第六章 ゲネブの省吾 ~続謎の玉編~

第181話 国王……来るってさ。

 普段半分しか開いていないゲネブの正門が全て開かれ、騎獣に乗った5人の騎士に護衛された獣車が2頭立ての騎獣にひかれ街の中に入ってくる。


 一行の前には数人の第一警備団の兵が大通りの人々を道の端へ下がらせていく。


 住民に見守られる中進んでいく獣車にはゲネブの住人なら誰でも知っている旗が掲げられていた。


「お、おい。子爵様がお帰りだぞ」

「馬鹿野郎、今は伯爵様におなりになったそうだぞ」

「おおお。そうだったな」


 街の住人は貴族街に消えていく獣車を誇らしげに見送る。一年ぶりに帰ってくるピケ家の獣車に何が有ったんだとアチラコチラで噂が飛び交う。


 やがて御触が周り、国王の行幸が発表される。






「聞いたか? 国王陛下がゲネブに来るらしいぞ」

「ああ、そうなると……やっぱその間はレベリング休みかな?」

「ん? そうだな。やっぱ休みにしたほうが良いんじゃねえか?」


 仕事から帰ってきたサクラ商事の面々がソファーでリラックスしながら雑談をしていた。どうやら国王の訪問に合わせてピケ伯爵が先触れとしてゲネブに帰って、国王を迎えるための準備を始めているらしい。


 国王の到着に合わせて、ゲネブの大通りはパレードの様な出迎えをするらしい。やっぱ時の国王だ。俺だって見に行きたい。ミーハー? なんとでも言ってくれ。どちらかと言うとパーティーピーポーってやつだな。きっと。


「今日はどうする? ジローでも行く?」

「ん~。今日は私が作ろうかな。レベリング中に獲った鳥も有るし」

「良いねえ。棒々鶏とか食いたいなあ」

「蒸し器が無いじゃん……まあ茹でてそれっぽくやってみようか?」

「おう、良いねえ」




 2月も半ば。ふと考えてみるとこの世界に来て1年は過ぎてる。たしか1月の終わりの方だった気がするんだな。そうすると俺も体年齢的には16になっているわけか。


 ちなみにいつだか予約しておいたみつ子の為の<ノイズ>はゲネブ領内で残っていなかった為まだ手に入っていない。後はヴァシェロニア教国の本部から定期的に届くスクロールを待つだけなのだが、そればっかりは運次第らしいので、気長に待つことにしてる。



 サクラに座り、最近出来上がったオットマンに足を伸ばす。このポジションを争い、みつ子と争奪戦になるんだ。今日はみつ子が料理を作ってくれているから食後はここをみつ子に明け渡さないとならないな。


 俺は頭の上の2つの龍珠をゆっくりと回しながらルンルンと料理を作るみつ子をボケーっと眺めている。最近メラの方も割とちゃんと動かせるようになってきているんだ。


「そう言えば省吾君、ピケ伯爵と知り合いなんだっけ?」

「知り合いって言ってもなあ、来たばっかりの頃に裕也を訪ねて来た伯爵と少し話したくらいだぜ?」

「でも、転生者って知ってるんでしょ? 館に呼ばれたりして」

「それもなんか面倒だなあ。みっちゃんも一緒にどうぞって言われたら行く?」

「ん~。ちょっと怖いかもね」

「でしょ? 国家に巻き込まれたくは無いよね」

「そうね」




 それから2日、今のレベリングのクールの最終日。レベリングが終わった司祭が国王の訪問に合わせて準備等があるのでしばらく休みにしてもらいたいと言ってきた。もちろん予想はしていたので、そのまま了解し、また国王が出発して2~3日後から新しい人達を始めましょうという話になった。


 正直その間の仕事の予定が立たなそうだが、まあ仕方ないだろう。ちょっとした休み気分でまったりしようか。事務所でどうしようかと話していると、モーザは当然のようにドコか特訓に行きたそうにしている。ただ、国王がいつ来るかわからないからタイミングは難しいんじゃないかな。


 俺はパレードを見に行くつもりなんですよ。



 そのままジロー屋「カネシ」に行くと、オヤジが少し真面目な顔で話しかけてきた。


「ショーゴ。23日から少し時間開けといてくれ」

「ん? 23日っすか? なんかあるんですか?」

「国王の到着予定が23日なんだ」

「おお、じゃあパレードは23日ですかね、屋台でも出すんですか?」

「いや、国王の滞在中に料理を手伝うように言われててな、館に籠もってると思う」

「……えっと。ちょっと嫌な予感がするんですが」


 領主の館の料理番はオヤジの弟子に当たる人が今の料理長をやっているらしいが、国王の訪問で少し不安が有るとのことでオヤジに助っ人を依頼してきたという。まあ元々の料理長だから幾らでも手伝えると思うんだけどな。でも、なぜ俺?


「国王が、公爵からテンイチの話を聞いてゲネブに来たら是非食いたいとご希望のようでな」

「だったら、ベルが居るじゃないっすか。俺よりよっぽど助手として優秀じゃないですか?」


 ベルは戴冠式のフェステバルの時に屋台でテンイチを食べて惚れ込み、ジロー屋のオヤジに弟子入りした子だ。しばらく試用期間的な事を言っていたが、最近はオヤジに信用され始めているようだ。


「あたしは、師匠の留守の間店を守らなくちゃいけないんす。あたしだって国王陛下のお食事に立ち会えるなら立ち会いたいですよ。ショーゴさん光栄じゃないっすか」

「えー。でもテンイチならオヤジ1人で作れるじゃないですか?」

「そこはな。伯爵からのご指名なんだ」

「伯爵???」

「ピケ伯爵だ」

「げ……」


 断れなくなっちまった。


 頭を抱えている俺にモーザが嬉しそうに声をかけてくる。


「こんな事でもないと、貴族街になんて入れないんだ、楽しんでこいよ。俺たちはレベリングでも行ってくるから」


 するとオヤジは今度はモーザに言う。


「いや、お前たちは国王の滞在中に街の警備を手伝ってもらいたいそうだぞ」

「なっ!!!」

「どこに国王の暗殺なんて考えている奴が潜んでいるかわからんからな、冒険者ギルドからも信頼できる冒険者が少し駆り出されるようだ。なに、街中をグルグルあるいて怪しいの見かけたら警備団に報告するくらいのものだ」

「おおお、モーザ。仕事あってよかったぜ。レベリング止まると収入も止まるから悩んでたんだ。頑張れよ」

「そうだな。陛下がいらっしゃるんだしな」


 ん? なんとなくモーザはそういった仕事を嫌がると思っていたが、モーザの顔を見ると少し嬉しそうな顔に見えた。……そうか、元々警備団に憧れる子供だったんだ。そういうのを任されるのが少し誇らしかったりするのかもしれないな。


 まあ確かに俺もこんな事でも無いと貴族街なんて入れないかもな。


 オヤジが料理番用の白衣を買ったほうが良いと言うので、領主の館の料理番が使っている店を紹介してくれる。それと、やはり正装も買っておいたほうが良いと言われ作ってくるようにとも。確かに、こんな普段着じゃまずいか……。




※いつもありがとうございます。

新章始まります。あまり代わり映えのない感じかもですが。スゥイートな話は少なめになります。この章でゲネブでの話を一度完了できたらなと思っているのですが、果たしてどうなるのやら。

ほぼプロット無しでそのまま書いちゃってるので自分も忘れてた設定とか出てきてしまうかもですが、優しい目で。よろしくお願いいたします。

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