第219話 トゥルの依頼 21 ~帰り道~

「何から何までありがとうございました」

「いえいえ。大したお構いもできず。氷室まで直して頂きこちらこそありがとうございました、またいらっしゃる日を楽しみにしておりますよ」


 村人総出で見送りに出てもらい。とうとう俺たちは帰る事になる。下界でこっちに来ることを希望する黒目黒髪の人間が居たら連れてくることも約束した。それとキポリを1ダースほど端の村へ届けてほしいと頼まれる。元々龍脈の効果の薄めの端の村は、山の集落から提供されるキポリで魔物からの被害を避けていたと言うのもあったらしい。定期的な提供には成らないがそれでも持っていって欲しいと言うことで了承した。


 さらにオクトさんは俺達のお土産用にと焼いたらしい通常のものより小さなキポリを1人1つづつ持たせてくれた。皆には竜の糞で作った人形だとは言わないようにしておこう。1ダースのキポリもフォルやスティーブの次元鞄に入れてもらう。


 うん。いい旅だったぜ。何よりトゥルの依頼をバッチシ成し遂げる事が出来た。いや。帰るまでが依頼だな。あまり油断はしないようにしないと。



「さて……と。そういえば、洞窟から帰るにしてもハーレーはどうするんだ? あいつデカ過ぎて通れねえよな?」


 帰る段になり大変なことに気がつく。ハーレーは飛べないしな。


『洞窟なんて使わなくても、皆で俺の背に乗れば問題ないだで』

「お? 俺たちも乗せてくれるのか?」

『モーザの部下はおでの部下だからな、しかたねえが乗せでやるで』

「……部下はともかく。それは楽そうだな、道でも有るのか?」

『道なんてねえど。終の壁から飛び降りるだけだ』

「……は?」


 こいつ今アホな事言ったよな? みつ子を見るとブンブン首を振ってる。


「モーザ。洞窟の入り口で待ち合わすか?」

「ちょっと待て。俺だって無理だっ! あんな崖無理だろ」


 おいおい。いきなり難問にぶち当たったぞ?


『なんだなんだ。おめえたち怖がりだなあ。しょうがねえ。おでも小さくなって洞窟からいくだ』

「は? 小さく……なれるのか???」

『またおでを馬鹿にしてるなっ! 偉大なるアース・ドラゴンの子たるハーレーに出来ねえ事なんてねえど』


 そう言うと、ハーレーはぐっと目をつぶる。しばらくするとふぁぁぁぁ~っと光に包まれ、その姿が小さくなっていく。


 まさか……。


 いや……間違いない。


 これはファンタジーの定番の……。


 ドラゴンの……ロリ……人化……。


 だとぉおお!



 やがて光が弱まると、そこには小さな可愛らしい……トカゲ?  が居た。



 いや。可愛くねえ! それでも体長は1.5mはあるちびドラゴンだ。スゲー期待した俺はそのギャップに打ちのめされる。


「キャー!!! ハーレーすご~い! 超カワイイんだけどっ! ねっ省吾君見てよっ!」

「あ、ああ……」

『だはだはだは。みつ子は分かってるな』


 声色は若干高くなったか。くっそ。何だこの喪失感。みんななんでそんなに嬉しそうなんだ? くっそ。いや。そういう属性はないが、期待はするだろ? 普通。


 なあ?




 小さくなったハーレーと共に洞窟に入っていく。


『お~。竜の子と一緒にいくのかあ?』

「そうなんだ。パン爺もたまには外に出てみたいか?」

『ふぉふぉっふぉ。ワシはもう後はここで死を迎えるのを待つだけじゃよ。若いうちは色々と見てくると良い。たっしゃでのお』

「ありがとう。パン爺も元気でな」


 来た時と同じ様にパン爺さんの背中に乗せてもらい洞窟の道まで運んでもらう。パン爺さんと別れるといよいよ村から去るんだと実感する。


 ハーレーの小型化は途切れることなく洞窟を出るまでキープ出来た。ハーレーも初めて村から出ることと、モーザと旅に出ることに少々興奮気味でうるさい。ただ夜にハーレーに寄りかかって寝るモーザはなんとなく微笑ましいものだ。


 それでも来る時と違い出口があるのを保証されているだけで気分が楽だ。更に途中で光量が増えたのに気がつく。どうやら<光源>のレベルがあがったようだ。多分3くらいになってる。これは嬉しい。



 ようやく洞窟から出ると、ハーレーが元のサイズに戻る。そのハーレーの背に皆で乗ろうとするのだがそれがどうも難しい。


 ハーレーの背は背びれの様な突起の列が二筋あるためその間に皆で一列に乗れる感じだと思ったのだがなかなか具合の良い感じに座れない。ハーレーにことわり、ロープを張ったりしてなんとかポジショニングをする。


 モーザの座るところは首のすぐ後ろの部分で騎乗具が付けられるので良いのだが、他の乗客を想定した作りでは無い為、俺達のポジショニングはなかなか悩ましい問題だ。それでも7人全て載せられる背の大きさはやはり巨人と戦う竜ならではのサイズなのだろう。



「ちょっちょっ! 速ええよっ! モーザ止めろ!!!」


 振り落とされそうになるトゥルを必死に掴まえながらハーレーを止める。森の木々をなぎ倒しながら直進するのかと思ったのだが器用に避けながら進むため左右にグングン振られる。さらに歩行時は問題ないのだがスピードを出そうとすると後ろの蹴り足に力を貯める時に背を丸めるため縦にも揺れコレまた振り落とされそうになる。


『おとなしく乗ってれば良いものを。あんまり贅沢いうなあ』


 なんとか乗ってられるスピードを探そうと色々言っているとハーレーも段々苛ついてくるようだ。「なんでも出来るドラゴン様のお力を見せてもらいたいんだ」そんな一言ですぐに大人しくなるから楽なのだが。


 1日すったもんだしているうちに俺たちも騎乗に慣れ、ハーレーのスピードもある程度落ち着くとそのまま次の日にはスムーズに端の村まで到着した。あの川を超えるときだけは流石にモーザだけで超えてもらい、俺達は綱を伝ってゆっくり渡ったのだが。やはり騎獣ってのは素晴らしい。やっぱ欲しかったかもなあ……。



 そしてようやく端の村へ到着することが出来た。


「おおお。おかえりなさいませ。無事に帰ってきてしかも竜まで従えて。やはり冥加の方は期待以上でございますね」


 村長に出迎えられ、端の村でゆっくりする。山の集落では水浴びだけしか出来なかったが、ここにはお風呂があるからな。村の人達に甘えゆっくりと風呂で旅の疲れを癒やした。


 届けるように頼まれたキポリも、端の村の人達は心得たもので喜んで村の周りに配置をしていた。ただ、これも保って10ヶ月程の物ではあるらしい。それでもその間の安全が保証されるだけでも十分に助かるとのことだった。山の集落では黒目黒髪の子供が産まれ、十年ちょっとすればまた交流が出来るようになるかもと話すと聞いてた人たちからは歓声が上がった。



 ここまで来れば後は龍脈沿いに帰るだけだ。トゥルの了承を得てもう1泊し、少し体を癒やしてから再びゲネブに向かうことにした。





※せっかくのお盆休みが大雨で大変ですが、皆様お気をつけて。

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