第199話 トゥルの依頼 1 ~タル村~
無事にレベリング業務を終え、トゥルのレベルも10になる。ここから長い旅をするので、一応スティーブやフォルには親御さんの許可をもらう。地球だったらまずGOサインは出ない話だけどな。この世界では通学路に保護者が立ってたりとか、そういう子供を守ろうという文化がまだそこまで強くない。それにもうすでに2人とも14だそうだからな。もうじき大人と見られる年になってはいるんだろうけど。
出発の前の日に皆で買い出しに行く。トゥルも長い旅は始めてということで足りないものを買い揃えていく。テントもこの世界にはあるのだが裕也の作ってくれたような小型の物は無いようなので、やはりタープを使う感じなのだろう。特に最南端の村からは龍脈から外れていくのでテントは使えなそうな気がする。
それと、以前みつ子に言われた透湿素材を使った雨具も買う。確かに魔物の素材ということで安くは無いが、快適さを求めるのなら仕方ない。スティーブは兄弟のお下がりがあるとのことで、フォルの分と2つ購入した。
こないだの国王の夜食のときの給料がかなりビビる額が振り込まれていたので割と大盤振る舞いをしてしまった。
「それで、1ヶ月位はかかりそうなのか?」
「ん~。あるかもわからない村を探すんで、ちゃんと日数を計算できるわけじゃないんですけどね。端の村までそれなりにかかるんで、少なくとも1ヶ月位はかかるかなと」
「そうか、まあ握り飯くらいは作ってやる、朝出る前に顔出せ」
「ありがとうございます」
夕方ジローを食べつつオヤジに出発の知らせもしておく。
「お、そうだ。それとタル村に寄ったら、醤油を作る工房がそろそろ着工していると思うから覗いてみろ」
「へ? いつのまに?」
「ある程度醤油の作り方は固まってきたからな、どうせならこの技術を残したいだろ?」
「まあ、有ればいいとは思うけど……」
「公爵と相談してな、もともと公爵としてもゲネブばかりが栄えて周りの村から領民が出ていくのに苦慮しててな。ただあそこの村では味噌作りの文化もあるし、規模の大きい工房などを誘致する動きはあるんだ。だから良いんじゃないかってことでな」
「まじすか、でもゲネブからちょっと遠いですよね?」
「ゲネブで作るにはもう場所が無いというのと、ヤギ村はダンジョンがスタンピードを起こすと一気に壊される恐れもあるということで選んだというのがある。スタンピードは何故かタル村の方面よりゲネブに流れると言うのが一般的だからな」
「なるほど……」
実際タル村には、他にも工場的な物があるらしい。それもゲネブ公の政策のひとつなのだろうか。
自分の吹き込んだ文化が少しづつこの世界に根付いている。良いのか悪いのか分からないが。ただ、規模が大きくなればゲネブの名産としてお金も落ちるし、スラムなどの住民を移住させて仕事を与える事も考えているようだ。
まあ、醤油は外国人には臭いという話を聞いたことがあるから何処まで広まるかは分からないが、魚醤のある文化だからなんとかなるような気もする。
その日の夜は、遠足に行く前の子供のようにウキウキしてなかなか寝付けなかった。やっぱ久しぶりの冒険だしな。楽しみなんだ。
早朝に事務所に集まり、各自持ち物チェックなどさせる。こういうのちゃんとやると忘れ物防止にいいんだぜ。氷室の箱も2つ用意してある。コアが入ってるのが1つだけなので食品保存用は1個だが、もう一つは苗など傷つかないように持って帰るのに有ればいいかなと思って用意した。その重いやつは俺とモーザで運ぶ感じだ。
地図を見るとゲネブから最南端の村までのおおよその日数はこうだ。
ゲネブ→1日→ヤギ村→4日→タル村→3日→ヤタの集落→3日→ユタの集落→2日→端の村
トータルで13日程の行程になるが、コレは行商人らの歩くようなスピードでの換算ということで、走って6日ほどで着けばいいかなと思っている。トゥルのスピートがややネックになりそうだが、みつ子が居るので回復をかけながら少し無理してもらう。ショアラはきっと大丈夫だろうと踏んでる。
その後はかなり曖昧で不安感がいっぱいだ。一応端の村で情報は集めるつもり。いいのか? こんなざっくりで。
ジロー屋で頼んでおいたオニギリを受け取り南門に向かう。ヤギ村はもう何度か行っているので道中には不安がない。
「じゃあ、走るぞ。トゥルのペースに合わせるけど、なるべく頑張って走れよ」
「分かってる」
それでもレベルを少し上げておいて良かったかもしれない。バテれば回復をかけてもらえるという事もありトゥルもそこそこ頑張って走っていく。昼過ぎにはヤギ村に到着した。
「はあ、はあ、はあ、今日はここで泊まるの?」
「え? いや。ちょっと休憩したらまた走ろう」
「そうか……分かった」
うんうん。トゥルもこのペースの旅行に覚悟はしてるようだ。
前回来たときが国王の戴冠フェスの前だったからな、半年近く前になるのか。当時建設中だった砦はだいぶ出来上がっていた。そのまま木塀を少しづつ石積みの塀に変えている感じか。
その日はヤギ村から半日ほど走った場所で野営をする。1人用のテントはみつ子とショアラに使わせ、男どもはタープの下で雑魚寝だ。氷室に入れておいた肉などを使って料理をしようとしたがカッチカチに成りすぎていたため苦労をする。明日からは料理に使う分はもう1つのコア無しの氷室に入れておいたほうが良さそうだ。
料理は俺とみつ子で、龍脈沿いと言うことで割とまったりとキャンプ気分で楽しむ。と言ってもここらへんでも野盗が出ないわけでもないので、夜番は回す。人数が居る分それなりに寝れそうなのが幸いだ。
「ショーゴさん、オレ一人で夜番やりますよ」
スティーブやフォルは1人じゃ厳しいかなと誰と組ませるか考えていると、スティーブが言ってくる。そうだな。あまり子供扱い続けても良くないか。
ショアラは良くわからないので、フォルとショアラだけ2人のペアで夜番をさせて後は1人1人回していく。とりあえず端の村まではそれで行くか。
もう1泊野営を挟み、タル村にたどり着く。まだ日も沈んでいない。それでも約半分くらいで走破か。まあ上等かもしれないな。トゥルも今のところ頑張ってる。回復魔法は必須だが。
フォルは魔法使い系だからあまり体力は無いのかもと思ってたが意外と頑張ってる。さすがガチムチ師匠だ。ショアラの方がだいぶ余裕はあるけどな。
タル村は村と言ってもそこそこの大きさが有る村だった。周りも木の塀じゃなく石壁で構築されている。割と大きな建物もあり、人の生活を感じる。イメージ的に辺境の村などは都会を夢見る若者たちがゲネブに移って過疎化したりしそうな気がするんだが、ジロー屋のオヤジの話を聞いてる限り少しはあるんだろうな。
門番をしている警備団の団員がモーザの事を知っていたらしく軽く雑談などしている。ついでとばかりに宿の場所など教えてもらいすぐにチェックインする。二部屋取り、男部屋と女部屋に分ける感じだ。
荷物を置くとすぐに例の醤油工房を見てみようと俺とみつ子が出かけた。他の皆は自由にしてもらう。広いと言っても街レベルの広さでは無い。適当に散歩がてら歩いているとすぐにレンガ造りの大きい建物が建っているが見えてくる。
「あれだよな?」
「え? でも着工した位の話じゃなかった? もう立派に出来上がっているじゃん」
「そう言えばそうだな。でも新しい建物だぜ? なんだろ。ちょっと覗いてみるか」
その建物の中を覗くと中はまだ完成していないようだった。当然製造は始まっていなかったが、大きめの樽が何個も並んでいる。やっぱコレだよな。まあ確かにまだ完成はしていないっちゃ居ない。ていうかいきなりここまでの規模で始めるのか、あのオヤジ。
……もしかしたら領主の公社的な感じで始めるのかもしれないな。
そんな事を話しながら、しばらく様子をうかがっていると現場を指揮していた監督のような人が俺たちに気が付き、声をかけて来た。
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