第220話 トゥルの依頼 22 ~帰り道~

 乗馬で言うところの速歩というやつなのだろうか、背をあまり揺らさないようにしてもらうとだいぶ乗り心地は良くなる。端の村で、革職人さんに急ぎで体の固定具的なのを作ってもらって更に良くなった。と言っても2泊して間の1日だけという、ほぼ突貫的な仕事であるが職人3人で何とか頑張ってもらえた。必死で遠慮していたがちゃんとお金も渡した。


 夕方にはユタの集落へたどり着き、寄合小屋で一泊する。この調子だと結構早くゲネブまで帰れそうだ。


「だけど、ハーレーで止められないかな?」


 モーザが竜を連れて途中の街などで断られないかと気にしている。でもまあそこは良いものがあるんだ。俺は綺羅びやかな短剣を鞄から取り出してみせた。


「ほれ。こないだ王様が来た時にさ、俺の龍珠とかで門番とかに止められた時のためにってコレをもらったんだよ」


 国王がゲネブを発った後にジロー屋の親父から受け取った短剣だ。王家の紋章が記されていて、水戸の御老公の印籠の様な効果があるようだ。まあ、ゲネブから遠くにあまり行かないので使うことはなかったが、ハーレーに乗っての街の通行等にも効果があると思うんだ。


「おお。コレは……俺が貰っておこう」

「いや、それは駄目だろ~。俺の名前も掘ってあるしな」


 羨ましそうに見るモーザに、俺の名前をチラチラと見せつける。ナイフと言っても模造刀のように切れるものでなく、こうやって刻みを入れて身分証の代わりにするようなものらしい。




 翌日、夕方くらいにようやくヤタの集落に着く、ようやくと言っても走ったときよりは速いのだが、流石に一日中ハーレーの背中に乗っていると尻が痛くなる。各々体を伸ばしながら今夜泊まる予定の寄合小屋の中を確認したりする。


「結構狭いな……」

「まあ、なんとか体は伸ばせそうだけどなあ、いざと成れば俺は外でテントで寝ても良いし、ていうかハーレー咎められるかと思ったけど、今日は警備団の人誰も居ないよな?」

「もしかしたら警備団の交代の時期かもな、ここはさほど重要じゃないから交代もここに居た警備団員が一度タル村に戻るってから代わりが向かってくる感じなんだ」

「なるほど……たしかタル村までは4日か、警備団の人なら2日で来れるかもしれないけど、そこそこ空白は出来るのな」

「要は集落を根城にした野盗の群れとかが住み着かなければ良いって感じだからな、ここを通って端の村に行く商人もそんないねえから、野盗そのものがあまり出ねえし」


 まあ経費削減って事だろうな。


 結局モーザが俺にテントを貸してくれと申し出て来て、小屋の外でハーレーの横で寝ていた。なんだかんだ言ってモーザもハーレーをちゃんと面倒見ようとしている。意外とこのペアは有りなのかもしれないな。





「タル村に着いたら1泊するでしょ?」


 タル村への道中、腹が減ったと獲物を狩りにモーザとハーレーで出かけてしまった。そのタイミングで昼飯を食べていると、みつ子が聞いてくる。確かにこのペースだと1泊挟んでタル村には昼くらいには着きそうだ。ゲネブへ急ぐならタル村で昼飯を取ってそのままヤギ村を目指しても良いかもしれないが……。


 あれから1ヶ月くらい経ってるからな。味噌工房とかビール工房の進捗具合もちょっと気になるといえば気になる。



 街道沿いに1泊し、次の日の昼には予定通りタル村が見えてくる。


「ん? 門が閉まってる?」

「ハーレーか?」


 門に近寄っていくと門の向こうで監視をしていたらしい人間が「こっちからも来たっ!」騒いでいるのが聞こえた。ん? こっちからも?


 何やら村の様子がおかしい。村の中からけたたましい叫び声や子供の鳴き声が聞こえてくる。これは……ハーレーじゃねえな。なんだ?


「モーザ! このまま壁伝いに反対の入り口に回ってくれっ」

「わかった!」


 門を通り過ぎ、山側から石壁伝いに反対の入口へ向かう。だけどやっぱりなにかおかしい。石壁は2m程の高さか……。


 途中でモーザに壁ギリギリまで寄せてもらい、そのまま壁によじ登る。村の中を見ると村の人々が走って工房などある方に向かっていく姿が見えた。


 向こうの入口の方では……建物でよく見えないが魔力の靄が渦巻いている。


 ――村が襲われている?


「これって……魔物に襲われているの?」


 同じ様に石壁によじ登ってきたみつ子が村の騒動をみてつぶやく。


「なんだろう、龍脈沿いだからなあ。でも村の入口の方に魔力の気配がする」

「警備団も居るし、野盗が襲ってくる事も無さそうだよね」

「ううむ……とりあえずみっちゃん、先に中入ってけが人が居たら回復してもらうか」

「わかったっ!」


 そう答えみつ子は壁から飛び降り走っていく。どうする? トゥルは村の中に居てもらったほうが良いのか? 非戦闘員枠だよな……。


 その時ゲネブ側の入り口の方から、石壁沿いに3匹のオークがこちらに向かって走ってくるのが見えた。オークだと? やはり魔物か。しかしオークはハーレーを見ると驚いたように立ち止まる。


『ぐぉおおおおお』


 ハーレーがオークに向かい咆哮を上げると、慌てふためいたオークが逃げていく。俺はすぐさま弓矢をつがい矢に魔力を込める。


 ブンッ


 矢はまっすぐにオークの後頭部に突き刺さる。すぐに2射目を準備するが、ショアラの矢が残りの2匹に突き刺さる。やはりショアラの矢は早え。


 それにしてもオークか、近くに集落が有ったのかもしれない。迷っていられねえな。トゥルに壁を越えて村人が避難していく場所に行くように指示し、スティーブとフォルに護衛を頼む。トゥルは石壁から飛び降りるのに躊躇していたが、なにかヤバいことが起こっているのを感じるのかなんとか飛び降りる。


 ショアラは俺に付いてきてもらう。彼女の弓は頼りになる。


「モーザ。ハーレーと外から頼む」

「任せろ」


 モーザがハーレーを駆り先に行くのを追って、俺とショアラは石壁の上を走り出した。



 マジか……


 石壁の上を走っていくと遠くに村の入口が見えてくる。だが門は既に破壊されていた。それでも今は警備団が必死にオークの侵入を防いでいる状態だ。村の中までは魔物は侵入できていないのか? しかし倒れている魔物を見るとオークだけじゃない。ゴブリンやウルフ系の魔物も居る。なにかおかしい。


「ショアラは壁の上から射撃してくれっ」

「あいよっ!」


 そうショアラに声を掛け俺は壁から飛び降り門へ向かう。走っていくとみつ子が倒れている数人の冒険者に回復魔法を掛けていた。周りには焼け焦げた魔物の死骸が転がっていた。みつ子に向かって走りながら声を掛ける。


「みっちゃん! バフをちょうだい!」


 すぐにみつ子からバフが飛んでくる。メキメキと体中の筋肉が力で溢れてくるのが分かる。そのまま止まらずにみつ子の横を走り抜けていく。


 入り口付近は限界が来ていた。守っている警備団の間からオークが抜け出し、村の中に入っていこうとするのが見えた。走りながら矢をつがえオークを狙う……くっそ。走りながらじゃ自信がねえか。周りの警備員に当たりそうだ。


 弓を諦め、次元鞄にしまう。そのまま裕也の剣を抜き。<剛力>を発動させる。村人は既に避難をしているが……。獲物を探すオークに向かい全力走り、1刀で切り捨てる。よし、オークはもう問題ない。ん?


 ゾクリ。


 嫌な<直感>に襲われながら村の入口に目を向けると、赤銅色の……鬼が破壊された門から姿を現した。




※いつも、本作を読んで頂き感謝しております。昨年9月から小説家になろう様で書き始めて、カクヨムコン募集の終わった3月からこちらに転載をはじめましたが、いよいよ完全にそちらに追いつきました。

 転載してたため、毎日投稿を続けていけましたが、実際は週に3~5話を平日投稿の形で連載を続けておりました為、今後はカクヨムの方も平日に週3~5話の投稿というスタイルになります。

 あまり読まれていない小説家になろうの5倍位のフォローをして頂き、感想も多く頂き、カクヨム読者様には大変勇気づけられております。

 なろうの方で告知をしておりますが、予定としてここからこの章は終わりに向けて書きすすめております。章終了後に、次章に関しては舞台も変えていく予定でまだ話もあまり煮詰めておりませんので、再開は少し間を開けようと思います。それと書き始めてずっと同じ小説を書いているために、少々気分転換に短めの別の小説も書きたいというワガママもありまして……。ご了承ください。


 

 今後とも宜しくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る