第176話 正月休みは旅行に 4

 正月を迎え2人でのんびり?と元旦をホテルで過ごし。次の日にはまたエルフの集落へ向けて走り始める。



 ヌタの村を過ぎると龍脈から外れるため、途端に魔物とも遭遇するようになる。時間短縮でと初めは<ノイズ><ラウドボイス>の合体技で魔物のとどめを刺さずに走っていくがやがて魔物の強さが上がってくると気絶しないものも出てくる。しかし、2人で対処できない様な魔物が出てくることはなく順調に旅は進んでいく。



 ズン。ズン。ズン。


「おおお。デカイなあ」

「でもCランク相当の魔物だからね。省吾君GOで」

「あいあい」


 魔物は基本的に俺がメインで倒している。今だにレベルが20代のスローペースにみつ子もどんどんレベル上げ無いととはっぱをかける感じだ。


 かつて、マンドレイクの叫びを利用して倒した経験のあるトロールだが、今じゃ真っ向勝負でも危なげなく倒すことは出来る。


 10mはあろうかという巨体だがその分、的はデカイ。魔力を注入しまくってグルグルと中の渦をかき回した<ウォーターボール>を土手っ腹に当てる。<ウォーターボール>はどちらかと言うと物理ダメージじゃないかと考えている。高速で対象に水の塊がぶつかればその硬度はかなりのものになるだろう。流石にフォレストウルフと違いグチャグチャになるようなダメージにはならないが、必殺のボディーブローを受けたようにトロールは膝を付き腹を抱えて悶絶する。


 手の届く高さに首があれば。後は簡単だ。


 そしてようやくレベルが上がる。


「おお、多分これで29かな? もうちょいで30だ」

「10上がるごとに少しステータス的な上昇が大きくなる気がするのよね。がんばってね」

「ほほう。みつ子を超えるのももうすぐだな」

「それは無理かなあ~」



 エルフの護衛任務の時は、獣道の様な道なき道を獣車を引いて行ったのでかなりスピードはゆっくりだったのだろう。2人で走ることで2日目の夕方には神樹が見え始める。


 ゴールが見えるとこれまでの疲れもぶっ飛ぶな。そのまま一気に木の壁で囲まれたエルフの集落までたどり着く。この集落では黒目黒髪の冒険者は邪険に扱われることを考え、みつ子に門番との交渉をお願いした。



「そうです。フォル君がここに来ていると聞いていまして」

「おお。フォルか。エリック様が連れてきた人間だな。少し待て、エリック様に聞いてみる」


 やがてエリックさんが門まで迎えに来てくれた。


「ミツコにショーゴ。よく来てくれたね。2人きりでここまで?」

「はい。フォル君も1人じゃ戻ってこれないのかなって様子を見に来たんです」

「なるほど、フォル君は今、魔法の師匠に絞られているよ。だいぶ実力も付いてきたんじゃないかな。とりあえず中に」


 俺たちの滞在用の家を用意している間に食事でもと誘われる。エルフの集落には食堂的な場所が1つしか無いようで、以前連れて行ってもらったお店に行った。



「リーグル以外の肉、ありますか?」


 恐る恐るみつ子が聞いている。リーグルと言う魔物はこの周辺で割と捕れるようで以前エルフの集落に来たときにはそればっかりだった記憶がある。みつ子の騎獣のロシナンテがリーグルを家畜化した魔物のため、みつ子は絶対にリーグルは食べたくないようだ。


 無事にリーグル以外の肉があると言われ、みつ子は喜んでそれを頼む。以前のやり取りを覚えていたらしいエリックさんも同じものを頼む。


「ん? 省吾君も同じで良いんでしょ?」

「もっもちろん」


 断れやしない。



 エリックさんが言うには、魔法の訓練は師匠がちゃんと居てちゃんと育てれば1人で独学でやるより確実に早く成長はすると言うが、それでも時間はある程度かかってしまうらしい。まあ、俺も光魔法を攻撃系などに運用するのに1人で四苦八苦しながらやっているため全然育っていないからそれは十分に理解できた。


 一応4月くらいにゲネブから毎年隊商が来るということで、その時に一緒にゲネブまで連れて帰ってもらう予定で訓練をしているという。


 来た当初はひたすら<発芽>のレベル上げをやらせて、今は攻撃魔法等を覚える段階に成っているという。もし急ぎで帰らないと駄目じゃなければそれまで預からせてほしいと言われた。コチラとしてもそこまで育ててもらえるなら文句はない。その予定でこちらも待つことを告げた。




 あてがわれた家は、以前隊商で使った家よりかなりこじんまりとした家だった。まあ、あの時と違って今回は2人だけだしな。


 一応今回も集落の中を出歩くときは僕がついていくからとエリックさんに言われる。やはりエリシアさんのお父さんは未だプンスカしているのだろう。まあ今回は始めからそのつもりだったのでショックとかそういうのは無いが、寂しいっちゃ寂しいわな。




 リビングのソファーでみつ子と2人で今後の予定を話しているとドアがノックされる。


「兄貴~!!」


 おお。数カ月ぶりに会うフォルは少しは逞しくなったか? ……ていうか。なんで? 


「なんで坊主になってるんだ?」

「ゔ……いやこれは……なななななな何スカ、その上の玉は???」

「……なんか反省しなくちゃイケない事とかあったのか?」

「あっあああ……おお! そこの綺麗なお姉さんは??? え? 兄貴のコレっすか? コレっすか?」


 ……おい、コイツ今露骨に話題変えようとしてる? だが綺麗と言われたみつ子が嬉しそうに対応している。


「ほほほ。この綺麗なお姉さんは省吾の妻でございますよ」

「まっまじっすか??? 兄貴結婚したんですか?」

「いやまあ……結婚を前提としてお付き合いをさせてもらってるけどな」

「え? まだ妻としてお認め頂けてないのですか??? 私はてっきり……」

「みっちゃん……そのノリなんすか……」


「うおおお。流石っす。兄貴クラスになればこんな綺麗なお姉さまもよりどりみどり!」

「よりどりみどりじゃねえ!」


 ふう。まあフォルは元気そうだ。逞しくやってるようで安心した。



 フォルに母親からの手紙と、今までの期間の給料を渡す。いきなり金貨の入った袋を渡されてビビるが、色々入用なものをエリックさんに買ってもらったりもしているらしく、コレで返せると喜んでいる。研修期間も給料って普通発生するよな。よくわからんが喜んでもらえてよかった。


 フォルには途中までしか読み書きを教えていなかったが、ここでの師匠にある程度教わっているようで、手紙を食い入るように読んでいる。実際13歳の身だ。そろそろ14になるらしいがこれだけ母親から離れていれば恋しくなるのは当然だろう。そんな姿をみつ子と静かに見ている。


 涙をぐいっと拭き。手紙を大事そうに畳みながらフォルが照れたように言う。


「字を覚えて沢山練習した今、分かるっす」

「ん? どうした?」

「母ちゃん、誤字だらけっすよ。ずっと読み書き完璧にできるんだと思ってたんすが」

「ああ……それでも、それだけ書ければ上等なんじゃないかな」

「そうっすね……」

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