第53話 魔石磨きと。
部屋に荷物を置いてすぐに風呂に入りに行く。なんか、このために頑張って働いている気分すらしてくる。お風呂に執着するシーンは異世界ものじゃ定番だが、これはリアルだ。実際その立場になってみると正しかったなあと感じる。
さっぱり気分で、部屋に戻るとまずはアジルたちの荷物を広げる。ピートにああ言った手前、水の魔道具以外は潰してしまおうかと考えたのだ。実際次元鞄に次元鞄を重ねたときの圧縮具合を見てみたくなったのもあるが。
鍋やらマントやらを一つの次元鞄に詰め込んで、もう一つの次元鞄に入れてみる。入っていくときに本体のポケット部分を入れようとすると少し抵抗を感じる。ぐぐぐ……そのまま押し込んでいくと急に抵抗が無くなった。おお、なんか気持ちよかった。
そのまままた鞄から出して中を確認すると、確かにぺしゃんこになっていた。カチカチですな。一度こうなったらもうどうしようも無さそうだ。
<光源>も色々試したい気分だが、流石に疲れたから寝るか。
「あれ、少し寝坊したか?」
朝目が覚めると、太陽の角度が鐘の成る位置より少し登ってる感じがする。教会から少し遠いので鐘の音も若干小さく聞こえる場所ではあるのだが。急いで身支度をし、魔石磨きをする倉庫に向かった。
「おお、早速来てくれてありがたい」
「いえいえ、こちらこそ指名をして頂きありがとうございます」
以前の要領で部屋に入ると壁に鞄をかけてから再び魔石検知器の下をくぐる。
「ん? 次元鞄が増えたのか?」
「ああ、色々ありまして。冒険者って自分の家を持たない人が多いから何かと持ち歩くものが増えて大変です」
「そうじゃの。高ランクとなれば家を借りたり購入したり出来るようだが、こちらとしては次元鞄が売れるから大助かりじゃがな。はっはっは」
お爺さん相変わらずの商売人だよね。でも嫌味は感じないから良い。
「借り家じゃなくても、貸倉庫みたいなのは無いんですか?」
「まあ商人向けに倉庫を貸したりはあるがな」
「そこまで大きい物でなくても良いんです。ロッカー……鍵をかけられるちょっとした棚みたいなのを作って、それ毎に月幾らかで貸し出せば持ち歩くリスクの有る物とか宿住まいの冒険者もしまえて良いんじゃないですかね?」
「ほう……面白そうじゃな。ちょっと詳しく聞こうか。魔石を磨きながらな」
いつかのようにテーブルに置いてある箱の中から汚れた魔石を取り出しお湯の張ってあるタライに入れてふやかしていく。この量なら1日有れば余裕だな。
お爺さんに聞かれながら思いつくことを言っていく。槍とか予備の武器をしまいたい冒険者も居ると思うから細長い形の棚もあったほうが良いかな? とか、サイズで値段設定を変える話。空いてる店舗とかに棚を大量に並べた店舗のようなものを作っても良いし、各商店で空いてるスペースが有れば2つだけとか4つとか棚を置いて貸し出せばちょっとした収入に成るんじゃないか? などこういう設定的な話は考えていて楽しい。
「やはりお前さんは商人に成ったほうが面白いと思うがのう」
「冒険者に行き詰まったら考えますよ」
「冒険者は楽しいかい?」
「うーん、色んな仕事を出来るから楽しいことは楽しいですよ。まだランクが低くて冒険者って自覚できる仕事はあまり無いですけどね。報酬も少ないから毎日の稼ぎも宿代とメシ代でトントンくらいですし」
「何でも下積み時代は苦労するものじゃな。ふむ……ちょっとまってろ」
そう言うと、お爺さんは部屋から出ていった。なんだろう……なんかくれるのかな。
しばらくすると戻ってきたお爺さんがお盆を持ってきていた。ああ、お昼か……期待しちまったじゃないか。
お昼を食べ終わると、再びだらだらとお爺さんと話しながら作業を続ける。銀行は冒険者ギルドでも商業ギルドでもあるらしい。ギルドのビジター会員だけど口座作れるか聞いてみると、作れるように上に言っておくと言われた。そこら辺なあなあなんだろうな。
話しながらで途中手も止まることはあったが、それでも3時前には仕事は終わった。
「ふむ、ショーゴ君この後時間は有るか?」
「はい、特に予定は無いので時間はありますが、どうしました?」
「儂の商会……と言っても儂は隠居の身だから息子の商会じゃがな、従業員用の住居が少し余っているんだ。独身者向けの狭いアパートメントだがね、もし良かったら使わないか?」
「え? ホントですか!? いや嬉しいんですが、まだそこまでの稼ぎは無くて」
「いやいや、金なら要らんよ、未来ある若者への投資じゃ」
「いやいやいや、流石にそれは悪いっすよ」
頑なにお金をと言うとお爺さんは、じゃあ月1000モルズでも貰うか。と格安で話を受けてくれた。まじか……これは異世界ライフが明るくなってきたんじゃね? ゲネブで第2の足長おじさんをゲットした気分だ。
依頼の完了書にサインをしてもらうと物件までお爺さんと歩いていった。何故かお姉さんも付いてくるのであれ? と思っていると、息子さんの商会の従業員だった。老人の徘徊を心配して息子さんが付けているんだろうか。ずっと商業ギルドの職員さんだと思ってたよ。ナターシャって名前。キャリアウーマン的な彼女にぴったりで良いよな。
場所は東の地区の真ん中あたり。いい場所じゃないか。建物はレンガ造りの4階ほどある建物だった。イメージで言うと洋画に出てくるアパートみたいな感じか。建物の真ん中に入り口があり、入って正面に折れ階段がある。真ん中を境に両脇に部屋がある感じだ。3階の部屋だと言われ階段を上がっていく。階段もギシギシも鳴らないし作りも良さそう。
3階に上がると、ナターシャさんが鍵を取り出して開ける。
おおおお。
玄関が無いが、いきなり10畳程の広いリビングがある。窓は大きく明るくていいな。キッチンは……まあそこまで大きくないが外食文化なのだろう。奥に行くとシャワールームとトイレ、あと寝室なんだろうな。すげえテンション上がる。
「一応ベッドは備え付けの台しか無かったから、うちの売れ残りの寝具をセットしておいたぞ。」
「え? いつのまに? ていうかそこまでやってもらって……」
「気にするな、老後の楽しみの1つがまた増えたんじゃ」
「お言葉に甘えまくります。」
見てると地球のアパートでは見かけない物があった。クローゼットじゃ無いよな。
「これ……もしかして氷室ですか?」
「そうじゃ、まあ冒険者じゃあまり使わないかもしれないがな。魔石も補充してあるはずじゃからすぐ使えるぞ」
「何から何まで……」
「なるべくならショーゴ君にはこの世界を楽しんで欲しいからの。」
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