第160話 戴冠式フェス 3

 祭りの雑多の中をみつ子と歩いている。


「省吾君、少し大きくなった?」

「まあ、このくらいの世代は身長が伸びる時期だからな」


 みつ子の言う通りこの一年弱で割と身長は伸びたと思う。俺が日本で大人になったとき170cmくらいの身長だったが、なんとなくその時より伸びが早い気がする。厳密なところ身長を測れるメジャー的なものを持ってないのでわからないと言うのが実情だが。


 日本で子供の頃に夜遅くまで深夜ラジオを聞いたりしていたのと比べて、日中働いて、肉をガツガツ食べて、夜はしっかり寝てと言う生活のせいもあるのだろう、もしかしたらもうちょっと大きくなるかも知れないな。ふふふ。


 みつ子は……少しだけ膨らんだかな? いや。あまり変わらないか?


「ちょっと。どこ見てるの?」

「え? いや。ちょっと前より見下ろす感じだなあと」

「……ふ~ん」


 おうおう。気をつけろよ。省吾。


「結局こっちに来ちゃったのな」

「来ちゃったって何よ」

「いやあ、だってあっちにも友達出来てたんだろ? いくら同郷の転生者が居るとはいえ」

「うーん。なんていうの? 結婚願望って言うのかな?」

「は? へ? お?」


 突然の振りに俺はしどろもどろに成る。全くもって女性というやつはわからん。結婚願望って……流れ的に……俺とか? いやいやいや。でもなあ。うーむ。あるのか? 無い訳でも無い? ぬう……。


 困惑に困惑を重ねたような俺を無表情に見つめるみつ子の本心は、とても俺にはわからん。俺に出来ることは、誤魔化すように話をそらすことくらいだ。


「そう言えば、シュワの街で食べた焼き牡蠣の店があるんだけど食べる?」

「え? そっかゲネブに来ていたんだ。シュワの街で探したけど見つからなかったの」

「お、みっちゃんも気に入っていたんだ」


 再びおばちゃんの所に行き、焼き牡蠣を頼んだ。当然俺も3つお願いして食べた。




 それから少し祭りを眺めて2人で露店まで戻った。


「えーと。今日から……省吾君、会社名とかあるの?」

「ん? サクラ商事だよ」

「うん。サクラ商事の一員になります、みつ子と言います。よろしくね」


 突然の挨拶にモーザとスティーブが固まる。


「あ、ああ……」

「す、スティーブです」


「まあ、そういうことなんでよろしくな? 冒険者ランクも、D? だったっけ?」

「この度、Bになりました」

「へ??? まじで?」


 モーザとスティーブも当然驚く。Bランク冒険者と言えば、ゲネブにだってそうは居ない。でも前に会ったのってたかだか半年前だよな。


「え? なんでそんなランク上がるの早いの?」

「ん~ アルストロメリアのコネ的な?」

「まじか……」


 以前、スス村のダンジョンであったアルストロメリアのユニオン員が、辞める前に代表のパンテールから1つ大きな仕事をするように言われたと言う話を聞いたが。それがBランク昇進の為の試験だったと言う話だ。


 パンテールはみつ子がアルストロメリアを脱退する希望を出しても無理やり引き止める事はせず、みつ子が違う土地で冒険者として生きていくならBランクにしてから行ったほうがより生活が楽になるだろうと考えたようだ。

 実際Bランクの実績にはまだ足りなかったらしいが、ゴリ押しで本部のギルドに認可させ、ちょうどBランク試験に挑むパーティーが有ったのでそれに参加させたと言う。Bランクの試験はその時により内容は違うらしいが、みつ子達はBランク相当の魔物を3匹仕留めることで試験をクリアしたらしい。


 みつ子はパンテールにかなり恩義を感じているらしく。話を聞くに俺もパンテールの大物っぷりを痛いほど感じた。女性冒険者としては完全にカリスマ的な存在なんだろう。


 うん、スス村のダンジョンでアルストロメリアに喧嘩を売るような発言をしたのは内緒にしておこう。



 テントの撤収は祭りの気分を壊さないようにと、夕方以降から行うように言われているようで、売り切れの看板を出すと鍋や魔導コンロなどの備品の撤収だけを始める。みつ子も私も手伝いますよと、あれこれと細かく動く。そんな日本人的な行動に俺も少し居心地の良さを感じてしまう。


「みっちゃんはホテルかな? ゲネブに着いたのは昨日?」

「うん。昨日の夜に着いたの。お祭りに間に合ってよかったぁ」

「ラモーンズホテル?」

「あ、やっぱりゲネブにもあったんだ。よく分からなくて適当に入ったんだけどね」


 これからゲネブに住むようになると今のホテルだとちょっと金銭的にキツイなと言うので、明日またちゃんと探そうという話になる。



「師匠! 私を弟子にしてくださいっ!」


 ん? 店に鍋を置いて露店に戻ってくると1人の少女がオヤジの前で必死にお願いをしていた。


 どうしたんだ? とモーザに聞くと何やら屋台で食べたテンイチに惚れ込んだ子がオヤジに弟子入りを申し込んでいるらしい。


「弟子と言ってもな。うちはそこまで客が多いわけじゃねえから人を雇う余裕なんてねえぞ」

「お金なんていらないっす。下働きでも何でもしますからっ!」

「しかしなあ……」


 たしかに、あの味はこの世界の人間にはちょっとカルチャーショックを与えてもおかしくないものだ。そんな子が現れても不思議じゃないな。


「受け入れてあげたらどうです? 今回の祭りでテンイチの認知度が上がるともしかして限定量じゃ厳しくなるんじゃないですか? 客も増えると思いますよ?」

「だが、ウチはジローがメインだ。おまけで作ってるテンイチに惚れての弟子入りと言われてもな」

「あたし、ジローも大好きです。いや。むしろ元々ジローのお店をずっとやりたかったんです。師匠お願いしますっ!」

「ううむ……」


 まあ確かにジロー屋だからな。そこら辺のプライドもあるか。


 しかし女の子の熱意はかなりのものだ。やがて押し切られるように試験的にしばらく働いて見ることになった。


 ベルと名乗った女の子は、15歳。俺と同い年だった。お金はいらないと言うだけあって、それなりの商会の娘だと言うことだ。俺は知らなかったがオヤジは商会の名前を聞いて少し驚いたくらいだ。まあ金持ちの道楽にならなければいいけどな。身元は保証できるようだ。



「……やっぱ転生者特典とかあるんじゃないの?」


 後ろで何かみつ子がつぶやいている。


「え? どういうこと?」

「省吾君の周りに少しづつ若くて可愛い子が増えてくるんじゃない?」

「へ? いや。まさかあ」

「……ハーレムは駄目ですからね」

「やめて。みっちゃんだけで十分だから」

「え?」

「ん……」

「……意外とドンファン的?」

「やめてー」

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