第146話 特訓の終了(1人除く)

「でもまあ、十分だけ程寝ていいか? そこのソファーで」

「ん? 疲れてるなら今日はもう帰って寝ろよ」

「だけど裕也、お前王都に行っちゃえばまたしばらく会えないだろ? それに新しいスキル覚えたんだ。<良き眠り>とか言うやつ。10分寝ればかなり元気になるぜ」

「おお、マジだ。なんかあまり聞かないスキルだな」


 裕也が<解析>をかけて少し驚いている。


「解った少ししたら起こすわ」



 サクラ商事の子供たちが帰った後に、俺と裕也の2人で事務所でまったりしていた。裕也の許可を得てそのままソファーに横になり目をつぶった。


 ……


 ……



「おい、起きれるか?」


 一応気を使ったのか一時間くらいは寝かせてもらったようだ。おかげでかなり体は楽になっている。起きて元気が出てくると体の汚れが気になるもので、家に戻りシャワーを浴びてから飲みに行こうという話になった。着ているのも革鎧だしな。まあこの世界の冒険者はあまり気にせず鎧で飲みに歩き回ったりしているようだが、ちょっと嫌だ。


 


 裕也はあすなろ亭にでも行こうかと言うが、以前仕事をしたクレイジーミートはどうだ?と提案する。フォルの母親も働いているはずだから一応挨拶もしておきたい。

 裕也は特にこだわりは無いようだからかまわないという、昨日はスティーブとリンクを連れてあすなろ亭に行っていたらしいし。



「らっしゃいませ~。クレイジーミートへようこそっ!」

「ようこそ~」


 うおおお。店内に入った瞬間、俺の最終日に入ってきた男性店員がすぐに声をかけてくる。それに合わせて奥に居たフォルの母親や、ハミルさん達が唱和してくる。なんか従業員も知らない子が1人増えてる。


「……これ、省吾だろ? 仕込んだの」

「う……いやでもここまではやってなかったと思うが」

「日本でもこういう元気系の飲み屋あったな。こっちじゃ見かけねえよ」


 店内はなかなかの混雑ぶりだ。肉体労働系の仕事が多い世界だからかこういった肉肉しい店は人気になりやすいのかも知れない。


 お通しを出された際に冷たいエールを頼む。その注文にも裕也は嬉しそうな驚きを見せる。流石に夕飯にジローを食べた俺はそこまで腹は減ってないが、裕也は興味のあるものをぼんぼん頼んでいく。


「お通し文化もお前か。それにしてもエールを冷やしたのか。これは嬉しいな」

「良いだろ? この店のテコ入れをと思ったら日本のサービスしか思いつかなかったっていうのもあるけどな」




 冷えたエールは大分気に入ってもらえたようだ。頼んだ料理も喜んで食べている。話としては自然に今回の特訓の話になっていく。


「スティーブは良いな。あれは伸びるぞ。今回も<魔力操作>を覚えたらもう魔力斬に関しては何も問題ない位になってる。あと目も良いな、相手の動きをよく見てる。スキルの器もまだ8-9個は入れられそうだし、覚えていくスキルをよく選んでやればBランクの冒険者は問題なくなれるな」

「おお、やっぱ良いか。あそこの家は皆英才教育みたいに子供の頃から剣の使い方もおしえていそうだからな。あとは経験か。リンクはどうだ?」

「ううむ、やっぱ同じ様に剣の基本は出来ているがな、態度は大きいが基本ビビリなんだ」

「ん? そんな感じに見えないけどな」

「だからあれだけ戦闘をさせているのに戦闘系のスキルは全く生えない」


 そうか、今回も自分から特訓に参加したいって言ってきたしな、結構やんちゃでイケイケかと思っていたが……。あれ? 戦闘系のスキルは?


「戦闘系じゃないスキルが生えたのか?」

「ああ、<気配遮断>だ。いつ魔物が湧くか常にビクビクしてたしな、湧いた時も、なるべく自分にターゲットが向かないようにしてる感じもあってな」

「おお、でもすげえじゃん」

「意外だったけどな、そこは。後はゴーレムの落とした<頑丈>欲しがったから付けた、ただ恐らくあと2つ3つだな。入れられるスキルは」

「器もあんま大きくないのか。<魔力操作>のオーブが有るから魔力斬が必要ならリンクにあげても良いけどな」

「まあ、そこは様子見でも良いんじゃないか? 俺のミスリル混じりの剣ならストーンゴーレムにも傷を付けられるくらいにはなったから。<魔力操作>無くても魔力斬を使う奴らがほとんどだぜ? 冒険者としてレベルが上がっていくのもこれからだろう」


 なるほど、そう言えばフォルはどうなんだろう。魔法使いの育て方なんて良くわからないが。


「フォルか、剣は全く素人だったからな、それでもある程度使えるようには仕込んだが。ずっと魔法の練習もさせていたせいか、魔力斬もある程度出来るようになってな。剣でも十分戦えるようにはなった。まあ、スティーブと比べれば全然だが魔法がこれからドコまで伸びるかで大分変わってくるだろう」


 そうだよな、フォルだけは特訓継続中みたいな感じだもんな。木魔法の攻撃はトゲトゲの薔薇のムチとかのイメージが有るけどどんなんなんだろう。すげー強くなって帰ってきたら嬉しいよな。




 次の日の朝にはスティーブとリンクも裕也を見送りに来ていた。2人とも大分裕也になついてやがる。まあ師匠になるんだもんな。


 ホテルのレストランで皆で朝食を取りながら修行の話など聞く。



「裕也さんが、そこで3人で待ってろって、ダンジョンの奥に行くんですね。で。しばらくすると大量のストーンドールを引き連れて戻ってくるんですよ。それはもう大迫力でビビりまくりでしたが、何とか3人でそれを全部やっつけたんですよ」


 ん?

 

 おい……トレインドールズじゃねえ? それ。

 なんか裕也にすげえ怒られた記憶が有るんだけど。

 うん。


「裕也集合!」

 

 裕也も何かを察したようだ。少しキョドってる。


「お、おう。どうした?」

「トレインってなんだったんでしたっけ? してよかったんですっけ?」

「いや、あの時はだな。オレたちしか居なかったわけで――」

「俺の時も1人でしたが」

「いやまあ、1人だとちゃんと確認できないだろ?」

「……パクったんでしょ?」

「え?」

「おれのトレインドールズ」

「なんていうか……インスパイアか?」



 ふう。ダメダメだな。だがまあ無料でコイツら鍛えてくれたんだ。良しとしよう……無料……だよな?

 まあ、後で請求されたら、その時でいいや。



 これで、裕也達は王都に向かう。まあ俺も俺でゲネブの生活があるから忙しくてあっという間に数ヶ月過ぎるかもしれないけど、まあしばしの別れだ。ハヤトが王都の学院に行ったら一度くらい訪ねても良いかもな。旅行がてら。


「受験終わったら一度帰ってくるのか?」

「うーん。向こうでの予定が良くわからなくてなどうなるやら。それとエリシアが子離れ出来るかが心配でな」

「ははは」


 合格が決まったら下宿先を探したり、そこそこやることは有るみたいだが。10月に受験があり、数週間で合否が決まり。新学期が1月から始まるので微妙なタイムラグが有る。ピケ子爵の紹介が有るとはいえ、受験だ。落ちることも有るだろうし受験次第で動きは変わるんだろうな。


 もし王都に来ることが有れば、恐らくラモーンズホテルの本店に泊まってるからと言われる。まあ、行くことはないかな? 俺としては時間があったらみつ子の様子を見ておいてくれって言うくらいだ。辞める前の最後の大仕事で……なんてフラグも無いわけじゃない。考えると不安にもなるしな。



 走り去りあっという間に見えなくなる裕也を見送り、俺とスティーブは事務所に戻る。モーザは見送りに来ていないからそろそろ事務所にやってきそうだしな。鍵を空けないと。


「リンクまたな、せっかく鍛えてもらったんだ。頑張れよ」

「おう、兄ちゃん任せておけ」


 リンクもギルドに向かう、オーヴィやモナとギルドで待ち合わせているようだ。一ヶ月ぶりのパーティーでの活動だから楽しみなんだろう。


「昼はジローでも食うか?」

「今朝飯食べたばかりじゃないですか、いきなり昼の話ですか?」

「まあ、なんとなくな」

「ショーゴさんもモーザさんと修行に行ってたみたいですね」

「おう、モリモリに強くなったぞ、スティーブに負けてられないからな」



 ゲネブは一年中温暖な気候ではあるが、それでも夏と冬では温度差が有る。これからどんどん暑くなる時期だ。


 サクラ商事も熱く盛り上がるぜ。



※コレでこの章の終了となります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る