第126話 オーク討伐 3

 土煙を切り裂き、オークが追撃を加えてくる。俺は慌てて弓を後ろに投げ腰から剣を抜き放つ。くっそ。デカイだけに威圧感がありすぎるっ!


 おぉぉぉおお!


 雄叫びを上げながらオークが向かってくる。横薙ぎに棍棒が振られるのに合わせ、仰け反るように躱しながらオークの手を狙う。<体幹>様様だ。指を何本か切り落とすと指とともに棍棒が後方に吹っ飛んでいく。藪の中で木に激突する音が聞こえる。


 うっし。これで戦意が……。


 うおおおお!


 オークは顔色も変えずそのまま拳を振り上げて殴りかかって来た。


 なるほど。戦闘民族だな。避けながら拳に刃を沿わす。小指あたりから肩口まで削ぐ。流石に痛みに顔をしかめ呻きを上げる。そのままオークの背後に回り。心臓を貫いた。


「はあ。はあ。イカれてやがる」


 すぐに回りを見渡すと、少し間引いたせいか形勢は少し盛り返している。弓を探すが適当に放り投げたせいか見当たらない。くっそ。剣で行くか。


 

 ザッシュッ!


 もう1匹戦闘中のオークを後ろから斬る。


「大丈夫ですか?」

「助かった。すまん」


 見るとオークと戦っていた団員の左腕が変な方に曲がっている。盾ごとやられたのだろうか。


「最初の位置に回復の方が陣地を形成しています。1人で戻れますか?」

「ああ、俺は大丈夫だ、それよりリュードを頼む」

「はい。その方は?」


 ……言われた方を見ると、若い団員が木に寄り掛かって座っている。直ぐに近くに寄るが怪我の酷さに目を覆いたくなる。肩口から肉がえぐれている。すでに意識も朦朧としている。


 あそこまでは保たないか。同じことを考えたのか年配の団員が腰からポーションを手渡してくれる。急いで蓋を開け飲ませようとするがポーションにも気が付かないのか飲もうとしない。ぐぐぐ……致し方ない。ポーションを口に含み若い団員の口を開けさせ……マウストゥーマウスだ。


「がはっ! ……な、何を!!」

「残りは自分で飲んでください!」


 そう言うと若い団員の口にポーションを突っ込んだ。団員はポーションを飲み干すと直ぐに立ち上がる。しかし失血のせいか足取りは怪しい。再び回復の場所を教え行ってもらう。そのまま俺は奥の乱戦に成ってるところに向かって走った。



 数が上回れば、警備団で何とか行けるようだ。3匹のオークを8人ほどで囲み戦っている。オークの死体も数体転がっている。後ろで倒れている団員が2人居たので駆け寄るが。1人はすでに事切れていた。もう1人は骨折か。オークの武器は鈍器の為切り傷よりこういった怪我が多そうだ。歩けなそうなので背負って陣地まで戻った。


「形勢はどうだ?」

「左はだいぶ盛り返しています」

「そうか、犠牲者は?」

「2名……確認しました」


 やがて左側のオークは片付いたのか、団員たちが集落の中に走っていくのが見えた。集落の方は大丈夫なのだろうか。オークの迎撃が左に偏ったため中はそこまで数は居ないと思うのだが……集落周辺を見ると魔力のモヤが濃い。あのジジイオークだろうか。


「集落の中に行ってきても良いですか?」



 許可をもらい集落の中に向かっていく。途中足を引きずり回復に戻る団員とすれ違う。


「大丈夫ですか? 今状況はどうですか?」

「ああ、俺は問題ない。集落にシャーマンがいる。呪いを掛けてくるからやっかいだ。苦戦してる」

「呪いですか?」

「近づくと力が抜けるんだ。それで護衛が倒せない」

「……なるほど。行ってきます」

「気をつけろよ」



 以前年老いたオークが出てきた大きめの小屋の前に団員たちが集まっている。どうやら中で徹底抗戦中の様だ。たしかに小屋の周囲に嫌な感じの魔力が溜まってる。近づいていくと横の小屋から血塗れのアトルとイペルが出てきた。


「だっ大丈夫ですか??」

「……俺の血じゃない」


 アトルがボソッと呟きながらニタリと笑う。


 なんだ? 小屋の入り口から中を覗く。


 !!!


 中は地獄のような惨状だった。細切れにされたオーク達の死骸が転がっている。しかもパーツが妙に小さい……子供たちか。やべえ。こいつら楽しんでたな。


 ……しかし、今はどうこう言う時じゃないのか。くそ。反吐が出る。




 大きい小屋の中では戦闘中のようだが、抵抗が激しく中に入れないようだ。入り口で詰まっているため、残りの団員も外でイライラしている。


「おう。ショーゴ。後は団員にお任せかねえ」


 ザンギ達は自分たちの仕事が終わったかのようにまったりしている。まあ、後この中だけなら冒険者の出番じゃ無いのかもな。でもまあ、命かけてるんだぜ?  あんまだらけるのは良くないと思いますよ。



 件の小屋の前まで行くと、中で戦闘をしている音が聞こえる。今は副団長ともう1人しか中に入れて居ないようだ。中には長老含めてオークが4匹居るようだ。副団長も相当な手練だと思うのだが、それでも切り崩せないのか。

 近寄ろうとすると、ある程度の距離に入ると呪いがかかるから気をつけろと言われる。なるほどそれで距離を取って待機してるのか。


 恐らく呪いというのはデバフの一種なのだろう。ノイズで何とかならないかと考えるが、道案内風情の俺が待機してる他の団員を押しのけて中に入るのは厳しいな。



『……ガ戻ッテクルマデ耐エロ!』


 中から長老らしきオークの声が漏れ聞こえてきた。


 ??? 他にも居るのか? ……転がってる死体を見る限りそれなりのオークが居たはずだ。あの時見たのが全部じゃないかもしれないが。左の隊に向かっていった一軍が人間を殺し終えて戻ってくると信じているのだろうか。


 ……分からないが急いだほうが良いかもしれないな。



 恐らくデバフの範囲はこの魔力のモヤが届く範囲なのだろう。個々に掛けるデバフとちょっと違うのか。他の団員に小屋を燃やしたり出来ないか聞くと、魔法を阻害する結界が有るようで火魔法も弾かれてしまうらしい。

 

 悩みながら小屋の後ろに回る。小屋はいわゆる丸太小屋で、横にした柱が入れ違いに組み合わせるように積み上げられ、壁を構成している。そして丸太自体に魔力が乗ってる。これで魔法を弾いてるのか?


 ううむ。


 ……支えてるのが角の木組みだけなら。壁に2つ切れ目を入れれば支えが無くなった間の丸太が崩れて入り口出来ねえかな?


 やってみるか。


 体に厚めにノイズのフィルターをかける。そのままモヤの中に入るが……うんデバフの影響は無さそうだ。さらに<剛力>発動。剣に魔力をたっぷり纏わせる。


 フー。フー。フー。


「フンッ!」


 最大魔力で斬りつける。バターのようにとまでは行かないが、思いの外あっけなく斬りおろせる。魔法の障壁のせいか中の様子がうまく感知できないが反対側であれだけの戦闘をしているんだ。気がつくほどの音では無いだろう。


 よし。もう一回だ。


「フンッ!」


 パシュ! 2つ目の切れ目が入るが、丸太の重さのせいか支えを無くした部分が崩れることは無かった。だが、これでっ! 足に魔力を纏い、<剛力>を乗せて思いっきり壁を蹴りつける。


 ドゴォン!! ゴロゴロゴロ。


 穴の向こうで驚きの表情でこちらを振り向く長老オークと目が合う。


「Here's Johnny!」

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