第161話 ゲネブのみつ子
戴冠式のフェスティバルの翌日。みつ子に事務所の合鍵を作ったり、宿を探したりと約束をした。宿なんて実はあまり知らないんだけど「花の家」なんて良いかもしれない。Bランカーには不満かもしれないがあの宿なら風呂もある。
今日はみつ子はこの世界の服に身を包んでいた。ただ、なんとなく拘りがあるのかな? ちょこちょことイジって日本で見かけそうな感じに直してある気がする。
ホテルのエントランスから出てくるみつ子をなんとなく眺めていると、ニヤリと話しかけてくる。
「ふふふ、ごめんね。今日はコスじゃなくてさ」
「え? いやいや。この世界の服ってだけで十分コスプレみたいなものじゃん」
まだまだ道に迷いそうだとみつ子が言うもんだからわざわざ迎えに来たんだが。うん、かなり良いホテルに泊まりやがりますな。ラモーンズホテルと同程度の感じもする。
「で、ホテルだけどどのくらいの値段で考えているの?」
そんな事を話しながら合鍵を作ってくれる店を目指す。アルストロメリアでは給料は歩合でクエストをこなした依頼料は一度ユニオンに入り、その額から換算して給料が出ているようだ。住まいはアルストロメリアの宿舎に住むことが出来、そこでは賄いも有るためあまりお金を使わないで生活は出来たという。
「一応Bランク試験前にはそれでも相当無理して依頼の数をこなしていたから、辞めるときには大分お金は貰えたのよ。ある程度なら余裕あるわよ」
といっても、ホテルだと毎日の支払いがなかなかデカくなる。Bランクならゲネブの冒険者ギルドで冒険者向けの宿舎が使えないかな? たしか以前トゥルに教わったのを思い出す。みつ子は男だらけの宿舎は抵抗がありそうだったがとりあえずどんな物なのかだけでも聞いてみようという話になる。
なんか久しぶりに冒険者ギルドに入ると、少し緊張してしまう。辞め方が辞め方だしな。
朝の忙しい時間は少し落ち着いてきたのか、そこまで混んでいなかったのが幸いだ。青髪のシシリーさんも受付に居たが2人ほど並んでいるので男性職員の所に行こうとするとシシリーさんと目が合う。
……ていうか目が合いすぎる。他の職員の所に行くのをまるで責めるような無言のプレッシャーを感じる。
プレッシャーに負けてシシリーさんの列の後ろに並ぶと、今度はみつ子が速やかに疑問をぶつけて来る。
「へえ。あの青髪の美しい女性の所にわざわざ並ぶんですね。ほかは空いているのに、あえてあの美しい女性の列に並ぶんですね」
「おーい。みっちゃん。怖いって。シシリーさんはちょっと訳有りで、色々あるんですよ」
「ふふふ。訳有りなんですね」
「後でちゃんと説明するからっ」
なんかシシリーさんは凄い勢いで仕事を片付けていく。すぐに順番はやってきた。
「ショーゴさん、お久しぶりです。あのう。色々と警戒するお気持ちは解るのですが、その上の……魔法ですか? 収めてもらってもよろしいですか?」
あ。あれ? もしかしたらあの視線は龍珠の事を言いたかったのか。
必死に龍珠の説明をする。と言っても龍珠と言う名前までは話さなかったが。やがて危ないものじゃ無さそうと判断したのか少し警戒を緩めてくれた。
事情を話し冒険者ギルドの宿舎を使えないか聞いてみる。シシリーさんはみつ子がBランクの冒険者だと聞くと始めは驚いていたが、アルストロメリアの出身というと今度は有名人を見るような反応に成る。やっぱアルストロメリアは結構名前が通っているんだな。
「すいません。冒険者ギルドの管轄の宿舎は今空き待ちの状態なんです。それと一応はCランクまでの冒険者を対象にしたシステムですので、Bランクの冒険者だとやはり個人で住宅の確保をしていただく様にお願いしておりますので……」
うーん。Bランカーに成ってくると依頼の手数料が取られないと言う話だったし、そこまでの補助は出来ないのだろう。そもそもがBランクになれば依頼も額が上がりそうだからな。収入的にはかなりゆとりがあるとみなされるんだろう。
言われてみればその通りか。
お礼を言って立ち去ろうとするとシシリーさんが質問をしてくる。
「あのう、すいません。ショーゴさん。ミツコさんとはどの様な?」
「え? えっと。いやなんていうか――」
「婚約者なんですぅ~」
突然の質問になんて答えるか悩んでいると、みつ子がブチ込んでくる。
「おーい。ホントかよ」
「本当ですよ」
「うーん。まあいいか」
「良いのかよ!」
と。やり取りを引き攣った笑顔で見つめるシシリーさんが、ぼそっとつぶやく。
「ほほほ。お待ちのお客様が居ますので続きはお二人でどうぞ」
「すっすいません」
「謝らないでください!」
「ごっごめんなさい」
なんとなく黒いオーラを醸しつつ有るシシリーさんに謝りながらギルドを出た。
冒険者ギルドの宿舎が駄目と言うことで、当初の予定通り「花の家」に行ってみる。みつ子はアットホームな雰囲気がすぐに気に入ったようでチェックインをしていた。値段的にもロングステイをしてもなんとかなりそうという事だ。
その後、2人でちょっとしたカフェで昼飯を食べた。
まずは黒目黒髪を警戒する王国が監視の為に作った組織がある話をする。シシリーさんの事を話すにはそこからが良いだろう。コスプレ時の髪の色、目の色で転生してきたみつ子は全くそこら辺の苦労は無かったため、そんな存在が有る事は全く知らなかった。
それでも今は、トップのピケ子爵……もう伯爵なのか? がそこら辺の警戒を緩めてくれて、投獄されたときも助けてくれたんだと話すと、ようやくみつ子もホッとしたような顔になる。
それにしてもさっきのシシリーさんに言った言葉、本気なのかイマイチ分からない。そういうジョークを楽しむキャラにも見えるしなあ……。実際本当にコッチに居を移すつもりなのだろうか。それとなく探りを入れるとみつ子がポツポツと話を始めた。
「私さ、日本に居た時に友達で外国人と結婚した知り合いの子が何人か居たのね」
「へえ、なんかセレブな環境で育ったんだね」
「そんな事は無いんだけどね。で、外国人と結婚した友達と話していると結構愚痴が多いのよ」
「愚痴? あんまり上手く行ってないって事?」
「そう。だって外国で生まれ育って外国の文化が根づいた人と、日本の文化で育った人が一緒になって生活していくんだよ? やっぱり合わないことっていっぱい有るみたいなの。結局離婚しちゃった子も居たし」
「まあ、そうかもね」
「それが同じ地球人の中でもあるのにさ、コッチは異世界だよ? 外国人どころじゃないと思わない?」
「……言われてみれば……そうかもね」
「だから、省吾君と出会ったとき、あ、これはっ!って思ったの」
「ははは」
「それでエルフの集落までついて行ってどんな人なのかなって見ていたんだけど……」
「お眼鏡にかないました?」
「うん……」
みつ子は空いたティーカップを弄りながら少しうつむきながら答えた。ほんのりと赤く染まった頬を見ると、この子は本気で考えているんだななんて思う。こんな話をされて居るのに妙に冷静に観察しちゃってるじゃねえか俺。
「あでも、そういう考えだけで省吾君をって訳じゃないのよ。一緒に居てとても居心地が良かったし、優しさも……なんていうかこっちで会う男の人とは違う感じがして、やっぱり日本人って良いなって……」
「そっか……」
「……変かな?」
「いや。嬉しいよ。その理論すごい納得だし、まあでも俺おじさんだよ?」
「関係ないよ。男の人は大人になってもずっと子供みたいってよく言うじゃん? それに前より大分若くなって来てるよ。体の年齢に影響うけてるんじゃない?」
「ははは。もともと精神年齢はあまり高くないおじさんですね」
……話を聞くと理由としては納得はできる。ただ、まあ実年齢の差ってのはどうしても考えてしまうんだよな。俺は別にそんなイケメンってわけでもない。個人分析ではあくまでも普通だ。普通。こんな可愛い子に懐かれれば否が応でもデレッとしてしまうのはおじさんの弱点だ。
それでも、2人は出会ってそんな長いわけじゃないし、もしかしたら気になることも出てくるかも知れない。しばらく一緒に仕事をしながらゆっくり考えようよ、二人共一応は若いんだから。なんて話をポツポツとする。
「まあ、とりあえずよろしく。というより、ようこそゲネブへ。かな?」
「よろしくね。王都から離れた辺境の街だけど、想像以上に立派な街でびっくりした」
「デカイよね。俺も裕也に連れてこられた時は大分テンション上がったなあ」
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