第54話 マイスイートホーム

 

「え? ……し……知ってたんですか?」


 ヤバい。ヤバくないかも知れないけど、失敗したか。つい喋りすぎちゃってたか。いや、しかし。うーん。異世界の事まで知ってるのか、お爺さん。


「突然悪かったな。そう身構えるな。過去の勇者は知ってるか?」

「……まあ、話は」

「魔王討伐やら革命やらの話が有名じゃからな、あまり話には登らないが過去の勇者は異世界から持ち込んだ知識で莫大な財産を稼ぎ財閥を作り上げたんじゃ。その後、例の革命のあと王家がその財産をあらかた没収し、財閥は解体されたが。しかしそれまで財閥を任されていた3人の幹部がそれぞれ3つの商会としてそれぞれ勇者の作ったあきないを残した。その一つ、ここゲネブ支部の代表として後を取ったのがワシの先祖なんじゃ」


 てことは、お爺さん超お金持ちって訳か。なんとなく只者じゃない感じはしてたが。いや。そうじゃなくて……


「……異世界の事も知っている訳ですね」

「王家の目も有るからのう。おおっぴらに口外するような事は無いがな。まあナターシャは知ってるがな。誰でも知ってる訳じゃない」

「僕に良くしてくれるのはその知識を……ですか?」

「そう警戒するな。その初代がな、勇者を守れなかったことを死ぬまで悔やんでな。またそういう異邦人が現れたときに力を貸してやれと言う家訓を残してるんじゃ。商会は使い切れないくらい金は稼げているし、それ以上にワシがお前さんを気に入ったと言うのが一番じゃな。はっはっは」


 何て言うか、言葉がでなかった。長い歴史の流れに自分がぽっと放り込まれた気分になる。何とか声を絞り出す。


「家賃はちゃんと払いますから」


 1000モルズと言う格安だが。


「ああ、しっかりと毎月徴収するぞ」


 あまり考えすぎるのも面倒だしな。俺は俺の感性で生きていくさ。


「ふう……ま、大丈夫です。僕もお爺さん気に入っていますから。それに過去の勇者の革命のせいで随分生きづらくなってるんで、プラス分は回収していかないと。」

「はっはっは。気に入ってもらえて何よりじゃ。気兼ねなく使ってくれ。」



 部屋の説明などをしてもらい、取り敢えず今日からここに住むことにした。

 二人が去ったあと、しばらく1人リビングで窓の外を眺めていた。



「……ソファーがほしいな」





 マイスイートホームでの一夜は素晴らしかった。ホテルも良いのだが自分の部屋だというのは開放感の度合いが違う。幸いお金には少し余裕がある。少しばかり家具を買って贅沢しても良いかもしれない。


 ……まてよ。ヒロインが登場したとき、ここは2人で住んでもOKなのか? 独身寮的な社宅なら駄目かもしれない。今度聞いてみよう。


 むふふ




 まずは支払いのために口座を作らないとな。こんな世界で引き落としとか想像だにしなかったが、商業ギルドで口座を作ってお金を入れておくと毎月勝手に1000モルズづつ引き落としてくれるらしい。


「はい。話は伺っております。ビジター会員の会員証がそのまま口座の払い戻しなどに使えますので大切にしてください。本日はお幾らお預けになりますか?」


 お爺さんから話はいっているらしく、口座はスムーズに作れた。当初は5万ほど入れる予定だったが家具などを買いたかったためとりあえず2万モルズだけ入金させてもらった。



「ひとつ聞きたいことがあるのですが……」


 受付の女性が、やっぱり質問はあるのね。といった感じに少し微笑む。おお。こうしてみるとこの子もなかなか……


「そこに置いてあるソファーってどこに売っているか解ります? こないだ凄い気持ち良くて」

「ふふ。気持ちよさそうしてましたね。同じものがあるかは解りませんが、同じ家具職人の方の商品を取り扱っているお店なら」


 確かにこの世界じゃ機械的な大量生産は無いだろうしな、ギルドに置いてある地図で場所を聞いて向かった。



 店の前でしばし佇む。ふむ……ちょっと高級そうだな。こんな冒険者のなりで入って追い出されないだろうか。少し店の前で悩んでいると、声をかけられた。


「ショーゴ様、家具を見にいらしたのですか? どうぞ中にお入りください」


 げ。ナターシャさん。と言うことはここはあのお爺さんの商会か。ソファーを見ようと思ってと言うとソファーがたくさん並んでいるコーナーに案内される。


 ううむ……1人用のソファーの方が良いか。長いのはベッド使わなくなりそうだもんな。お。これは、良い感じじゃね? 試しに座ってみる……完璧じゃないか素晴らしい。


「これって幾らくらいするんですか?」

「これは、ミノタウロスのソファーですね。8万モルズ程したような。ちょっと確かめて参りますね。」

「あ!? いや! 大丈夫です!」


 おいおい、気軽に座っちまったよ。勘弁してよ。確かに革のソファーはモンスターの材料使っているだけ高くなるか……布地のソファーかあ、悪い訳じゃないけど……日本の家具の激安チェーンとかメイド・イン・チャイナがこの世界にある訳じゃないから皆高いのはしょうがないだろうな。


 それより先に食事をするテーブル揃える方が現実的か。木の……そう言えばロッキングチェアみたいなのはあるのかな? そう思って店内を歩いていると、良さげなロッキングチェアがあった。ただ食事で座る椅子も考えると……やはり優柔不断が爆裂する。ソファーを買う予定だとやはりロッキングチェアはいらないのか。悩んでるとナターシャさんが教えてくれる。


「そちらのチェアも2万モルズ程するので、もし生活に必要な家具でしたらダイニングテーブルなどを先に購入されては如何でしょうか」

「ナターシャさん、安いテーブルのセットってあります?」


 恥を忍んで聞いてみる。いや、この人はむしろ俺のことを知ってるはずだから変に見栄を張るより良いかもしれない。


「もしよろしければ、当商会の中古商品を取り扱っている店舗が御座いますのでそちらを見ては如何でしょうか」


 ナターシャさんが案内してくれると言うのでそっちを見てみることにした。お店は良いのですか? と聞くと、ナターシャさんは特に店舗の人間じゃなく商会の裏方の仕事をしているので大丈夫だといわれる。


 中古商品の取り扱い店と言っても、なかなかに高級家具がそろっている。予算を聞かれて、3万くらいまでと答えてしまう。ホントは1万モルズ、日本円で15万円だからそれで充分揃うと思っていたのだが……こちらの店は皆値札が付いていて安心する。やはりあちらは値段を気にしない人の店なんだろうな。


 そして、シンプルな2脚の椅子が付いたセットと革の1人掛けのソファーを何とか3万モルズで購入した。まとめて買っていただくので値引きは当然ですよといわれたが、5000モルズ程値引いて貰ってしまった。


 今日の午後にはお届けしますと言うので、お願いして冒険者ギルドで昨日の魔石磨きの報酬を受け取り、昼飯を食べがてら帰宅した。


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