第177話 正月休みは旅行に 5
それからフォルとしばらく話をし、フォルが下宿していると言う今の師匠の家に帰っていった。
「フォル君、元気そうで良かったじゃん」
「そうだね、ん? そう言えばなんで坊主になったんだ?」
「ははは。やっぱ何か反省的なのかな? 日本と一緒だね」
そんな謎はすぐにも明らかになる。
翌朝訪れたエリックさんにそれとなしに聞いてみると苦笑いをしながら教えてくれた。
「ああ。先週かな? バーセルの泉で沐浴をしていた女性たちを覗いたんですよ」
「覗きかよ!」
「ははは、まああのくらいのお年頃は色々と興味を持ってしまうだろうし、そんな問題にはならなかったですよ。あの奔放な性格が案外ここでは気に入られているんですよ」
「いやいや。申し訳ないです」
ふう……やるなあフォル。エルフは美人揃いだからな。気持ちは分かる。エリシアさんとかもヤバいからな。確かにスレンダーな体型が一般的で、あまり大きい胸の女性は少ないが……どちらかと言うと俺は脚フェチだからな、そこら辺にフェチが有るわけじゃないから全然問題ない。
うんうん。
「……省吾君?」
「え!? はい? なに?」
「……今確かにエロい目をしていました」
「してないよ! 絶対にしてません!」
と言っても、バーセルの泉はエルフの集落では聖地的な場所で、成人を迎えた女性のエルフがそこで沐浴をすることで大人として認めてもらう儀式をするらしい。そのため普段は泉で沐浴をする事は無いと言う。まあ、普通に家にシャワー的なものは付いているしな。
ただ女性のみの神聖な儀式を覗いたと言うことで普通の覗きよりはだいぶ絞られたようだ。師匠直々に頭を剃ったという。
ちなみに男性は森の奥に棲むグレートディアと呼ばれる鹿の魔物を狩ることで成人の儀式となるらしい。
男はつらいよ。
やっぱサクラ商事の代表としては、フォルに訓練を付けてもらっているお師匠さんには挨拶しておきたい。エリックさんにお願いすると朝早くからフォルを連れて森の中に行っているようなので夕方に連れてってくれると約束してくれた。
それまでに何か買い物でもと魔道具のお店を訪ねる。以前は隊商の人達が買ってしまって殆ど残ってる状態では無かったが今回は大丈夫だろうと行くと、毎年隊商の人達の注文を受けて1年掛けてそれを作っているらしく結局選び放題という訳ではなかった。それでもいくつかの魔道具が置いてあり見てるだけでも楽しい。
その中で1つの魔道具が目にとまる。
「ばあさん、これって<解析>の魔道具ですか?」
「そうじゃ。よくギルドに置いてあるじゃろ? たまに壊れるからの作っておくと買ってく事があるからな。本人確認で各村の門などに置いてある場合もあるらしいぞ」
「へえ、スキルとかも分かるんですか?」
「いや、大体の位階と名前くらいじゃな」
「位階?」
「ああ、レベルの事じゃ」
ちょっと今のレベル確認とかしてみたいが、一応売り物だしな。我慢して他の品を見ていく。すると、みつ子が木の板が貼り合わさっているような物を持ち上げコレは何かしら?と聞く。
「それは携帯氷室のコアじゃよ。木の箱などに入れて稼働させると中が氷室になるんじゃ」
「へえ、氷室で売ってるんじゃなくて冷える部分だけ作って売ってるのね」
見ていると中々楽しい。マジックバッグみたいなのは作ってないのですか? と質問するとマジックバッグはアーティファクトとして現代に残っているものしか無いようだ。あれは魔法じゃなく神の法の一種だということで、魔法では再現できないらしい。確かに裕也のマジックバッグは魔石とか使わなそうだもんな。
そう言えば次元鞄だって魔石などで稼働させている物じゃないので魔道具的な観点で考えると不思議なものだ。次元鞄は有袋類の魔物のポケットを利用しているもので、生体材料の特性なのか空間に漂う魔素を勝手に使っているらしく、あれも魔道具として再現するのは難しいらしい。
ばあさんも若い頃に調べるために次元鞄を切り開いたりしたらしいが、一度解体するともとに戻しても次元鞄の役割は果たせなくなるという。
まあ、なんていうか異世界マジックだな。
あとは割と普通の魔道具があるくらいか。コンロの魔道具など人間の魔道具職人も作るようなものがあり、特殊なものはそんなにあるわけでもない。ただばあちゃんが作る物は品質が良いようで、魔石の消費も人間の魔道具職人が作るものよりかなり少なく抑えられるらしい。
なんだかんだで、氷室のプレートと乾燥機的な魔道具――コレもプレート的な形状だが――を購入して店を後にした。
エリックさんもこんな付き合ってもらって申し訳ないように思うが、本人曰く、日頃刺激が少ない集落だからお客さんの相手は楽しいんだと言われ、甘えて街の中を散策させてもらった。
街を歩いていると、枯れ枝を積み上げた所があった。なんとなくその木を見たことが有るなあとマジマジと見ていると神樹を剪定したりした木の枝だと言う。フェニード狩りに行った時にルベントが魔物除けだと焚き火と一緒に炊いていた木と恐らく同じじゃないか? なるほどコレを燃やせば確かに魔物が寄り付かなくなるかもしれない。そんな話をするとエリックさんも恐らく神樹の枝だろうという。しかしゲネブのスラムの婆さんがよくそんな枝を持っていたなあと不思議がっていた。
それにしても神樹の枝を折ると殺されるくらいに脅されたが、実際は木魔法の使い手達が神樹のメンテナンスで邪魔になる枝を落としたりは普通に行われているようだ。まあ外から来た異邦人が勝手に枝を切り落としたりすればそれなりに断罪はされるようだが。
エリックさんにお願いして少し枝を分けてもらった。
夕方になり、フォルがお世話になっている師匠の家を訪れる。
……フォルの師匠と呼ばれるそのエルフも、フォルと同じような坊主頭で現れる。
「おう。兄さんがフォルの雇い主か。俺はベントラだ」
「省吾と言います。この度はフォルに訓練を付けてもらってありがとうございます」
「そんな堅苦しく言わなくていいぜ。樹木とともにあらんことを。だ」
「は? はあ」
いや。全く意味が分からん。
ベントラさんはエルフの集落では珍しいガチムチな感じのおっさんだった。聞けばハーフエルフのようで父親が人間で木魔法の使い手だったらしくその遺伝的に木魔法の特性を持って生まれてきた男らしい。ハーフだからこその体格だろうか。奥さんもハーフエルフらしく、娘が2人居る。ハーフエルフとハーフエルフの両親を持つ子供はハーフエルフになるのだろうか。
それにしてもなんで師匠まで坊主なんだ?
「弟子の不始末は師匠の不始末。根を正さねば枝は伸びぬ。伸びぬ枝に葉は茂らん」
おっおう?……なんだか暑苦しい。
せっかくだから食べていけと、俺とみつ子とエリックさんの3人で夕食をお招き頂く。こっそりエリックさんが「リーグルの肉を避けて下さい」と奥さんに言っているのに気がつく。流石エリック。そつのない男ですな。
「で、フォルはどうですか? ちゃんと出来てます?」
「ちゃんと出来ているかは、森だけが知っている」
「はあ……」
「木々に耳を傾け、心を通わせる事。いつかは身につくだろう」
「た、大変ですね」
「焦ることはない。樹木の前に樹木無し。だな」
ちょっと何言っているか解らずにフォルの方をみると、うんうんとさも解っているようにうなずいている。
……大丈夫なのか?
フォルの修行の進捗具合はあんまり解らなかったが、ベントラさんも悪い人じゃ無さそうだし、エリックさんが太鼓判を押しているようだからまあ良いんだろう。明日の早朝に集落を発つ話をするとフォルが朝見送りに行くからそれまでに母親に手紙を書くと言っていた。
その日の夜は、エリックさんに貰ったエルフの集落の果実酒をみつ子と2人で飲んでのんびりと一夜を過ごした。大半がベントラさんの話題だった。
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