第128話 オーク討伐 5

 やる事は一緒だ。

 戦っているオークの死角からこっそり射殺す。間引きだ。


 最寄りのオークの横になる位置まで走る。団員たちはオークの重い一撃を盾でうまくいなしながら少しづつ手傷を負わせて行ってる。だが魔力差が有るのか仕留めるのに手間取っているようだ。


 獲物の横取りのようだが今は時間が全てだ。怒られないだろう。


 矢を番え、一気に引く。だんだん自分の弓の精度にも自信が出てきてる。モーザのバフのおかげかミリ単位での調整も利くような気分だ。死にさらせ!


 ブンッ!


 矢は的を違えず耳穴に吸い込まれていく。突然の事に一瞬団員が惚ける。


「副団長の支援を!」


 叫びながら次の標的に向かい走っていく。団員も直ぐにハッとし副団長が戦っている場所に走っていく。矢筒に手を回すと……あと3本か。もう少し有ったはずだがどこかで落としたか? まあいい。雑魚はこれで足りる。


 ――ここだ。


 ブンッ!



 あと一匹。

 最後のやつは少し林の方で2人の団員とやりあってる。こちらからだと団員と重なる。くそっ面倒くさい。再び矢を番えながら射線を探す。



 ボフッ。ボフッ。ボフッ。



 その時、後ろの方で魔法のような音が3つ鳴り響く。ちらっと後ろを見ると上空で3つの火の玉が消えていくのが見える……なんだ? まさか。


 嫌な予感を強引に押し止め、再び雑魚オークの方を向くと団員たちが叫ぶ。


「撤退だとっお! くっそ。動けん!」


 やはり……撤退の合図か。


 気持ちが緩んだのか団員の動きが乱れ、オークが攻勢に転じる。おかげで射線は開いた。こいつだけでもっ。


 ブンッ


 倒れていくオークを尻目に、団員に声をかける。


「今のって、撤退の合図なんですか?」

「そうだっ! まさか副団長が? くそっ行くぞっ」


 団員には撤退信号は絶対なのだろう。1人が状況が掴めない仲間に怒鳴りつけ2人は集落の中央を避け、林の方に向けて走っていく。


 くそ、間に合わなかったか。ここからだと親玉オークが見えない。どうするか。矢筒の最後の一本を抜き、再び番えながら親玉の見れる場所へ移動していく。


 そのさなか、ススっと視野が狭まるような感覚に襲われる。バフが切れたか。



 親玉オークはまだ4名の団員に囲まれて戦闘中だった。しかし、魔法使いなどはすでに撤退をしたのか見当たらない。……なるほどこれが原因か。副団長は右手を失っていた。しかし今は盾のみでギリギリの所で親玉オークの攻撃を捌きながら時間を作ろうとしてるようだ。


「お前たち、早く撤退しろっ! そんなに保たない」

「馬鹿言っちゃいけません。隊長も一緒に!」

「駄目だ! 命令だ!」


 くっそ、そんな会話見せつけられたら……


 親玉オークは4人に囲まれても、見事と言える動きで後ろを取らせない。バフが切れた今の俺にはちょっと狙える自信が無い。どうする。


 一瞬の逡巡の中でも刻々と状況は悪くなる。1人の団員が致命傷を受けると、とたんにバランスが狂いだした。ちくしょうめ。俺も戦い続けて魔力が不安だぞ。


 俺は矢を筒に戻し次元鞄に弓を押し込みながら走り出す。もう1人の団員の首がはね飛ぶ。その瞬間に抜刀しながら斬り上げた。


 スッ。


 親玉オークはまるで見えてるかのように体をずらし俺の一撃を避ける。


「冒険者が命を張らなくて良い!」


 副団長の怒鳴り声が聞こえるが無視。そのまま一歩踏み込みながら、剣の魔力を更に濃くし、返す剣を振り下ろす。


 ガキィィィ!


 親玉オークが大剣で俺の一撃を弾く。くそっ。これも駄目か。


『サッキノ小蝿カッ!』

「その小蝿に、残りの仲間は全員殺されたぜ!」

『オノレ! 人間ガ!』


 大剣がうなりをあげて俺に向かう。モーザのバフが無くてもこういうのは見えるぜ。斜めにした刃の上を滑らすように大剣の軌道を流す。と同時に魔力を込めた右足でオークのスネの辺りに向けローキックを食らわす。


 バン!


 オークの身体が一瞬グラつく。当たった? その回転のまま身体を回しながらバックブローのように剣を横薙ぎに振り切る。


 ガキィン!


 再び剣で防がれる。<剛力>は発動しつづけてる。それでも親玉オークに押されると剣は力負けする。化け物が。


 しかしそのタイミングで生き残ったベテラン団員が脇腹の当たりに斬撃を当てる事に成功。それに合わせてもう一発ローキックをっ! 当たる!


「副団長を連れて逃げてくださいッ! 1人なら逃げれます」

「出来るかッ! そんな事!」


 オークの切られた部分はうっすら血が滲むだけだ。この団員の魔力でもこのオークの薄皮を斬るのが精一杯のようだ。どうしようもない気がする。俺の魔力もだんだん残量が怪しい気がしてきた。それに副団長の傷は深い。団員はさらに言う。


「それよりっ。団長を連れて逃げてくれないか」


 ぐうう。やめろよどっちを救うとかいう究極の選択みたいなの。1人でちょっとづつダメージを受けていけばもしかしたら例のアレが発動して行けるんじゃないかな? なんて考えるのだが。アレは怖いからな。ミスったら俺が逝くし。なるべく安全に逃げたい。


 親玉オークは俺を中心に攻め立ててきてる気がする。さっきので逆鱗に触れたか? 盾は無いが何とか受けることは出来る。一度受けをミスれば命が奪われるギリギリ感の中、気持ちは集中していく。団員も負担が減ったのか何とかやりあえている。



 バシィィッ!


 再びローキックは決まる。……もしかして。


「こいつ、<危険察知>的な武器の危ない攻撃だけに反応するみたいなスキルがあるんじゃないっすか? 蹴りは割と入ります」

「なるほど……ありえるな」


 さっき見かけた時も魔法使いの攻撃は完全に無視をしていた。アレは無視してるわけでは無いんじゃないか?


『人間ガ、ちまちまト!』


 おっふ……俺の言葉は逆に相手にも<言語理解>させちまうのか。あまりネタバレ発言出来ねぇかもしれない。それでもっ。


「3人で逃げますよっ! 諦めないでください」

『逃ガスト思ウカ!』



 副団長も団員も相当疲れてるはずだ。しかし俺の動きで何かを感じたのか左手のみでしかも盾しか持たない副団長も、俺を真似てローキックを混ぜだす。いやでも。ただ蹴るだけじゃ……あ、それもちょっと違う。


「膝小僧の少し上の凹んでるところを外から狙ってくださいっ!」


 某○ー1グランプリの解説聞いた程度の知識だけだけどなっ!


 少しずつ日が傾きだす。人間と比べて魔物の視力は暗闇に強いのだろうか。いずれにしても俺も無尽蔵に魔力が有るわけじゃない。



 バシィッ!


 団員さんが上半身を果敢に攻め、スキを見ては俺と副団長で足元を狙い続ける。流石に効いてきたのか、親玉オークの足さばきが鈍くなってくる。蹴りに対しても大げさに避け始める。攻撃の手数も減り始める。


 次第に行けるんじゃないかという欲目が芽生え始めた時。


 クラッ……


 まずい。魔力が。しかし、ベテランの団員さんも行けると考え始めたのだろう。勢いが上がってきている。


「このまま押しきれるんじゃないか!」

「すいません、<剛力>使い続けてもう魔力が切れそうです」

「ま、マジか!」

「<剛力>切れたらやり合える自信が無いっす」


 それを聞いても副団長は冷静だ。


「タイミングを作ったら逃げるぞ。こいつの今の足なら逃げれる」


 <剛力>を切る前に、もう1蹴り……


 バズン!


 バゴォン!


 俺のローキックでグラついた親玉オークに間髪をいれず副団長がシールドバッシュをかける。副団長の動きにまたローキックかと思ったのか、親玉オークは片足をあげて防ごうとする。親玉オークは片足でそれを受け、たまらずに後ろに下がり何とか転倒を避けようとよろめく。


「今だ!」


 と、同時に3人は一斉に背を向け森めがけて走り出した。


『許サンゾ!』


 副団長と団員は脇目も振らず必死に走る。俺は走りながら振り向き追ってこようとする親玉オークにダメ押しを仕掛ける。


 <光束>


 光の速さに適うものなどない。狙いは外さずオークの右目に当たる。

 攻撃力はなくても光を感知する機能を一時的に阻害することは出来るはずだ。片目がおかしくなれば、動きは制限される。


『グオオォォォオ』


 何が起きたか解らないまま目を押さえて悶絶する親玉オークを尻目に、そのまま全速力で副団長に続き森の中に飛び込んだ。

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