第127話 オーク討伐 4

『バッ。馬鹿ナ!!』


 驚きで固まってるうちにケリをつける。すばやく開いた穴に体をねじ込み長老に向かう。入り口では団員が頑張ってる。副団長も俺の姿を見てさらに攻勢を強めていく。攻勢を受け、護衛は駆けつけられない。


 チャーンス。


 長老がこちらに手を向け何か魔法を発動させようとする。させないけど。<ノイズ>で阻害しながら腰ダメに剣を携え一気に詰め寄る。


『親方様!!!』


 長老オークはその絶叫を最後に真っ二つになる。俺はやってきたレベルアップ酔いに耐えながら副団長らの方を見る。


 副団長は長老が死んだことでデバフが解けたのか一気に形勢をひっくり返し護衛のオークを屠っていく。やはりヤベエな。あの人。



 やがてオークが全て倒されると警備団達は歓声をあげる。何気に同じくらいの人数でオークたちを殲滅してる。警備団の錬度はなかなか高いよな。




 ……いやしかし。ホントの親玉が帰ってくるんじゃねえか? だけど俺がオークの言葉を理解した話とか出来ねえしな。どうする?


 ……嘘も方便か。


「すいません、副団長」

「ん? おお。お手柄だな。大したものだ」

「あ、ありがとうございます。あの、ちょっと気になるんですが……」

「どうした?」

「俺が前に此処でオークの集落を覗き見したとき、姿は見えなかったんですが、この小屋の中に向かってあの爺さんのオークがうやうやしい態度を取っていたような気がするんです」

「ふむ……」

「もしかしたら親玉みたいなのが狩りに行ってたりしてないかって、ちょっと不安で」

「……なるほど。分かった気を引き締めるように言っておいた方が良いな」


 副団長が団員に警戒を続けるように指示する。

 ただ、一度緩んだ気持ちを再び締める事が出来るのか……。




 とりあえず、俺は弓を探しに行く。大事な弓だからな、短めだから次元鞄にギリギリ入るし威力も高い。超お気に入りの一品だ。無くした場所が何となくわかるうちに見つけないと。


 弓を放り投げたあたりに向かって走りながら陣地の方を見ると、調理をしてくれてた団員と目が合った。


「とりあえず、集落のほうは片付きました! 今は集落から出てるオークが戻ってくるかも知れないので、まだ警戒してるようです!」


 とりあえず大声で声を掛けておく。団員もホッとしたのか、嬉しそうに後ろに伝えている。するとモーザが走ってこっちについてきたので、少しスピードを緩め追いつくのを待つ。


「これで終わったのか?」

「いや、長老オークが死ぬときに、叫んだ言葉が気になってな。まだ終わってないかもしれない」

「は? オークの言葉??? 解るのか?」

「……ああ。一応内緒だぞ?」

「言っても誰も信じないだろ」


 オークと斬り合ったあたりに付くと、弓を探し出す。「此処らへんで、こうやって後ろに投げたんだ」そんな説明をすると一緒にモーザも探してくれる。弓ってほぼ木の枝みたいなもんだからな、紛れるとなかなか見つけにくい。黒だし。



「お前どんだけ思いっきり投げてるんだよっ!」


 放り投げた場所からかなり奥まったところでモーザが発見してくれた。いやいや。目の前に殺意バリバリのオークですよ? そこまで気を使えませんわ。


 お礼を言いながら受け取る。うんうん。弓は無事だった。これで何とか……?



 集落の方が騒がしい。


 慌てて森の中から開けたところに出る。建物の影で解らないが集落のほうで戦闘が始まってるような音が聞こえる。そして……いつかのドラゴン程では無いが、それを思い出させるほどの重厚な魔力が。


「……モーザ」

「ん? 残りが帰ってきたのか?」

「前に逃げるときにオークと戦った場所あるだろ?」

「ああ」

「あそこまで先に行ってろ」

「は?」

「ちょっとやばいかも」

「マジか。だったら1人でも多い方が――」

「悪いけど、警備団だったら見捨てられる。ただ、お前を見捨てて逃げれる自信がねえんだ」

「……足手まといは自覚してる」

「上手くいったらすぐに迎えに行くから。あ、バフだけヨロシク」



 バフをかけてもらい集落の中に向けて走っていく。モーザは大人しく林の方に走っていった。俺は右側から弧を描くように大回りをしていく。弓で遠くからなら……。


 小屋を迂回して横に出るイメージで走ってると、向かいからザンギたち3人が走ってくる。なんだ?


「ショーゴ! アレはヤベえ! 一気に数人殺られた! 警備団が止めてるうちに逃げた方がいいぜ!」


 おおう。さすが冒険者だ。命までかける馬鹿はいねえか。だが冒険者ならそれが正解だろうな。その後ろから4人組のパーティーも逃げてくる。いや、1人足りない。殺られたのかもしれないな……。


「ザンギ! 来る途中に俺たちが前に来た時に森の中で戦闘した場所あっただろ? あそこにモーザが行ってる。もしそのままゲネブに行くなら一緒に連れてってやってくれっ!」

「それはかまわねえが。お前戦うつもりか?」

「やれる事だけはやってみるつもりだ」

「……ホント変わってるなあ、お前……死ぬなよ」


 そういうと、ザンギ達は森の中に消えていった。くっそ。ザンギの野郎。お前の方が変わってるぞ! 帰ったら覚えておけ。




 矢筒から、1本矢を抜く。矢を番えながら1つの小屋の横を過ぎていく。――居た。


 そいつは他のオークより頭1つ、2つ大きいくらいのオークだったが、纏ってる魔力はヤバイ。確実に<上魔質>のレベルだ。皮膚の色も他のオークのような緑系じゃない。赤褐色の独特な色をしている。ハイオークとかいうやつか? 得物も棍棒じゃなくぶっとい剣だ。そいつが副団長とベテラン2人と余裕でやり合ってる。


 くっそ。戦闘中の団員で射線が取れねえ。


 副団長はやはり他の団員と比べても段違いに強い。剣に纏わせている魔力の濃さも、技の切れも抜群だ……だが足りない。モーザを連れて来てバフを掛けさせればもう少し希望があったかもしれないが。そんなリスキーな場に今のモーザを連れて来たくない。


 団員同士の連携は取れるのか、タイミングを合わせ後ろから魔法使いがファイヤーボールを飛ばす。しかし親玉はガン無視だ。当たるも殆どダメージを与えられていない感じがする。


 マジか。矢が通るのか???


 悩んでいると、俺の方角に居た団員が吹き飛ばされる。射線は空いた。行けるか。


 <剛力>で目一杯弦を引き、ガッツリと魔力を込める。



 ブンッ!



 魔力を纏ったまま矢はまっすぐに親玉オークのこめかみに向かう。行けっ!


 矢が刺さると思った瞬間、オークはチラリと矢の方に目線を送り剣で払い落とす。くそっダメか。そのまま副団長等を相手取りながら俺の方をにらみつけてくる。


 うっわ……やべえよ。顔覚えられたかも……。



 遠めに3匹のオークが他の団員と戦っている。親玉の側近と言うか親衛隊的なオークなのだろうか。そいつらも今までのオークより強いのか? 明らかに人数は団員の方が多かったが仕留められていない。……先にそっちだな。各個撃破の後で皆で囲んだ方が勝機はありそうだ。


 俺は再び走り出し、親衛隊オークの射線を取れる場所を探し始めた。


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