第78話 フェニードハント 4

 

 香木のおかげかは解らないが何事もなく夜はすごした。


「それにしてもそれっぽいの全然いねえな」

「そんなすぐに見つかるようなら成功報酬がこんな高くねえよ」


 あれ? そういえば報酬とかの話全然聞いてなかったわ。


「そう言えば聞いてなかったがそんな高いのか?」

「20万モルズだ、ちゃんと分けるから心配するな」

「いや、まあ、心配はしてねえけど」

「しろよ! 心配。冒険者なんてお互いスキ見せたらケツの毛まで抜かれるぞ?」


 おおう。世知辛い世の中だなあ。

 せめて同業者くらい仲間意識を持って行きたいところだぜ。


 しばらく山を散策していると上の方から冒険者パーティーが下ってくるのが見えた。こういうのもお互い警戒しないと駄目なんだろうかね。しかし降りてきた冒険者はピートたちの知り合いの様で気軽に話しかけていた。


「おう、ピートか、この山は駄目だな。なんでもクロア達がフェニード捕獲したって話だ」

「げ、まじか。アイツ等まで来てるのか」


 クロアかあ、最近会ってねえな。依頼でどっか遠くに行ってるのかと思ったが。流石だな。自称新進気鋭なだけある。


 なんでもフェニードは縄張り意識が強い魔物で、一つの山に1匹。もしくは居ればそいつのファミリーがいるだけだと言う。降りてきた冒険者は違う山を目指すらしい。


 ピート達が相談を始める。俺は良くわからないから君たちで決めてくれと言った対応だ。ピートはライバルの少ない更に奥の山に行こうと言うが、ルベント達はやや慎重になってる。奥の山に行けば行くほど魔物の強さが上がっていくらしい。


「ショーゴが居れば何とかなる気がするんだ、こいつCランク上位くらいの強さあるだろ?」


 お、何気にピートからの評価が高いのな。ちょっと嬉しいじゃないか。

 だがルベントは納得していないようだ。


「ショーゴが強いのは俺も解った。だけど奥には魔法を使ってくる魔物も出るだろ?」

「ルベント。何言ってるんだ。俺が魔術師キラーって言われてるの知らないのか?」

「いや。聞いたことねえよ」

「んぐ。と、とにかく大船に乗った気で居ていいぜ。任せとけ」


 とは言ったものの、ルベントはなかなか首を縦に振らない。慎重なのは冒険者として優秀な証だろう。その後ピートと説得を重ね、とりあえず途中まで行って危なそうならすぐに引き返すことを条件にようやくルベントが納得した。


 ルベントが地図を見ながら山頂を避けて迂回していく。まあ、道なんてあるような無いようなだが岩ばっかりで高い木があまり無いのでそこまで苦労しないですむ。


 しばらくは、あまり代わり映えしない魔物が出てくる。奥に行くほど魔物は強くなる感じはあるが、それでも問題は無さそうだ。


 だんだん日が傾き、そろそろ野営の場所を考え始めた頃、鳥の羽ばたきの音が聞こえた。


 バサッ。バサッ。バサッ。


 一瞬羽音にフェニードか! と思ったが。全然違う。

 3匹の……簡単に言えば女性の鳥人間が空で羽ばたいていた。手の部分だけが完全に羽になっており、羽毛に覆われた体に猛禽類のようなごついカギ爪のついた足。顔は女性だが髪の部分も羽毛になっている。正直気持ち悪い。なんとなくこいつの名前が思い浮かぶ。


「ハーピーだ!!! 魅了が来るぞ! 意識を強く持て!」


 やはりそうか。


 !


 と、ハーピー達が魔力の高まりが見える。マジか。3匹同時か!? 間に合わねえ!


 キィィイイイイ!


 とっさに<ノイズ>の壁を展開するが、少し離れていたデーブまではカバーしきれない。チラリとデーブの方を見ると意識を飛ばされたようなデーブがフラフラとハーピー達の方に歩いていく。魅了か。


「デーブが魅了っぽい。抑えてくれ! パンクも弓を!」


 背中から弓を取り出しながら、デーブを押さえにかかる3人との距離をつめ、ノイズの壁でカバー出来る位置取りを取る。すでに弓を手にしていたパンクがすぐに矢を射る、しかしやはり弱いか。足の爪で簡単に弾かれてしまう。それでもどんどん矢を射るように促した。ピートがデーブの弓をひったくり同じ様に撃つが、有効とは思えない。


 全員に魅了がかからなかっ事に警戒感を滲ませていたハーピー達だが、遠距離攻撃の危険が少ないと見たのか心なしか馬鹿にしたような顔になる。


 だが、その印象はいい感じだな。俺が弓を引いてもハーピー達に警戒は見られない。ちょっと違うんだよな。墨樹の弓の威力は……


 ズパンッ。


 1匹のハーピーの顔面に矢がぶち刺さる。ヘッドショットだ。状況をつかませる前にもう1匹。慌てず。スムーズに、すばやく。


 ズパンッ


 2匹目をやると、流石に3匹目が対応を始める。と言ってもすばやく動くくらいだ。しかし、これは……当てにくいぞ。基本止まってる的とかでの練習しかしていない。くっそ。当たる気がしねえ。


 シュッ。


 くっそ。やはり、当てにくい。矢はハーピーの羽をかすめて遠くに飛んでいく。再びハーピーに魔力の高まりが見える。しかし1匹なら<ノイズ>でキャンセル出来る。


 ハーピーは魅了が使えないと分かると、今度は羽根をダーツのように飛ばしてきた。俺の弓を警戒しながらの攻撃だからか命中精度はイマイチなのだが、こちらの矢もなかなか当たらない。この膠着状態を何とかしなければ。


 やはり、こういう時は<ノイズ>だよな。


「デーブはどうだ?」

「だいぶ意識が戻ってきてる!」

「よし、羽根に気をつけながら、合図したら矢を撃ちまくってくれ」

「わかった!」


 とりあえずハーピーは完全に俺だけを警戒してる。さらにピートたちに意識が回らないように羽根を避けながら少しづつピートたちから離れていく。宙を飛び回るハーピーが俺達の間に来た瞬間、最大での<ノイズ>をしかけた。


 キィイ!


「ピート!」

「わかった!」


 一瞬ノイズで撹乱させられたハーピーにピートたちの矢が当たる。2本とも致命にならないが、それで充分。憎憎しげに振り向いたハーピーに俺の弓から放たれた矢が向かう。


 ズパンッ!!!


 ちょうと心臓辺りを貫いた矢が、ハーピーの命を刈り取る。


 うん。ちょっともたついたが。飛んでる事を除けばそこまで強い敵じゃねえな。

 ただ、羽毛には覆われているとはいえ、女性の胸のような形をしている部分を切り裂いて魔石を取り出す作業は少しキツかった。慣れるものなのだろうか。


 ちょうど時間も良い頃だから、ここらへんで場所を見つけて野営することになった。一応魔物の強さが上がってきた事も考え、今日は、ピートとパンク。ルベントとデーブ、そしてオレ一人の3組で野営を回すことにした。


 評価されるのは嬉しいが、1人だけでの夜番ってちょっと寂しいよね。


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