第130話 オーク討伐 7
「ショーゴ君。アレは苦しいぞ。楽にしてあげなさい」
ロジンさんは落ち着いた声で俺に話しかけてきた。
「いや、だけどコイツらベンソンさんをっ!」
「それでもだ」
「今日だって、オークの子供達を細切れにして遊んでいたような――」
「ショーゴ君」
ロジンさんはまっすぐに俺の目を見つめてくる……そうだな。
俺は剣を抜き、苦しさに呻いているアトルの元に行く。深呼吸をして、そのまま止めを刺した。今日2回目のレベルアップ酔いを受けながら、ロジンさんの元へ戻る。
「うん、それでいい」
「……」
「ショーゴ君が正義感が強いと言うのは解っている。だからこそ命の危険がある中でさえオークから俺達が逃げるのに手を貸し、そして成し遂げた。それは感謝してもしきれない」
「……」
「だけど普通に考えると、あそこまでやると言うのはある意味異常だ。警備団員ならそういう教育を受けているから、国や仲間の為に死ぬことを選択できる。しかし君は一般の国民だ。そう考えると君は正義感が強すぎるんじゃないかと思うんだ」
「強すぎる?」
「そうだ。強すぎる正義感は逆を言えば、悪に対して過剰すぎる反応をしてしまう。今の君がそうだ」
「……そうかもしれません」
ロジンさんは、ゆっくりと、やさしく。俺を落ち着かせるように言い聞かしてくる。
「正義というのは絶対的なものじゃない。人それぞれ相対的に違ってくる。君の場合は仲間を思ってくれているのだろう。それは間違っては居ないと思う」
「……はい」
「警備団も仲間が殺られればやはり同じ様に仕返しを考えるものも居るが、それは禁止されている。だんだん魔に落ちると言われててな。魔、と言うものが何かは解らないが後々後悔の念に苛まれる事はあるだろう」
「そうですね……気をつけます」
「説教臭いことを言って悪かったな、でも君はまだ若い。まっすぐ育って欲しい」
「はい。ありがとうございます」
その後話が変わり、イペルの装備は剥いだほうが良いと言われる。言われたように剥いでいくとたしかにブーツや鎧の中に刃物やらが隠してあったりする。油断していたら寝首を掻かれたかもしれないな。
アトルの荷物は俺が持っていくように言われる。アジルの時もそうだったがこういう殺し合いの時は返り討ちにしたら相手の荷物を奪うのは当然の権利として考えられているようだ。
さらに恐らくイペルはアサシン系の冒険者だということで縄を抜けたりするのが得意かもしれないと言うことで、ガッチガチに縛り付けるように言われる。
俺はやりすぎに反省したし怒りもだいぶ収まっては居たが、せめてもの意趣返しとして亀甲縛りをアレンジしたような、ちょっと恥ずかしい感じに縛り上げる。
「なんか、すごい縛り方だな……」
海老反りになり、アーティスティックに仕上げられたイペルをみてロジンさんも感心したように言う。いあ。別に縄師とかじゃないが、なんか動けなくしようとして色々やってたらめちゃくちゃ複雑な感じになっただけなんだ。
流石にゲネブまでは運べない為、ベンソンさんとアトルを埋葬し、明け方までロジンさんには寝てもらった。ロジンさんも<強回復>があるんだと強がっては居たが、流石に少し休まないと血が足りないだろう。
夜、眠い目を擦りながらお茶を飲んだりしながら時間を潰す。途中イペルが意識を取り戻したのが解るがあえてそっとしておく。なにやら色々と縄抜けを試みているようだが上手くいかないようで、そのうち大人しくなった。
夜が明ける前にロジンさんは目を覚まし、数時間だけでも寝ろと言ってくれた。それに甘え、少し仮眠を取った。
明け方に2人で食事を取り出発する。長めのしっかりとした木の枝をロープにくくり両端を2人で持ち、イペルを運ぶ。進みはゆっくりに成るが仕方が無い。たまに出没する魔物はなるべく<ノイズ><ラウドボイス>で気絶させながら進んでいく。何か言われるかと思ったがロジンさんはどうやって気絶させているのかなど聞いて来なかった。
道中は、ボツボツとロジンさんと会話を重ねる。失った右手に関してあまり気にしていないようだったので聞いてみると、貴族ならある程度の四肢欠損を治療する方法があるようだった。王都の大聖堂に居る「聖女」による治療や、上位の回復魔法をスクロールで習得して、自ら治癒させる方法など。自己治癒を使う場合は再びブランクスクロールに戻し返却しないとならないため、ブランクスクロール代など割りと金銭も掛かるらしいが、信用の置ける貴族だけに許されるような方法らしい。
なるほど、通常の回復魔法だとレベルを上げないと恐らく自己治癒でも四肢欠損の治療は出来無そうだからな。そうなると時間がかかる。上位魔法なら一発なのか。でも数は無いんじゃないのか? 相当レアなんだろうな。そう思って聞くと、普通のスクロールとしては出ないが、過去の聖人や聖女が死ぬ前にブランクスクロールへ移すことで現代まで残っていると言うことだった。
3日目の夕方にようやくゲネブへたどり着く。
「良かった、戻ってこれたな――って臭せえぞ!」
俺の事を心配してくれていたのか、モーザが北門で待っていた。駆け寄ってきたがすぐにイペルの臭さに顔をしかめて距離を取る。
それはそうだ。あまりにも複雑な縛り方をしたため、トイレの時に何もできずそのまま垂流さしていたので、ひどい状態だ。流石に俺とロジンさんは数日の間に少し慣れてきてはいたが、それでも臭いんだ。
すぐに第三警備団の面々もやってきて、話を聞くと憎々しげに、そして臭そうにイペルを詰め所まで運んでいた。
「これからあの親玉のオークはどうするんですか?」
「団長や領主と相談してになるが、集落としてはもう機能はしていないだろうからしばらく様子を見ることになると思う」
「そうですか。復讐にやってきたりは?」
「それはなんとも言えん。だが1人になったやつを探しにあそこまで行ってももう居ないと思う。見つかる可能性の低い遠征はしないだろう」
「そうですね、でも少し危険なのを残してしまった感じがしちゃいますね」
「そうだな、やつも元のオークの国に戻るだろうとは思うが」
「オークの国?」
何でもしっかりとは確認はされていないのだが、この世界の話としてオークの王国というものが存在すると言われている。そこからの独立なのか、屯田なのか周りに広がって集落を作ると言われており、時として人間の村などを狙って攻めてくることがあるらしい。
魔族との戦争が起こった頃、オークの軍団が魔族軍に合流し攻めてきたこともあり、魔族と同じように悪しき存在として人々に植え付けられている。
ただ、あの赤褐色のオークはロジンさんも聞いたことが無いようだ。通常のオークは全て緑系統の肌の色をしているという。オーガが赤黒い肌をしているという事で、もしかしたら交配種だったりするのかも知れないという。
なんにしても気味の悪い話だ。
「世話になったな」
「いえ、こちらこそ」
「イペルとギルド長に関しては俺の範囲で出来るだけのことはしてみる。あまり無茶はするなよ」
「ええ、わかってます」
とりあえず疲れたので今日は帰って眠ることにする。明日朝起きれないかもしれないからとモーザに鍵を渡し、もしなんなら合鍵も作っておいて貰うように頼んだ。
それにしても疲れた。体も精神も。いっそうの事ラモーンズホテルに泊まろうかと思ったが、今日はどちらかと言うと家に帰ってゆっくりしたい。ただ、猛烈に腹は減っていたので、モーザを誘って久々のジロー屋を堪能してから帰宅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます