し、俺達も後からついていく。


 走って付いてくる俺たち3人を見た騎士たちが一瞬ギョッとするが、俺たちは軽く笑顔をみせそのまま走り続ける。



 道中、ぱっちりと目を覚ましたリル様がハーレーに乗りたいということで獣車から出てくる。空になった獣車に乗ってのんびり……なんて少し考えたが、どうやら獣車の中にはメイドも1人居るようで諦める。


 小公女としてはメイド1人は少ない気がしたが、どうやら王立学院の寄宿舎ではお付きの人が1人しか許されていないようで、何人も連れていけないらしい。


 じゃあ騎士たちは? と思ったが。領主クラスになるとたいてい王都にも別邸があるらしくそこに詰めると言うことだった。



「さあ! 王都目指して行くわよっ!」


 ハーレーに跨ったリル様は、テンションアゲアゲで浮かれていた。まだまだ王都までは一ヶ月弱かかりそうなものなのに、初日からこれでは保つのか怪しい。試乗会で尻の痛みが応えたのかフカフカのクッションも持参で、みつ子と2人でハーレーの背に揺られていた。



 それなりのペースで進んでいるため通常3日の旅と言われるゲネブからウーノ村の行程は途中で野営を一泊挟み、1日半ほどでたどり着いた。このペースだと一ヶ月もかからなそうで安心だ。


 リル様は龍脈沿いの街道で一泊すると、そのままウーノ村までは再び獣車に乗る。やはり朝は弱いようだ。


 基本的に到着日時優先というより、リル様やエドワールが野営をするのを極力少なくしたいようで、昼頃に付いたウーノ村で一泊してからの出発になる。その後も基本は村や街で一泊するという感じになるらしい。


 ウーノ村のラモーンズホテルに泊まり、早々に銭湯に入っていると、後から護衛騎士が入ってきた。恐らくリル様の部屋の前に常に誰かは居るようにしているのだろう、1人で入ってきた騎士は、俺達の姿をみて声を掛けてきた。


「結局ゲネブからここまで走りっぱなしだったな。強いとは聞いていたがその体力を見るだけでその噂が本当だとわかるよ」

「ははは。ありがとうございます。でも騎獣にずっと跨っているのもお尻痛くなって大変じゃないですか?」

「それは慣れだな。毎日乗っていれば尻の皮が厚くなるぜ」


 転生して裕也とここの銭湯に入っていたとき、ピケ伯爵の護衛騎士に脱衣場で黒目黒髪が2人も居たことを驚かれたことを思い出す。あれから6年か。なんか普通に話している現在の状況に違和感を感じたりもする。なんて言っても、俺とモーザとミレーの3人の黒目黒髪がいるのだらから。


 風呂から出て、みつ子と共に食堂に向かう。流石に護衛でここに来ている以上、村の中の居酒屋などには行くのはどうなのかなと思ったのだ。一応今回は街や村の中では騎士達が護衛しているから割と自由にして良いと言われている為外に出ても怒られる事はないが、酒は流石に飲めないし、ホテルの食堂で十分かなと。


 食堂に行くと既に先客が居た。


 って……。


 その先客は俺たちが入っていくと嬉しそうに「こっちよ」なんて手を振っている。



「え? なんでフルリエが居るの?」

「なんでって、お休みでしょ? ちょっと旅行でもって感じよ?」

「旅行って……どこにいくの?」

「ん~。王都?」

「いや、聞かれても。そうだよ俺たちは王都だけど……え?」

「ふふふ。お兄さんと一緒に王都見学に行こうかな? ってね」


 うわ。マジか。確かに今回の旅行でフルリエも行きたいって言ってたが、今回は我慢してって言ってあったのに。

 笑顔で強引に突っ込んできやがった。戸惑う俺とは対称的にミドーは嬉しそうにしている。


「うぉ! フルリエ姐さんも来るんスカ? いやあ楽しくなりそうですわ」

「うふふ。ミドちゃんもよろしくね」


 う。そう言えばミドーは完全にフルリエに躾けられていた。みつ子は、普通に「来るなら一緒に行こうよ」と言うスタイルだし、ジンもフルリエ先輩には逆らわない。モーザに至っては興味無さそうに「ハーレーの背中開いてるから良いんじゃないか?」だ。


「大丈夫よ、ブルーノさんにはミュラちゃんに伝言頼んだし」


 ううむ……年明け仕事が始まってブルーノが青くなってる姿を思い浮かべる。

 だがしょうがないだろう。人数は多いほうが旅行は楽しめるのかもしれないな。

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