第196話 フォルとショアラ
国王がゲネブを発ってから1ヶ月ほど経つ。俺たちは淡々と日々の業務をこなす中いよいよアイツがゲネブに帰ってきた。
そう。フォルだ。
その日のレベリングを終え事務所に戻ってくると事務所に2人の気配があるのを感知する。モーザとスティーブが先に帰ってきたのか。そんな事を考えながらドアを開ける。
「兄貴!!! 只今帰ってまいりました!」
「おおお、フォルか。よく無事で帰ってきた……ってその子は?」
事務所にはフォルと一緒に可愛らしいエルフの女の子が居た。
「あ、コイツはショアラです。その……俺のコレっす」
そう言いながらフォルは人差し指を立てる。ん? 小指じゃないのか? 人差し指だとなんだ? しかしみつ子はすぐに理解したようだ。
「え? フォル君彼女出来たの???」
「何? 彼女???」
ぬぬぬぬ。いやまて。裕也とエリシアさんの二の舞とかに成ったら二度とエルフの集落に行けねえぞ。まずい……これはまずい。
「お前、誘拐してきたのか?」
「へ?」
「集落で魔法を教えてもらって、それなのに恩を仇で返すような……」
「ちょっ。ちょっと兄貴……」
「兄ちゃん情けなくて涙が出てくるわ!!!」
激昂する俺にフォルはドン引きしている。
しかしショアラはにこやかに笑い、フォルの腕をとる。
「違いますよ。私がフォル君に無理やりついてきたの。父の許可も貰っています」
「なっ!!! フォル貴様。魅了の魔法まで!!!」
「ちょっと省吾君、それは言い過ぎ」
「ショアラさん、大丈夫です。我々がきちんと親御さんの元に」
「アニキ~~~???」
ふう。なんて事だ。一番遠そうだったフォルがリア充か。いや。俺も人のことは言えないからな。フォルとしてはとりあえずショアラをサクラ商事に入社させたいようだ。ウチとしては問題ない……と思う。エルフらしく弓が大変お上手なようだ。だが負けないけどな!
聞けばショアラはハーフエルフの様で人間の父親が人間の世界も見てこいって感じらしいが。既に父親は還暦過ぎて、だいぶ高齢っぽい。ハーフエルフはエルフほどの長命じゃないと言っても、ウチラ人間族と比べれば相当長生きだろうしな。今生の別れまで覚悟してきているというから驚きだ。このフォルがそんな魅力的かねえ。
「は……初めて男性に裸を見られたんです。それで初めはすごく嫌いって思っていたんだけど。でもなんか意識しちゃって……気がついたら……」
「おう、フォル。殴っていいか?」
「駄目っす。勘弁して下さい。頭だって丸めて反省したんすから」
あの時の話か? たしか女性の成人の儀式だかで神聖な泉で体を清めるとか、それを覗いたのがバレて坊主にしていたな。しっかし。初めはムカつく相手だったアイツが、いつの間にか私の心の奥深くまで……なんてラブコメの主人公みたいな立場とはな。どうすればいい??? このモヤモヤ感。くそお。フォルの分際で。
ショアラのゲネブでの宿泊先についてどうするかの話になるとフォルが少し困った顔になる。自分の家が貧乏で狭い所で家族3人で過ごしているというのも少し気にしているようだ。
まあ、それは問題なさそうなんだけどな。
「ちょっと前にお前の家引っ越したぞ?」
「……へ?」
「ほら、母ちゃんが夜の仕事してるからさ。その間妹が1人なのを気にしてスティーブが色々気にかけてたみたいでさ、たまたまスティーブの隣の家が空き家になってな、まあスラムだけどまだ治安の良い所だからってさ」
「マジっすか?」
「おう、スティーブの家族が色々家の修理も手伝ってくれてさ。まあ俺も少しは手伝ったんだぞ。そろそろ帰ってくるからまた聞いてみろよ」
「スティーブの野郎。俺の妹に手を出したんスか???」
「ぶっ。……それはねえんじゃないかな。スティーブの妹たちとか年近いからそっちは一緒に遊んだりしてるみたいだけど」
「そ、そうっすか」
やがてモーザとスティーブも帰ってくる。
「おい、フォル。殴っていいか?」
「だっ駄目っす。モーザさん落ち着いて」
「ぎゃはははは」
「兄貴笑ってないで助けてっ!」
騒動も一段落すると、とりあえずショアラをうちに迎える事を決め。今後どうしていくかを相談する。みつ子もサクラ商事に……俺のハーレム要員じゃない女性が入ったことに少し嬉しそうにしている。
「あ、忘れてましたが兄貴。チソットさんからこれあずかってまして」
そう言うと、袋に入った何やらデカイ物体を持ち出す。部屋の隅にフォルの荷物やらショアラの荷物などがちょこちょこと置いてあり、それの1つかと思っていたが。
ああ、この大きさ。電話か。間違いないな。
「すげー重かったんすからね。なんですか? これ」
「これかあ、コレは……魔道具の一つなんだけどな。うーん。チソットさんは何かいってたか?」
「教えてくれなかったっス。もうちょっと試して完成したらって」
「ううむ。じゃあ。今はちょっと喋れねえな。チソットさんの作ったやつでさ。まだ試作段階でテスト期間中なんだよ。権利とかいろいろな問題あるだろうから、チソットさんから許可出したら教えてやるよ」
「えー。そう言われると気になるっスね」
周りを見渡すと皆、魔道具に興味津々だ。
みつ子に目線を送ると、やっぱ言わないほうが良いって反応だ。まあ、俺も言いたい気分がデカイがしょうがない。後で家に持ち帰って色々試してみよう。
まあなにはともあれフォルが帰ってきたんだ。ショアラも新規入社ということで歓迎コンパ的なのをしたいな。とりあえずスティーブにフォルの新しい家まで連れってって貰いつつ一度荷物を持ち帰ってもらうか。まだ自宅に居るか分からないけどショアラを母親に紹介したいだろうしな。
「母ちゃん居たらさ、クレイジーミートに6人分の席頼んでおいてよ。居なかったら直接行くけど」
「了解っす」
「じゃあ、一時間半後くらいか? クレイジーミート集合な」
がやがやと3人が事務所から出ていく。
「モーザはどうする? 俺たち一度家に戻ってシャワー浴びてから行くけど」
「ん? 俺はこのままでいい」
「そうか? 清潔にしておいたほうが女性にモテるんじゃないか?」
「うるせーよ」
しかしみつ子と事務所を出ようとすると、階段の下に懐かしい顔が立っていた。トゥルだ。
「おお、トゥル久しぶりじゃん。どうした? ボストン農場の依頼か?」
「あ、いや。違うんだけど……」
「ふーん。まあ立ち話も何だから事務所入れよ」
「あ、いや。出かけるところだったんだろ、またでいいよ」
ん? なんだ?
元々ちょっとオドオドキャラだったけど、ちょっと思い悩んだ顔をしてるな。まるで初めて入る風俗店の前で入店する勇気が出せない若者というか……たとえが悪いな。でもまあ何かあったのか? 少し心配になるな。俺は階段の下まで降りてトゥルの手を引く。
「まあ、良いから入れよ。みっちゃん。お茶でも入れもらっていい?」
「はーい」
「はい。入った入った」
「わ、分かったよ押さないでよ」
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