第195話 国王の夜食 5
「まさにショーゴからしか聞けない情報だった。やはり呼んでよかった」
「いえ。お役に立てれば幸いです」
「テンイチも美味かった。何か褒美を与えたい。欲しい物などあるか?」
お。褒美と来たか……。国王じゃないと手に入らないような物……1つあった。だがそれを望むなら話さなくちゃいけないことが多すぎる。むうう。
でも話しておいたほうが安心を得られるかもしれないな。
「もし可能であれば。闇魔法のスクロールが欲しいのですが」
室内が一気にしらけるのが分かる。やべえやっちまったか? 公爵も目を細めてこちらをみてる。相変わらずナルダンは夢の中だが。シーンと静まり返る執務室の中で国王が口を開く。
「理由は?」
「はい。実は私の上に漂っている玉。実はコレは龍珠と言って龍の卵のようなものらしいのです」
「は?」
「なに???」
よし。言っちまった。もう後には引けねえ。
「神話の中に巨人に対抗するために、龍神が5匹の龍を生み出して戦わせていると言う話があるのはご存知でしょうか」
「当然だ」
「先程の黒目黒髪の加護の話をしてくれたドラゴンがその時に、今でも龍達と巨人達が戦っていて、今では龍も2体しか残っていない。だがもうじき現れる。そう話してくれたのです」
「なんと……神話の中の戦いが今も続いているというのか。しかしそれでは戦況と言うのも危ういということか?」
「それに関しては、古の巨人も数を減らしているようで危機的な感じでは無さそうでしたが……」
「ふむ……」
うん、神話の中の話だと思っていたものが、あの山脈の向こうで今でも続いていると聞けば、まず実感もわかないだろうし、それが事実として語られれば驚きもあるだろう。
「私が雷魔法を覚えようとスクロールを使用した時、なぜか魔法を覚えることが出来ず。しばらくしてからこの金色の龍珠が出てきました。それと同時に<龍珠後見>と言うスキルが生えました。その後、火魔法も同じ様に覚えれず、この赤い龍珠が出てきました。そしてまだ私の中に龍珠の素のようなものがあと1つあるのです。無くなった3体の龍の数と同じだと気がついたのです」
「龍の後見人か……続けよ」
「はい。あくまでも憶測なのですが……。龍は光龍、雷龍、火龍、水龍、黒龍の5匹居たのも神話に残っております。元々光魔法は<光源>を覚えてあったため、あと可能性が有るのが水龍か黒龍。そう思い先日水魔法を購入したのですが、普通に使えるようになりました。そうなると残りは黒龍の龍珠であるとしか考えられないのです」
「確かに黒龍は闇魔法の龍と聞くな」
「魔法のスクロールを使うことが龍珠が産まれるきっかけであるなら、闇魔法のスクロールが無いと永遠に黒龍が産まれることが無いのかと、少し不安がありまして」
「ふむ……」
教会で抑えて無くても、王国には1つくらいスクロール無いかななんて思ったんだけど。どうなんだろう。1人オーティス伯が嬉しそうに俺のことを見ていてちょっと怖いんだが。
龍の存在は世界のバランスを保つためにも必要だろ? 妙にスケールのデカイ話だけど、闇魔法を求めることに対する罪悪は無いはずなんだ。
「残念だが王国には無い」
「無いん……ですか」
「ああ、そもそも闇魔法のスクロールなぞが有ると知れればヴァシュロニア教国から目をつけられる。王家の歴史の中でもしかしたら所有した時期はあるかもしれないが、歴代の国王の中にも敬虔な信者であった国王も何人も居る。残してはおかないだろう」
「……そうですか。いや。そうですよね」
「しかし、龍の話が確かであれば、世界を守るためにも有ったほうが良いだろう、大っぴらには出来ないが探すことはしてみる。オーティス伯も頼むぞ」
「はい」
まあ、こんなもんなんだろうな。出来れば魔族の国とか行きたくない。死にたくない。それでも龍珠の話は今の所内緒にしてくれるという。闇魔法の可能性が出ただけでも良いだろう。
帰ろうとした時、再び陛下が呼び止める。
「その龍珠は色んな所で疑われたりしそうだな」
「はい、そのたびに必死に嘘を重ねちゃってます」
「……何か許可証的なものを作ってやる。後ほど届けさせる」
「ありがとうございます」
なにはともあれ、コレで領主の館通いも終わりだ。まあ良かったか悪かったかはそのうち分かるのだろう。今日は疲れた。みつ子はアルストロメリアの仲間も最終日だからもしかしたらホテルに泊まってくるかもしれないな。
途中クレイジーミートに寄りおつまみをテイクアウトしてもらい家に帰る。よく考えたら貴族街に入るのなんてこれでしばらく無いんだから貴族街の高級料理店で何か持ち帰りとか出来れば良かったんだが。
誰も居ない家に帰り、適当に買ってきた料理を食べ、ベッドに入る。今日も<良き眠り>は切ってゆっくり寝よう。明日も朝パレード的な催しがあるとは聞いているが、もう別に見なくても良いかな。
翌朝、みつ子に起こされる。
「ねえ、省吾君」
「ん? おはよう……」
「なんで、鎧にこんな傷がついているのかな?」
「……え?」
やべ、昨日帰ってきて脱ぎっぱなしにしてた。一気に目が冷め起き上がるとみつ子が目を細め……いわゆるジト目というやつか。俺を見つめていた。
「あ、ちょっと階段から――」
「ママとでしょ?」
「えっと……」
「省吾さん。ちょっと。そこに座りなさい」
「はい……」
小一時間、俺は正座のままみつ子の説教を受けることに成る。
昨日の夜にやけに機嫌の良いパンテールを怪しみ問い詰めるとあらかた喋ってしまったようだ。他のメンバーも知らされてなかったようだが、朝から居ないパンテールに皆疑いは持っていたようだ。そうなりゃもう誤魔化すのはマイナスだ。
「そういう時はちゃんと言って。最悪私がその場に居ればちゃんと回復だってしてあげられるんだからっ!」
「ごめんなさい」
言いたいことをぶち撒けたみつ子はようやく気持ちが収まったのか、アルストロメリアの仲間を見送りたいから国王の帰りのパレードを見に行こうという。当然言われるがままに着替えみつ子と中央通りへ向かった。
国王の最後のスピーチには間に合わなかったが、無事にアルストロメリアの面々を見送りみつ子は満足そうだった。俺は……嬉しそうに俺に手をふるパンテールにあっかんべーをしてあげた。
国王の来訪から一週間弱か。慌ただしく忙しい日々だったがまあ色んな事があった。明日からまた日常に戻る。1日2日は休暇を取りたい気分だ。落ち着いたらまたブラン司祭の所に行きパワーレベリングの再開の打ち合わせをしないといけないな。
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