第222話 スタンピード 2

「1人村に置いていくんだな?」

「え?」


 出発の準備をしてハーレーに乗り込もうとしていると、1人の警備団員が話しかけてきた。


「その分、空きがあったら俺を乗せてくれないか?」

「え? いや。でもここの警備は――」

「隊長の許可は貰ってきた」


 ふむ……少し逡巡していると、横に居たマチスが話しかけてきた。


「こいつの兄貴が、ゲネブのダンジョンの当番だったんだ。悪いが乗せてやってもらっていいか?」


 いやしかし……スタンピードが起こったならおそらく……。くっそ。断れねえか。


「分かりました、急ぎますのでどうぞ。でも、決して乗り心地は良くないですよ?」

「ああ、騎獣は慣れてるからなんとかなると思う」




 まずはヤギ村を目指す。と言ってもヤギ村までは通常行程で3日だ、いくら急いでも昼過ぎの出発だ。どうしても途中で1泊を挟んでしまう。グースと名乗った警備団員も無茶を言うこと無く大人しく従ってくれた。きっと少しでも早く駆けつけたいだろうに。


 道中は最初のうちは少しタル村方面に向かう魔物が居て、ハーレーの魔法で仕留めながら進んでいくが、そのうち魔物の出現がピタリと止まる。山の中を通っていく魔物も居るのかと思ったが、グースに聞く所だと、スタンピード時の魔物は龍脈に住む人間たちを狙うためなのか、何故か龍脈沿いに動くという。魔物の放出は落ち着いたのだろうか。


 1泊をはさみ翌日の夕方前位に、ゲネブのダンジョンに繋がる山道の入り口につく。ハーレーを止めてダンジョンの方向を見るとまだ煙のような物が上がっているのが見えた。


「たすかった、ここで良い」

「しかし、今更行っても、皆ゲネブまで撤退していたりしないですか?」

「アレをみろ。狼煙が上がってる。まだ完全にスタンピードの放出が終わってないと思う」

「え? だれか現場に残ってるんですか?」

「あそこは完全に石壁に囲まれた部屋があるからな、すべての戸を閉ざして1人監視が残ることになってる」

「……それって」

「ああ。兄が現場の責任者として、1人残ってる」

「わかりました、お気をつけて」

「ありがとう」


 グースはそのままダンジョンの有る方に向かって走っていった。


「よし、じゃあ行こう――」


 モーザに声をかけようとした瞬間だった。ダンジョンの方からなんとも言えない嫌な気配が湧き上がる。全身の肌が粟立つ。


 ゾワッ。


 なんだ? ヤバいのが出てきたのか? 隣でみつ子もダンジョンの方を見ている。みつ子も気がついたか? ……なんかわからないが行かないといけない気がする。<直感>か? ダンジョンまでは遠くて魔力などのモヤは確認できないが……。


「どうしたショーゴ。行って良いのか?」

「……ちょっとグースさんを手伝ってくる。皆は先にゲネブに向かってくれ」

「は? どういうことだ?」


 説明は出来ないんだ。だが、ヤバいのが居るのだけは感じる。


「省吾君! 駄目っ!」

「大丈夫、なんか有っても俺には死にぞこないセットも<強回復>もある、グースさんたちだって居る」

「……私も行く」

「いや、だけど……」

『おでもついて行くか? 旨く無さそうな奴がいるみたいだども』


 ハーレーも何か感じるのか?


「ハーレーは皆をお願い。私と省吾君で行ってくるから」

『わがった。気をつけろよ』

「ありがとう」


 そうだな……みつ子が居れば助かるか。足手まといにもならないだろう。俺は次元鞄から矢筒を1つ取り出しショアラに放り投げる。受け取ったショアラは中を確かめる。


「ショーゴさん、良いの?」

「ああ、もう1つあるから。矢は有れば有るだけいいだろ? ショアラも頼む」

「うん」

「すぐ済めば、後から追いつくから」


 ハーレーから飛び降りると、みつ子も後に続く。そのまま振り向かずにダンジョンに向かって走り出した。


「みっちゃん。巻き込んでごめん」

「やめてよね、私が省吾君に付いていくのは自然の流れなの」

「ははは。でも気をつけてね」

「分かってるって」


 2人で走るがグースの姿は見えてこない。彼も相当なペースで向かったんだろう。やがてダンジョン周りの石壁が見えてくる。門の落とし格子は何が強い力で衝撃を受けたのか格子が門の位置からかなり離れた所に飛ばされており、その周囲の石壁も無残に崩されていた。


 すげえな……巨人みたいな魔物も出てきたのか。こんな壁じゃ大して保たなかったのかもしれないな。



 崩れた門の奥に、グースの背中が見えた。さらにその奥にぶっとい魔力のモヤが見える。念の為みつ子にバフを掛けてもらい、中にはいっていった。


「あ、兄貴……」


 グースの向こうにそいつはいた。なんだ……こいつ。一瞬ヒゲかと思ったがヌメヌメと動くそれは触手か? そしてその顔は……まるでタコの様ななんとも言えない奴が立っていた。そいつはジュルジュルと手に持った人間の生首から何かを啜っていた。脳……か?


「う……」


 横でみつ子が真っ青な顔で口元を抑えている。


「や、やめろっ!」


 グースが怒りを露わにし剣を振り上げ斬りかかる。その瞬間、表情のないタコ人間の手がグースの方に向く。溜めのまったくないなめらかな動作で指先から魔力が放出される。ノイズで阻害するスキも無かった。


「ヒッ!!!」


 グースは剣を振り上げた状態のままビクッとその動作を止める。なんだ? グースはそのまま機械人形の様にギリギリとこちらを向く。その目には全く生気が感じられない。なんだ。精神操作なのか?


『その女の脳を啜ってみたい。やれ』


 こ、こいつっ!!! みつ子もその意味を理解したのかジリっと後ずさりする。


「あぐぅあ……あ……」

「グースさん! しっかりして下さい!」

「あ……あ……」


 くっそ。精神を乗っ取られているのか。仕方ない。<ノイズ>と<ラウドボイス>を絡ませ全力でグースにぶつける。


「あぐっ……」


 崩れ落ちるグースを抱きかかえ、みつ子に任せる。みつ子がグースを隅の方に運んでいく。タコの魔物は、表情のない瞳でじっとそれを見ていた。


『何をした? 我に……歯向かうか……人間ごときが』

「お前……何者だ?」


 会話が成立するか分からなかったが、俺は質問をする。こいつはやばい予感がバリバリする。行けるか……。


『ほう、面白い。我の言葉を解すか……良かろう。我はそこのダンジョンの最奥からやってきた。イリジウムと言う。しかし生まれてこの方、誰一人訪れるものが居なくてな。ふふふ』


 ダンジョンの、最奥? ……そう言えば最後にダンジョンの踏破を成したのが200年前の過去の勇者だったか。その時が78層だとか聞いているから……80層台の……ボス? なのか? やばくね? いきなり最終ボスかよ……。


「そうか……上の階層の魔物から出てくれば……最後には、最奥の……」

『理解が早くて助かる。そうだ。我はこのダンジョンで最も強く、最も偉大な存在ということだ』

「くっ……」

『とう言うことで良いかな? 我はそこの女の脳を味わいたい。連れてまいれ』


 そう言うと、イリジウムはスゥッとこっちに手を向けてくる。ヤバい! とっさに<直感>に従い<ノイズ>を仕掛けるが、俺の<ノイズ>は一瞬で霧散させられる。阻害されること無く、イリジウムが放つ魔力の塊に襲われる。



 ドクゥン。



 ――我に従え、我が奴隷となれ――




 頭の中に、イリジウムの声が響き渡たる。その奥に「省吾君っ!」とみつ子の叫び声が聞こえた。





※あ、申し遅れましたが。私。結構誤字脱字が多いんです。気をつけて入るんですが。流し読みしちゃうタイプなので。

今まではなろう様の方で指摘されてある程度誤字修正されたものを更新しておりましたが、同時投稿になりますと未修正のものが投入されるようになりますので……もしかしたらご迷惑をおかけするかもしれません。

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