第129話 オーク討伐 6
ハァ、ハァ、ハァ
流石警備団の精鋭だ。辛いはずだが足を止めずに走り続けている。モーザに指示した場所には誰も居なかった。ザンギについて行ってくれたのなら助かる。
さらにそこから2時間ほど走り続けてようやく止まる。森の中はだいぶ暗くなり始めている。
「ハァ、ハァ、ショーゴ。助かった」
「いやあ、ホント俺も無理かと思いましたよ」
「あんなのが居るとはな。ショーゴが警戒を解くなと言わなかったら1人も生きていなかったかもしれない」
「……たまたまです」
走るのは止めたが、なんとなく歩みは止められないでいる。いつ追いかけてくるかという不安は切れること無く続いている。
そろそろ魔力がある程度戻ってきてるだろうか。俺は弱めに<光源>を出し足元を照らす。
「ふっ副団長。大丈夫ですかっ?」
明かりの中に浮かぶ副団長の顔をみて団員が慌てる。確かに……顔面蒼白だ。
それはそうだ腕を切り落とされ、そのまま戦い続け、更に2時間以上走り続けている。切り口の当たりに魔力が集まっているので、魔力で強引に血を止めているのだろうが、普通の人間に耐えられる状況じゃない。
「休みましょう。ここまでくれば危険性はだいぶ下がってると思います」
「しかし……」
「途中で倒れられた方が困りますから。無理はしないでください」
「……そうだな」
調理担当の団員に食料は任せっきりだったのか、2人は大した食べ物を持っていなかった。幸いなことに俺は余裕を持って持ってきていたので分けて食べる。
副団長の名前はロジン。もう1人の団員の名前はベンソンと言った。腹がある程度膨れるとようやく気持ちも落ち着いてくる。2人ともポーションを持っていなかったので団長に1本渡し飲ませる。やはりポーションでは切り傷が数センチ盛り上がるのがせいぜいのようで、欠損の回復までは出来ないようだ。
「必ず返す」そんな殊勝な態度を取る副団長に、貴族ならではの偉そうな態度が見えないのは領主の影響だろうか、それとも団長の影響だろうかなど考えてしまう。
俺はまだ余力がありますのでと、2人に休んでもらう。特に副団長は精神的にもボロボロに成っていたのか、木に寄り掛かると意識を失う様に寝入る。
気が高ぶっているのかベンソンさんはなかなか寝付けないようだ。以前にみつ子が作ってくれた薬草で煮出すお茶を作り2人で飲んだ。
「それにしても、ショーゴ君は何者なんだ?」
「え? いやもともと冒険者をやっていたんですが、色々あって今はやめて個人で似たような仕事をとってる感じですね」
「ふむ。それにしてもその年でそこまでやれるとは。驚いたぞ」
「色々あって、厳しく仕込まれてまして」
「そうか、そうなんだろうな、モーザも小さい頃からボーンズに相当しごかれていたしな」
「ボーンズさん、知ってるんですか?」
「そりゃ知ってるだろ、俺達は家族みたいなもんだ……ん?」
ベンソンさんが俺の後ろをみて一瞬警戒をする。しかしその警戒もすぐ解き嬉しそうに立ち上がった。
「おお、お前たちも生きていたか。良かった」
振り向くと、そこにはアトルとイペルの兄弟が相変わらずの無表情で近寄ってきた。なんだ? <気配感知>にまったく引っかからなかったぞ? 隠密系のスキルでも持ってるのか?
「お前たちも少し休め、疲れただろ?」
そう言ってベンソンさんが2人に近づいていく。
何かおかしい。
なんとも言いようのない嫌な気分に襲われる。これは駄目な<直感>だ。
「ベンソンさん! 2人に近づかない――」
一瞬の出来事だった。目の前でベンソンさんの身体がズレていく。
「嘘……だろ?」
倒れるベンソンさんの向こうで、ニタリと笑う2人と目があった。
「なっ何なんだ!」
「おお。流石ベテランの警備団員だ。一発でレベルが上ったぞ」
「あの寝てるのは俺がいただくぞ?」
何を言ってるんだこいつら……。
「ショーゴはレベルが低いからな。旨味が無いな」
「でも、金にはなるからな。不味いとは言えないな」
レベル? <鑑定>か? くそっ。レベルを見られてる。ノイズを纏うのを最近サボってたミスだ。
いや、それより……金……だと? 依頼した奴がいる?
……あいつか。
「ギルド長か?」
「ほう馬鹿では無いらしいな。レベルの割に弱くはないのが面倒だ」
「知恵で戦うタイプか。しかし、2人でやればすぐだろう」
やはり、ギルド長なのか。シシリーさん。対応できてないじゃないですか。
副団長は気を失ったように寝ている。いや。利き腕を無くしたロジンさんを戦わせるわけにはいかない。やれるのか。1人で2人と。いや。許さねえ。
こいつら……なぶり殺してやる。
いつまでもそんな無表情な顔をしてられると思うなよ。
苦痛に呻くさまをみてやるよ。
怒りで心が塗りつぶされていく。
「お前。何を考えている? もしかして」
「俺達に勝てるとでも考えているのか?」
気持ち悪い兄弟だ。ふざけやがって。ゆっくり剣を抜き構える。とたんに兄弟の雰囲気が変わる。Bランクか。ねとつくような殺気を纏い出す。
「ん……」
兄弟の殺気に反応し、副団長がガバっと起き上がる。
「お前達、何を……べっ、ベンソン!」
すぐに副団長が倒れているベンソンさんに気がつく。俺は兄弟に剣を向け、ロジンさんに背中を向けたまま話す。
「ロジンさん……巻き込んでしまったようです。申し訳有りません」
「一体これは……」
「兄弟が俺の暗殺を依頼されて居たようです。俺もベンソンさんも気が付かず……」
ロジンさんが少し考え込む。
「……いや。俺たちはオークに殺されてもおかしくなかったんだ」
「ロジンさんは寝ていてください。すぐに片付けます」
「な、何を言ってる?」
ロジンさんもBランク冒険者2人を相手に利き腕を失った自分と、俺とでどうこう出来るとは思ってないようだ。だが俺はこいつらを許すつもりはない。
「面白いことを言う。すぐに片付けるだと?」
「こっちはじっくり楽しむつもりだ」
ニタリと笑う2人の顔。
――それが最後の笑顔にしてやる。
喋りながらも2人はジリジリと俺を挟むような動きを見せる。俺は浮かべていた<光源>を一度切る。
「暗くすれば逃げられるとでも?」
「いや……」
今度は最大光量で<光源>を発生させる。
「くっ!」
一瞬目の眩んだ2人に斬りかかるが、2人は一気に後ろに飛び距離を取る。くそっ、やはり対処が早い。やっぱ普通に斬り合うのはキツイか。
「小癪だな。ロームを返り討ちするだけはある」
「下らない手を使う。しかしもう次は無いぞ」
「ローム?」
「狂犬の方が馴染み深いか?」
「あいつが失敗したから呼ばれたんだ」
フーーー。深く息を吐き出す。
ギルド長はよくもまあ。ムカつくやつを見つけてくるな。
「残念だが時間切れだな」
「放っておくと何をするか分からないな」
「そうだな」
「まだ勝つつもりの様だな」
「せいぜい足掻く姿を見せてくれ」
Bランクの冒険者にどこまで利くんだろうな。<ノイズ>も<ラウドボイス>も全開だ。
「!!!」
突然イペルが泡を吹いて膝を折る。
「何をしたっ!」
何を? お前も味わうんだろ? すぐにアトルにも<ノイズ><ラウドボイス>を食らわす。
「うぐっ。ぐおおお」
アトルの方が上か。ギリギリ意識を保ってるな。一気に距離を詰め剣を振りかぶる。攻撃の気配に何とか反応しているようだが……。 <剛力>を乗せ。魔力を込め。力いっぱい剣を振る。技巧も何もない。ただのフルスイングだ。
ガギャィン!
アトルの持つ剣を砕き。そのまま肩口から右手を斬り落とす。更に振りかぶり剣をカチャリと回す。激痛に呻くアトルの左肩めがけて剣の背を向け振り下ろす。
ボゴォン!
力一杯振り下ろす刀が、左の鎖骨から肋骨にかけ砕いていく。
「ぐあああああああああああああ」
「安心しろ。峰打ちだよ」
「がああ、ぐぐっぐぎぎぐ」
まあ、聞こえてないだろうな。早くもイペルが意識を取り戻しそうな気配だ。イペルの後頭部を思いっきり殴りつけ。次元鞄から出したロープで両手を後ろ手に縛る。背後でアトルが立ち上がるのを感知する。
振り返ると鬼のような形相で俺に飛びかかろうとするアトルと目が合う。その顔面に向けて<魔弾>を撃つ。蹴ろうとでもしたのだろう、その体勢のままひっくり返る。
「ヒィヒィ、ひゅるさんぞ」
「良いよ、許さなくて」
倒れたまま動けないアトルを上から見下ろす。すげえな。コイツまた心が折れてねえ。心臓を避け、肺だけ穴をあけるイメージで胸に剣を突き刺し捻る。空気の抜ける感じ。溺れるような苦しみに沈むアトルを背にし、イペルを縛り付けたロープを掴みロジンさんの前まで引きずる。
「どうしますか? こいつ」
ロジンさんは険しい顔で俺を見つめていた。
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