第302話 封印して
目の前で着々と進む封印作業。
ギラギラと輝く文字も何故か読めない。<言語理解>を持っている俺なら分かるんじゃと思っていたのだが、神の領域には踏み入れさせないスキルなのだろう。
「……みつ子?……メラ?」
みつ子は今だに意識が戻っていない。そして俺とメラを繋いでいた糸のような物は、既に繋がりが途切れていた。恐らくもうメラの声は聞こえないが。どうなっているのだろうか。みつ子は……。生命の気配は消えていない。
「ガル、どういう事だ? みつ子は助かったのか?」
『……大丈夫だ。お前のみつ子は生きている』
「そうか……メラは?」
『メラは……生きている、と言うべきなのか』
「え? どういう事?」
『お前がこのヨグ神の呪いのコアに成れるように、みつ子もモイラ神の祝福を持つ』
「……持つ……から?」
『我ら龍を受け入れられる器になるということだ』
「……へ?」
イマイチ言っている意味がわからない。いや。なんとなくは分かるのだが。だったら……。
「ちょっと待て。じゃあ見た目はみつ子だけど、中にいるのはメラって事なのか? それじゃ――」
『それはない』
「そ、そうか……」
『うまく行けば分離出来ると思っていたが、生命力の殆どが無くなっていたのだろう。突然入ってきた龍珠という生命力の塊をみつ子が一気に吸い上げた。分かるか?』
「えっと……喉が乾いてたって事か?」
『……まあいい。そういう事だ。一気にみつ子の体の隅々までメラが取り込まれ、もはや分離の出来ない状態になった。そう考えろ』
「……あ。ああ」
乾いた砂に水が染み込んじゃったイメージをしておこう。
……そうか、じゃあメラはもう……。
「ガル」
『なんだ?』
「メラの事……その……悪かったな」
『メラが決めたことだ。それに……良いことばかりじゃ無いかもしれないぞ』
「へ? な、なんなんだ? 何か良くないことが?」
『……まあ、今は喜べ、お前のみつ子は生き残った』
「お、おう……」
ヨグ神の呪いはそのまま更に圧縮され、やがて1つの黒いガラス玉のような状態になる。すると、すぅっと封印式の魔法陣のような文字が薄くなり始める。みつ子もそのまま浮遊状態が解け始めだんだんと地面に近づいてくる。
そのまま、みつ子の足が地面に突くと、少しふわっと広がっていた髪や、腕が力なく落ちる。空から降ってきた少女を受け止めた瞬間に胸のペンダントの明かりが消えるような、そんなギミックだ。
俺は、意識のないみつ子がそのまま倒れそうになるのを抱えた。
チンッ。
まさにガラス玉が落ちるように空中で固定されていた呪力の塊も地面に落ち、コロコロと俺の足元まで転がってきた。
……ん。
地面の<聖刻>が刻まれた石にも特に反応はしていない。魔力視でみても玉から魔力が漏れ出てる感じもしない。俺はそっと、指で触れてみるが熱くもない。むしろ少しひんやりしている感じだ。
『ビビるな。もう問題ない』
「そ、そっか。これ、割れたりするとまた漏れたりするのか?」
『それも問題ないだろう』
ただ、そのまま置いておくのも怖いしな。埋めるか? それとも……。 少し躊躇して俺はガラス玉……いや、ヨグ玉を次元鞄に押し込んだ。
みつ子を抱いて洞窟の外に出ると、皆外で顔をこわばらせて待っていた。俺の顔を見ると一瞬ホッとしたようになるが、意識のないみつ子を見て再び顔を強張らせる。
「大丈夫だ。魔力切れで意識ないだけだから」
そう言うと空気が緩む。うん。この振り幅が客観的に見ると面白い。
おそらくミドー辺りは無理にでも洞窟に入っていこうとしたのだろう、ゾディアックとフルリエに止められたんだろうなと感じる。今回はジイさんには助けられてばかりだな。
「で、どうじゃった?」
「ああ、予定変更で。ヨグ神の呪いは完全に封印した。もうアンデッドが生まれることはねえよ」
「ふぉっふぉっふぉ。流石じゃの」
「いやあ、殆どみつ子の頑張りだよ」
「それじゃあ、旦那。もう石運びは……?」
「終わりだ」
「おお~~~。助かった~」
むう。ミドーもなにげにルーチンワークにゲンナリしていたんだな。
とりあえず、モーザが帰ってくるまでは集落に滞在する。村に向かってモーザと行き違ったらそれはそれでめんどくさそうだし。
ボストークたちを閉じ込めていた小屋を覗いてみる。どうやらかなり強引に自殺をしたようだ。そのまま先に死んだ部下をアンデッド化。残りの1人もアンデッド化させ、紐を引きちぎり、ボストークの腕を食いちぎりと、繋いでいた柱の周辺は酷い惨状になっていた。
「……まあ、ここは無理に掃除しなくていいか」
「ですね。モーザさんが帰ってくるまであと2日程ですかね。それまでもう1つの小屋にみんなで居ればいいと思います」
ジンも水魔法でキレイにしようかと考えたようだが、今後ここを使うかもわからない。もう放置で良いだろう。あとは何か貴重なものなどが無いかと探すが、聖書のような物や、何に使うかも分からない儀式用っぽい杖のような物や、柄杓のような物などが出てくる。
自分じゃ使わないが素材的には銀かミスリルかなのだろう、売ったら少し値段が付くのかな? まあ、プレジウソさんと相談してからだな。そんな感じでダラダラと教団の荷物などを見ていると、ミドーが小走りにやってくる。
「旦那! みつ子姉さんが目を覚ましましたぜっ!」
「お、ありがとう」
俺はなんとなく、ドキドキしながらみつ子に向かう。生命力をかなり使いまくり、メラがまじり……何か今までのみつ子と別人になったら……そんな不安もあるにはあった。
みつ子は俺たちが居住スペースとして利用している小屋で寝かせていた。
部屋に入ると、フルリエと楽しそうに話をしているみつ子が居た。
「みっちゃん。……その。どう? 大丈夫?」
「……ん? ショーゴか。妾は何も問題無いぞよ」
「……へ?」
「どうした。我が眷属よ」
「いや、みっちゃん………メラってそんな喋りしないから」
「……ふふり」
うん。紛れもなくみつ子だ。その後お互いに情報を交換する。みつ子はメラが体の中に入ってきた時は意識が無いため覚えていないらしいが。その後夢の中でメラが出てきて色々と話しをしたと言うことだった。目が覚める前の脳内ですり合わせでもしていたのだろうか。
俺は人格的なものが<混じる>のかと思っていたが、どちらかと言うと体の中にメラが同居している感覚に近いらしい。
「メラに体を乗っ取られるとかは、無いの?」
「それは無いみたいよ、もう少し私の中に慣れると意識のない時に動かせると思うって言ってたけど」
「だ、大丈夫? 怖くない?」
「ううん。メラちゃん良い子だよ~。500年くらいすれば龍化もさせてくれるって!」
「りゅっ龍化??? てか。500年???」
「ふふふ。面白いスキルも手に入れたんだよ」
「スキル?」
「<火龍代行>だって。いひひひ」
「なっ!!!」
俺は嬉しそうに報告してくるみつ子に言葉を失う。龍の代行って……。
でもそれ以上にみつ子は龍の後見人の俺に何百年も一緒に付き合える。その事実が嬉しいようだった。確かに俺だけ若いままで年老いていくみつ子と一緒にいるのは辛いかもしれないが、何百年も俺のスキルにつき合わせてしまうというのも、それ相応に申し訳ない気がしてしまう。
……それでも。
今は無事なみつ子に俺は感謝することにした。
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