第231話 出産報告
最近は、オヤジのジロー屋……「カネシ」もそれなりに人気が出てきており、昼飯を食べるには並ばないといけない。今日はもうそんな気力も無く、旧事務所に行き、狩りの野営用に買ってあったナッツ類などをポリポリ食べていた。
こっちの旧事務所は、どちらかと言うとメンバー達の休憩所の様になっている。俺は今日は休日になっていたが、他のメンバー達はきっとそれぞれの依頼をこなしに出かけているのだろう。
サクラ商事は元々ギルドの様に個別の依頼を受けて居たが、今もそれは変わらないものの、なんとなく王都のアルストロメリアなどのユニオン的な存在になっている。スタンピードの後、ゲネブのギルド長が俺に謝罪をしにやって来た事もあり、冒険者ギルドとは和解して、ギルドの仕事も請け負うようにもなっている。
ただ、俺はギルド所属の冒険者に戻るつもりも無かったため登録はしていない。それでも特別枠的に高ランクの依頼でゲネブの冒険者たちで依頼をこなせていない物などの処理を下請け的に請け負う事をたまにしている。
俺やモーザは、登録はしていないが冒険者ギルドからAランク扱いされており、元々登録済みだったみつ子は正式なAランカーとして登録されている。
家業が冒険者のスティーブは正式に冒険者ギルドに登録したため、初期メンバーの、フォル、ショアラも一緒に冒険者登録はしておりBランクまであがっている。
この5年間に、この世界でのレベル上げやスキル取得をゲーム的な感覚で皆にやらせているのだから当然といえば当然だ。
その後入社してきた奴らも、それなりには仕立て上げているつもりだ。
ただ、スティーブは最近は家族と一緒に行動することが多くなり、俺はそれで構わないからとサクラ商事に関しては出入り自由にしている。何でもサクラ商事の裕也メソッドを家族にも体験させたりと、危険の多い冒険者家業でのリスクを下げたいようだ。父親や兄弟達の危険度の高い依頼にも付き添ったりしている。
その代わりでもないが、リンク、オーヴィ、モナ達と4人で人手の足りないときなどは手伝ってくれる。
フォルとショアラはめでたく結婚し、現在ショアラは里帰りしている。子供も出来、3歳と1歳の子供をエルフの集落で育てたいということだった。フォルは出稼ぎという名目で定期的にエルフの集落とゲネブを行ったり来たりしており、ゲネブに来ると独身気分を謳歌しているようだ。不安しか無い。
その他にも、この5年間に色んな事が変わってきている。まずサクラ商事のメンバーが増えたことだろう。黒目黒髪問題は、国が『黒目黒髪は龍の加護を得たものである』と言う発表をしたことでかなり改善はしたが、根深い差別意識は完全に取れているかは微妙といったところか。
周りの対応以外にも、それまで差別を受けていた黒目黒髪の人間たちも心に傷を負っていたりと「はいそうですか」とすぐにすべてを吹っ切れて生活できるような物では無い。
一応スタンピードの後に、黒目黒髪の社員を募集したりもした。そんな感じで俺達の噂を聞きつけて何人かの黒目黒髪の人間がサクラ商事の門を叩いてきた。
中には竜の巣のある山の集落での生活を希望したものも居る。フォードというその男は、うちに来るまではゲネブの外周の掘っ立て小屋に住み、農家の下働きをしていた。年齢も40を過ぎているのもあり、サクラ商事の教育プログラムを経ても、他の社員より成長率が芳しくなかった。本人も自覚があったのだろう、サクラ商事で危険な仕事を続けることより、田舎で「冥加の者」として生きる方を選んだ。
俺としても、山の集落に黒目黒髪を連れて行くと約束をしていたのでその申し出は喜んで受け入れた。端の村との交流も、竜が居ればなんとかなると思うし、成長率が低いと言ってもウーノ村ダンジョンでそれなりに鍛えられている。無事にやれるだろう。
あと、俺の頭上の龍珠。少しずつ大きくなっているのだが。なんとなくスタンピード以来、たまに龍珠の考えていることというか、意識が薄っすらと感じられるようになった。
ただ、そこらへんも意思の疎通が出来るほどの感じではないし、普段はあまり反応が無く、もしかしたら普段は眠っていて戦闘時の俺の意識の緊張などに反応して目を覚ます、そんな感じがする。
問題は、みつ子との夜の夫婦生活の時に、俺の精神状態に反応するのか目を覚ます気がするんだ。そういう時はなんとなく嫌な直感がするものだから、2つの龍珠を部屋の外に追い出すようにしている。
「ん? どうしたの?」
と訝しげるみつ子に「なんとなく見られている気がしてさ」なんて言っておいたが、個人的には間違いじゃない気がするんだ。
コイツラ、興味深々っぽい。
ソファーで横になってうだうだと頭上の珠をグルグルと回していると、みつ子が食事から帰ってきた。
「おう、おかえり。ベルは元気にしてた?」
「うん、もう彼女もいっちょまえね、ジロー屋のオヤジさんより稼いでそう」
「ははは。あそこは場所も良いしね」
「あれ? 省吾君はご飯食べた?」
「そこら辺に転がっていた行動食を少し食べたよ、でも夕食招待されちゃったからこの位で良いかなと」
「招待?」
みつ子にゲネブ公のパーティーに呼ばれ、みつ子もどうぞと言ってた話をするとみつ子は嬉しそうに何を着ていくかとテンションを上げてる。着ていく洋服を決めたいからと早々に家に帰ることにした。
リリリリン! リリリリリン!
2人で家に帰りドアを開けようとすると、部屋の中で電話の音がしている。俺は慌てて部屋の中に入り、受話器を取る。
「もしもし」
『お、省吾居たか』
電話の向こうは裕也だった。
「お! もしかして?」
『ああ。無事に産まれたぞ! 女の子だ!』
「おお、おめでとう! みっちゃん。産まれたって。女の子だって」
「え? ホント? よかったぁ 裕也さんおめでとう。エリシアさんは元気?」
電話機の受話口にみつ子が祝福の言葉をかけると、裕也も嬉しそうにお礼を言う。
そう。エリシアさんと裕也の間に2人目の子が産まれた。年末くらいにはと言われていたため、俺達は正月休みを利用して王都に行く予定にしていた。ハーレーに載せてもらえば割とすぐに着きそうという事で、モーザにも声はかけてある。
スティーブは毎年のように家族で年越しをするようだ。フォルは行きたがっていたが、流石に王都までの往復はなかなか厳しいだろうと諦めていた。ちゃんとエルフの集落で家族サービスをするようにと言い聞かせた。
その後俺達はよそ行きの服に着替え、ゲネブの領主の館に向かった。
※今回、水曜休みで行く予定ですので、明日はお休みさせてもらうと思います。
よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます