第90話 複合魔法とか

 朝、教会の鐘の音で目が覚める。

 特に夢は見なかったな。良い目覚めだ。

 うん。うん。そろそろ動くか。



 朝飯を自分で作り、のんびりと食べる。

 そろそろギルドの混雑時間が終わるかな? といった時間に家を出てギルドに向かった。



 案の定ギルド内はだいぶ人気が減り、受付も2人体制になっていた。割とよく並ぶ男性職員の所に行く。


「すいません。ランクの件に関して一度ギルド長と話ししたいのですが取り次いでもらえますか?」


 そう言うと、職員は少し慌てた顔になる。なかなかランクが上がらないことで俺が業を煮したのは理解しているようだ。今まで俺が強気に出て他の冒険者と揉めたことも知っているからだろうか。職員は腰を浮かせ「落ち着いて下さい」と宥めようとしてくる。いやいや全然落ち着いてるから。


「大丈夫ですよ、全然キレてませんから」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、むしろ俺をキレさせたら大したもんですよ」

「そ、そうですか」


 あれ。もう一歩踏み込んでほしかったな。ノリ的にね。まあしょうがない。


「ただね、俺をランクアップする気があるのか一度ギルド長に聞いてみたくて。それだけですから」


 職員はしばらく俺の顔を見て、ブチギレとかしていないのを確認出来たのか「少々お待ち下さい」と2階に上がっていく。やっぱ居るんだなギルド長。


 ……


 しかしなかなか降りてこない。

 段々とイライラしてきて<ラウドボイス>で呼んじゃう? とか考えているとようやく職員さんが戻ってきた。ギルド長に怒鳴られたりしたのだろうかちょっとグッタリした顔だ。


「申し訳有りません、ギルド長は本日忙しいということで。明日の朝、教会の鐘の時間に来ていただいてよろしいでしょうか」

「会議かなにかですかね。まあ、良いですよ。話をしてくれるならそれで」

「はい、すいませんがよろしくお願い致します」


 ……ん?


 鐘のなる時間って一番混んでいる時間じゃねえか。他に冒険者達が居たほうが俺が強引に出れないって思惑かな? ……いや。ランクを上げろという話を大勢の前で笑い飛ばそうとしてそうか? なんにしろまあ直接対決だな。




 どうするか。あんま依頼を受ける気分に成らないので、今日は狩りにでも行ってみるか。いろいろ試したいことも有るしな。


 森の中は当然ながら人は居ない。やっぱ開放感があるよな。一時間程走れば、今の俺の足ならだいぶ奥に入り込める。鬱蒼とした森の中で森林浴気分で探索を始める。鳥か。ボアが居れば儲けもんだけどな。獲物を探すには直感もいいけどもっと探知系のスキルが欲しいところだ、狩りをもう少し重ねて行けばスキルが発生したりするものなのだろうか。


 しばらく歩くが良い感じの獲物が居ない。まあ居ないなら居ないで、誰も居ない森の中、やることはあるんだよ。魔法の練習が出来れば意味はあるよな。



 少し開けた丁度いい場所があったので、<光源>を集中させそれを飛ばすイメージでやってみる。光の玉は何とか動かすことが出来るのだが、飛ばすような感じには成らない。これを続ければ<光矢>とやらに成るのだろうか。


 飛ばすイメージか……<光矢>って言うくらいだからな。矢を飛ばすイメージなのか? それとも銃の様なもので発射するイメージのほうが良いのか。一度見てみたいが光魔法を使う知り合いなんて思い当たらないしな。


 しばらく、光の玉をフラフラと動かしたりしながら試す。あまり遠くに離すと俺との魔力のつながりが切れるのか徐々に光は弱くなり消えていく。矢に魔力を纏わせて撃つのが出来ないのと同じ様な現象なのだろうか。不思議だ。エレメントとかそういうのも関係あるのだろうか。


 エレメントか。これも解らないんだよな。こういうのはやはりアレか? 座禅とかで精神を集中させて。ってやつ。


 ちょうど良さそうな石を見つけ、その上で座禅を組む。ふむ。座禅って右足が上とか左足が上とか決まりがあるのかな? 目は全部閉じないんだっけ。でも閉じたほうが楽だよな。ううむ。適当で。


 鼻から息を吸い、口からゆっくりと吐き出す。


 スー ハー スー ハー


 おお、気持ちがいい。なんとなく体中に魔力を纏わせるか。


 スー ハー スー ハー


 吐く息に魔力を含ませたりして……


 スー ハー スー ……


 zoo zoo zoo ……




 グルルルル



 ――ん?


 気がつくと少し離れた所にフォレストウルフがこちらを見て唸っている。

 寝てたか俺? ていうかなんか警戒してるな。体に纏わせた魔力が見えるのか? うん。なんか纏わせた魔力が濃くなってる気がするな……座禅での集中が良い感じなのかもしれないな。



 ほほう。いい機会だ。やってみるか。


 <ノイズ><ラウドボイス>


「キャン!」


 するとフォレストウルフは悲鳴のような声を出してその場に倒れ込んでしまう。


「おおおおお! 今乗ったんじゃね!?」


 そのまま近づいて行く。フォレストウルフはピクピクと痙攣している。死んでは居ないようだ。気絶してる感じか。LV2の<ノイズ>と<ラウドボイス>が組み合わさると結構凶悪な雑音攻撃になりそうだな。


 これ、弓が無くても良い感じで鶏肉ゲットできそうな感じじゃね?


 とりあえず、コイツはこのまま放置しておけば意識戻るかな? と。そのまま再び森の中の散策を始める。



 「キキッ!」


 おおおお。行けるじゃん!!

 やっぱ、<ラウドボイス>雑音には乗りそうだな。そのまま意識を失っている鳥型の魔物をしめると、血を抜き、羽をむしり、魔石を取り出す。魔石はだいぶ小さいな。


 なんか、冒険者止めても狩人とかで十分生きていける気がするぜ。

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