第191話 女子会 2

 今回ゲネブまで来たアルストロメリアの4人は、3人がAランクの冒険者だと言うから驚きだ。パンテールとパシャとトレゾアの3人だ。タンクのパシャは一度ボルケーノバイソンと戦っているのを見たが、低層のボスではあるが、あの巨体の突撃を普通に受け止めていた。実力はかなりあるのだろう。まさかAとは思わなかったが。

 トレゾアは火魔法を得意とする魔法使いで、みつ子の師匠的な存在らしい。「威力的には既にみつ子の方が上だ」なんていうが、やはり魔法は師匠が居たほうが感覚をつかめるのが早そうで羨ましいな。


 そして最後の1人はBランクだと言うが、正直それでも十分だ。みつ子はドリーさんと呼んでいたが本名はブロドリーらしい。双剣使いの剣士の様でみつ子もドリーさんの剣撃はすごい綺麗なのよなんて言ってる。日本でも二刀流なんて宮本武蔵くらいしか聞かないが、実際に2刀で戦うとなれば相当の腕力も必要だろうし魔力斬の威力も高くなければなかなか斬りきる事なんて出来ないんだろうな。

 たしかフェニードハントの時にルベントが長めのナイフを2本買っていたが、ナイフの2刀と細身とはいえ剣での2刀はだいぶ使い方も違うんだろう。


 やっぱ双剣には夢がある。3本目を口に加えてとかは現実的じゃないが。



 今日のこの会食では、みつ子の「良い人」としてお行儀よくしないとと自制して始終にこやかに対応する。スス村ダンジョンでは揉めたり有ったが、こうして酒を飲み交わしていると皆割と良い人だしな。


 ちなみにパンテールは、もともと平民の出で、冒険者の実績で1代限りの爵位を貰ったようで生まれも育ちも貴族って訳ではなかった。まあ。そんな感じだろうな。


 アルストロメリアでのみつ子はかなり存在感を発揮していたらしい。パシャは酒が入ったことで予想以上に饒舌に成り、トレゾアもみつ子が可愛い弟子と言うポジションのようで、二人して「みつ子と王都に来い」「みつ子の紐だって良いじゃねえか」なんて絡んでくる。俺はとりあえず「ははは」と適当に笑って流すくらいしか出来ねえ。

 女子会に1人男が紛れ込んでるようなもんなんだ。



 そんな雰囲気をぶち壊したのは。パンテールだった。


 みつ子と楽しそうに飲んでいたはずだが、なんかじーっとコッチを見て話しかけてきた。


「やっぱ良いなあ。良いよ。省吾君」

「え? あ、ありがとうございます」

「うんうん。凄い良い」

「はあ……良いんですか?」


 何がだよ。ていうかかなり飲んでねえか? おばちゃん目が座りまくってるぜ。


「アタシと一度戦ってみようよ」


 

「はい?」


 は? おばちゃん何言ってるの? てか、なんか気分を害する事言っちまったか?

 ちょっとビビって周りを見渡すと、アルストロメリアの面々が一気に酔の冷めたような青白い顔になって固まってる。


「えっと?」

「ママ!」


 みつ子も何やら慌ててる。


「えっと? ごめんなさい。なんか気に触ること言っちゃいました?」

「ううん。むしろ逆よ。……強いでしょ? 貴方」

「いやいやいやいや。大したこと無いっすよ。多分パンテールさんの前なんかじゃ立ってられないっすよ」

「そう? そう言いながら戦ってみたそうな顔してるわよ?」

「ははは。そんな事ありませんよ」


 なんとなくパンテールの雰囲気が変わってきている感じがする。チリチリするような覇気なのか? 威圧的なオーラが滲み出てきている感じだ。


「ママ飲みすぎよ!」皆で慌てたようにパンテールを宥めるのを見ながら、もしかして常習犯なのかと推測する。こんなおばちゃんがまさかの戦闘狂かよ。腕相撲とかで勘弁してくれねえかな。


 そんな中、ふと思いつく。もしかしたら。と。




 パンテールを正面から見据えてもう一度語りかける。


「パンテールさん。ほんとに僕が強そうに見えるんですか?」

「それはもうビンビン――ん? あれ?」

「やっぱりみんなが言うように飲みすぎたんじゃないですか? 僕も強くなる努力はしてますがまだまだパンテールさんの腕試しに付き合えるようなレベルじゃないですよ?」

「おや? だってさっきは……もっと……普通か?」

「ですよね? もうビビらせないで下さいよー」

「あ、ああ。すまない……飲みすぎたようだな」


 なんかパンテールさんは納得行かない様な顔でしばらく俺を見ていたが、やがて気のせいだったのかと、禍々しいオーラも消えていく。


 ふう、やっぱり何とかなった。



 その後つつがなく食事会も終わり解散になる。みつ子はまた明日も行こうぜと声を掛けられている。ただ明日は昼過ぎからの仕事なので終わるのがだいぶ遅くなるから、明後日にでもと答えていた。パンテールもまた空いていたら顔を出してくれなんて言われたが、恐らく領主の館のお勤めがあるから難しいですねと返事をしておいた。



 家への帰り道にぼそっとみつ子が聞いてくる。


「……省吾君、あの時何したの?」

「ん? いや戦闘系のスキルのスイッチを全部切ったんだ。なんとなくスキルの羅列でパンテールさんは俺が強いのかなと感じ取っていた気がしたからさ」

「スキルって切れるの?」

「切れるよ、昼ぐらいまでじっくり眠りたい時とか<良き眠り>をよく切って寝るんだよ。あのスキルが出てからショートスリーパーみたいになって時間を持て余す感じになっちゃったからさ、出来ないかなあって思ったら出来たの」

「へえ。……あ。ホントだ切れるね」

「でしょ? あまりスキルを隠すってのはやらないのかもね。解析でも相当レベル高くないとスキル見えないって言うし」


 でもまあスキルのオンオフは俺やみつ子の転生者特典だったりするかもしれないからあまり人に言わないほうが良いかもしれないな。

 ていうか。パンテールは本気だったのだろうか。


「酔ってたのもあると思うけど、多分本気」

「やっぱりそうか」

「もっと若い頃は、強そうな冒険者を見るとすぐに試合を申し込んだりしたみたいよ。でも王都じゃギルドからけが人出まくるから辞めてくれって頼まれたり、ママが強くなりすぎて興味ある相手があまり居なくなったのか、最近はずっとそういうの無かったって聞いてるけど」

「歳取って丸くなったって感じでもないのかね、ていうか王都でも最強なの? あの人」

「うーん。王都にママと同じクラスの人が居ないわけじゃないけどね、皆自分の組織を持ってる人だったりで色んな力関係のバランスもあるから、試合なんて受ける人居ないだろうしママもそれは分かってるんでしょ?」

「まあ、トップの対外試合は勝っても負けても問題は出そうだしな」


 俺が知らないだけかもだけど、ゲネブのギルドだとアルストロメリアみたいなユニオン的な大きな組織って無い気がするんだけど、あっちはまた色々文化が違いそうだなあ。


「ママのパーティーに入ると大物狙いの依頼ばっかり受けるからみんな大変そうだけど、基本皆ママのこと好きだし、それで鍛えられて強くなっていってるから皆ママと組みたがるのよね」

「アルストロメリアはかなり体育会系ですな」


 でも、強えんだろうな。王都のトップクラスってどんだけ強えんだろう。


 家に帰ると2人で果物を切って食べる。初日に貰ってきたは良いけどちょっと多めに貰ってきたのであの日だけじゃ食べきれなかったんだ。しかも仕事のタイミングが合わないからなかなか食べるタイミングが無かったしな。久しぶりにゆっくり出来たかも。


 その夜、なんとなく悶々としてなかなか寝付けなかった。パンテールの覇気にでも当てられたのだろうか。酒も入って早々に寝息を立てるみつ子をぼーっと眺めていた。まあ、<良き眠り>が有れば寝不足にはならんか。




※昨日はランキングがドドっと下がった話とかしちゃって、こういうの良くなかったですね^^; 皆さんには気を使ってもらっちゃって評価や感想を沢山もらっちゃって今日24位まで上がっておりました。本当に皆様には感謝でございます。

生まれてはじめての小説なので至らぬ点も多いと思いますが、生暖かい目で見守っていただければと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

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