第86話 ゲネブ大聖堂 2
<放電><ノイズ><ラウドボイス>
この3つの料金を裕也が払うと、受付の横の扉から中に入るように言われる。ん? このままスクロール使っちゃえばいいんじゃないの? なんて思うのだが。どうやら儀式的なことを行うらしい。教会の神秘性を出したいのだろうなと感じる。
扉を潜ると、中に職員さんが待っていて、薄暗い小さめの部屋に通される。狭い部屋なのだがよく磨かれた木の壁が重厚感を醸し出す。周りにはやはり8柱の神の絵画が飾られていた。光の魔道具の光量もやや絞ってるようでこれも雰囲気作りだろう。間接照明なんてやるじゃないか。まあ、こんな感じで裏を想像しまくる人間なんてあまり居ないんだろうけど、考え出すと随分滑稽に感じてしまう。
部屋の中には先ほどの職員さんと、もう1人少し豪華な法衣を着た年配の男が居た。司祭の偉い人とかだろうか。
「まず、どなたから行いましょうか?」
「ああ、俺からで良い。<ノイズ>だ」
「了解しました。お名前をお願いします」
「裕也だ」
先ほどの職員さんがノイズのスクロールを広げ、スクロール一枚分くらいの小ささで、胸の下あたりの高さのテーブルに広げる。司祭のようなオッサンがその後ろに立ち、裕也に1歩前に出るように言う。
「神話の時代。醜く愚かな邪神により、世に魔物が放たれました。創造神が己の最後に希望として人間達に与えたのが魔法であります。このスクロールで得られる魔法で神の子たるユーヤが魔物たちの脅威から身を守れるよう、神に感謝し受け取りなさい」
やべえ、ちょっと笑っちゃいそうだ……
「<ノイズ>により魔獣を追い払い。人々に安穏の日々を与えられることを。さあ、スクロールに手を載せてください」
裕也がスクロールに手を載せると、スクロールが仄かに光る。やがて光は消えていく。
裕也は問題なく魔法を覚えられたようだ。満足そうに机から離れていく。次は俺の番だ。名前を尋ねられ、答えると再び司祭の話が始まる。
「――汝、ショーゴ。神の奇跡である魔法を受け取りなさい」
職員さんがスクロールを広げ、<ラウドボイス>だと告げる。
「<ラウドボイス>により、魔物よりの危機を人々に告げ。その備えの為に働きなさい。さあ、スクロールに手を載せてください」
言われるがままにスクロールに手を載せ、魔力を流す。同じようにスクロールが仄かに光りを放ち、やがて消えていく。と同時に俺の中に魔法が染み込んでくるのが分かる。職員さんが聞いてくる。
「ショーゴ様、大丈夫でしょうか。それではスクロールを換えさせて頂きます。次は<放電>になります」
魔法が得られたことを伝え、次の儀式へと移る。再びキリッとした表情になり重々しく儀式を始める司祭に俺は笑いを堪えるのに苦労する。
「<放電>の魔法を精進し精錬させる事でより高みへと邁進するが良い。そしてその力で魔物を打ち払いなさい。さあ、スクロールに手を」
再び、スクロールに手を載せ、魔力を流す。スクロールの魔方陣が同じように仄かな光を放ち、消えていく。よし、これで……?
スクロールから魔法が染み込んでくる感覚はあったのだが、なんかすっぽ抜けた感じがする。<ラウドボイス>の時の感覚とだいぶ違う。なんだ?
目を閉じて確認するが、<放電>の気配はどこにも見当たらない。
「……あれ?」
ちょっと戸惑っていると、司祭が声を掛けてきた。
「どうなさりました?」
「いや、<放電>が入ってきた感じはあったんですが、どこにも無いんです」
「無い? 身に付かなかったということですか?」
「はあ、なんか<ラウドボイス>の時と違って入り込むと言うより通過してく感じで」
司祭も少々困った感じで、職員と目をあわす。職員さんもそんなことは初めてのようで、うろたえている。
「もう一度良く確認して頂いて……」
「ずっと探してますが。やはり無いようで」
スクロールもすでに魔法を放出した後のようで、すでに魔力が残っていない状態だ。キャパが無かったのではとも言われるが、裕也は<解析>使ったが充分余裕はあると答える。
「神に見捨てられたって事?」
「いや、神は人を見捨てることなどありませんよ、現に<ラウドボイス>はちゃんと貴方にお与えになりましたし」
「えっと。やり直しとかは……」
「こ、これは適性の問題なのかもしれません、残念ですが今回は」
そう言うと、司祭は次のお勤めがあるので、と逃げるように部屋から出て行ってしまう。残された職員さんはオロオロとしながらも、黒目黒髪という性質が、雷魔法との相性が悪かったのだろうと話を終わらせようとする。
いやあ、適性って言われちまうとどうしようもないが、不良品って事は無いのか? それを言うと今度は「神の御業に間違い等ございません」とちょっと怒った様な反応をする。おいおい逆ギレかよ。「いやだって、ブランクスクロールとかもあるんでしょ?」と更に突っ込んでしまう。しどろもどろにブランクスクロールは決して間違い等ではなく……そう答える職員さんに裕也がフォローを入れる。
「まあ、しょうがない。彼等もどうして良いのか分からないんだろうし。なあ?」
期待が大きかっただけ納得できない俺と比べ、裕也は大人の態度だ。そんなのを見てると俺も次第に落ち着いてきて、しょうがないのかな? と諦めることにした。俺側にもしかしたら問題があるのかもしれないし。変なクレーマーに成りたくないしなあ。俺も職員さんに笑いかけ、まあしょうがないですよねと言うと、ホッとしたような顔になる。
「申し訳ありませんが、今回はこれで。私もお勤めがございますので」
「いや、まあ。困らせちゃって悪いね。また機会があればトライしますよ」
「はい。そうですね。神は常に我々に試練を与えます」
試練か。便利な言葉だ。
5万モルズがポンと飛んだな。約75万円也。
聖堂の近くにあったベンチで2人まったりと座っている。貴族街の外周の公的な建物などの前の道路を挟んで向かいには結構広い公園もある。何気に裕也は俺を慰めようとするモードだ。もうあんまり気にしていないが、人の優しさは受け入れよう。
「よし。お前にも飛び切りの剣を打ってやるから」
「お、まじで?」
「みつ子ちゃんとお揃いのにしてやろうか?」
「いやまあ、それはどうでもいいかと」
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