第77話 フェニードハント 3
うう……ちょっと昨日は飲みすぎたかもしれない。
いや、別にピートと張り合ったとかじゃないんだ。ていうかピートは意外なことに酒を飲めないらしく、お茶を飲んでいた。原因はデーブだ。あいつ大人しくて可愛いやつだと思ってたのに酒を飲ませたとたん、ちょっとガラが悪くなった。
結果、どんどん飲まされた。
なんかの果物のジュースを飲んでいたので、他の連中が食べ物を買いに行ってる間に、飲めないの? と聞くと飲めると言うので飲ませたんだ。帰ってきたピートやルベントがなんで飲ませたんだと怒ってるからなんだと思いきや……そういうことだったのな。
次からは気をつけねえと。
ピートとルベントは気がついたら居なくなっていたので、ダメージ大は俺とパンクだ。<強回復>があるから楽観視してたんだがイマイチ酒が残ってる感じがする。酒は対毒性とかそういうのじゃないと駄目なのかね。
それでもゲネブからの強行軍で身体が疲れてたんだろう。荒れるだけ荒れてデーブはコロンと寝てしまった。パンクもフラフラだったので<剛力>まで使って運んだのは俺だ。宿は5人での雑魚寝部屋だったので、そのまま俺も熟睡ってわけ。
そして朝。俺はスス村が観光地として賑わう理由を知る。
温泉だ。
まあ、すぐにフェニード狩りに行くのでじっくりとはいかなかったが、早朝に皆で温泉に浸かって心と身体をリセットする。
俺は気に入ったね。スス村。大好きさ。
いよいよフェニードを狩りに出る。朝準備をしていると4人は揃いも揃ってボロボロの鉄のハンマーの様な鈍器を手にしてた。
「あれ? ピートは昨日の剣使わないの? まさか勿体なくて大事にとっておく派?」
「あ? これだから素人は……ここの魔物は剣が通じないのが多いんだ。お前はフェニードを見つけた時に弓を撃ってれば良いさ」
な、なんだと? 剣が通じない? そういうのは早めに言ってほしかった。
フェニードは山間部の岩肌に巣を作り棲んでいるという。まずは山の中に踏み入る。最初はびっしり生えていた木々も、一時間も進むと岩場が増え始め大分まばらになってくる。
更に登っていく。周りには人の気配は感じず高地特有の涼しげな空気が心地よい。そんな中俺は、懐かしいアイツに会うことになる。
ストーンドールだ。
「くっそ。さっそく居たぞ周りを囲め!」
ピートがハンマーを構えながらつぶやく。ルベント達も舌打ちをしつつ横に回る。
「ん? まさか、剣が通じないってこいつか?」
「そうだ! こいつは硬いからな。刃が駄目になっちまうんだ」
「えーと……そこは魔力斬でズバッと」
「は? 何? まさかお前魔力斬出来るのか???」
「うん、まあ。こんな感じで」
実は最近手に入れたスキルがある。<魔力視>だ。効果は読んでそのまま、魔力が見えるのだ。以前裕也が解析を書けてくれた時、たしか<解析>と<魔力視>を組み合わせて魔力量を見るような事を言ってた気がする。
まだレベルが低いからか、なんとなくモヤっぽいオーラ的なのが見えるだけなのだが。矢に魔力を纏わせられないかと森でしばらく訓練している時に身についたっぽい。結局見えるようになると放たれた瞬間魔力のモヤがすぐに霧散していくのが見えてしまって、それがどうやっても上手く行かず逆にモチベーションが下がっていったのだが。
こういう無機質な魔物とやるには随分便利なものだと気がつく。魔石、つまりコアの部分がモヤが濃く見える。きっと、濃い部分を切れば良いんだろう。
俺は鋼の剣に魔力を込め斬りつける。ダンジョン産と違って野外のは強かったら面倒だなと思い、少し多めの魔力で。俺の剣に纏ったモヤをストーンドールのそれより濃くする。
ズバン!
「お、問題なく行けましたよ」
「……お、おう」
ただ、魔石を切ってしまうとストーンドールを倒しても何もドロップ品など手に入らない。ハンマーでやるときもある程度の欠損率で自然にバラバラになるらしい。次からは魔石を避けてやってみるか。
山の中は龍脈は通っていない。当然のことながらちょこちょこと魔物は出てくる。ストーンドールは完全に俺の担当となり、他の魔物はピート達が狩っていく。数は多くないらしいがマウントマンバという蛇の魔物がここらでは一番危険だと言う。毒を持っている為噛まれたら厄介だ。一応ピートたちが毒消しを持ってきていると言うがそれでも嫌だな。
日も暮れ、食事を取りながら遠くの山を見ると、他にも冒険者が野営してる様な灯りが見えた。いったい何パーティーが山でフェニード探しをしているのかは分からないが、そこまで危険な魔物が多いわけでもないし龍脈から外れていたとしても割りと気楽に野営をしているのだろうか。
ただ、音も無く忍び寄るマウントマンバはちょっと怖い。幸い昼行性だと聞くが、まあ怖いものは怖いな。自分が夜番の時なら、<魔力視>のおかげでで姿が見えなくても近づいてくる魔力のモヤは確認できそうなのだが。
そんなことを考えていると、ルベントが次元鞄から枯れ枝の様なのを出し始めた。
「それは?」
「魔物避けの効果のある香木なんだ。夜番の奴が定期的に焚き火にこれを入れて燃やしてくれれば良い。自分の番が来たら一度やるくらいでいいから」
「そんなのあるんだ。エルフの集落まで護衛任務していた時はそんなの聞かなかったなあ」
「うーん。俺も今回山に行く話をしたら、ばあちゃんにこれを教えてもらったばかりなんだ。だから実際どこまで効くのかも解らないんだけどな」
おばあちゃんの知恵袋的なものか。
ちなみに、ばあちゃんとは、スラムで身寄りのない子供たちの面倒を見てる老婆で、血の繋がった祖母と言うわけではないらしい。面倒を見てると言っても慈善的な物といより子供たちの冒険者ギルドや農家で働いた報酬などで皆の食べ物のやりくりをしながら、自分の食料をキープする感じで、本人としても仕事だと言っているらしい。「主婦は仕事なんじゃ。バカタレ」が口癖だという。
ピート達はその家から既に出ているらしいが、今回の為にハンマーなどを借りにいった時に教わったという。もちろん依頼が成功したら分前は持ってこいよと言われてる。金で繋がってる体で距離をうまく保っているんだろうな。
なんか気になる。イキの良い肝っ玉ばあちゃんか。一度会ってみたい。
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