第26話 とれいんとれいん
今日も教会の鐘の音で目を覚ます。
ハヤトが起こしに来ない朝はなんだか寂しい。
実は昨日の若者冒険者からヒントを得て、1層でやりたいことが有るんだが……まだ早い気もしてちょっと悩んでる。やはりもう少し鋼の剣に慣れてからにした方が良いのか。きっと、裕也にバレたら怒られそうだ。
取り敢えず午前中は昨日の続きでチマチマとやってみよう。鋼の剣に込めた魔力を逃さないイメージ。逃さないイメージ。逃さないイメージ……。
今日もダンジョン守のお爺さんを起こしてからダンジョンに入っていく。
今日は他の冒険者がいなそうだ。また1人で好き勝手に出来る感じが良い。全裸で入ったって誰にも見つからないし怒られない環境だ。やらないけど。
グォオン
ミス率はだいぶ無くなってきてる。ていうか、午前中狩り続けたがMP切れにもならない。やっぱだだ漏れする魔力が原因なんだろうな。
……よおし。お昼を食べたら例のやつやってみるか。
省吾は決断した。
ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ!
「うぎゃあああ、やべえ、怖えええ! これ行けるんデスカ???」
そう。俺は今大量のストーンドールに追われている。10体を超えた当たりからビビり始めて数は数えていない。俺の考えたオリジナル特訓法『トレインドールズ』だ。やり方は簡単。1層の入り口からストーンドールを引き連れて走るだけ……なのだが振り向くと岩石が押し寄せるようで威圧感半端ない。真似しちゃ駄目だぞ!
隅から隅までって思ってたけど、これはヤバイ。いま半分くらいだがちょっと増えすぎた。ここらへんで辞めないと大変なことになりそうだ。
よし、二部構成にする!
急ブレーキを掛けて振り向く。うわあ……やっぱ怖えええ。
いいか省吾! 歯は食いしばる為にあるんだ! そんな師匠の声を捏造しながら剣を構える。
「シャー来いコノヤロー!」
いつだって燃える闘魂は俺達の味方だ!
今日も鬼のような形相で鼻息を荒くして敵と対峙する。鍛え上げた体が纏うのはワイバーンの革鎧。込めた魔力は逃さないように。振り上げた剣は外さないように。どんなにビビったとしても背中は見せない。それがダンジョンでのやり方。
フンッフンッフンッフンッ
斬って斬って斬りまくる。ストーンドールのパンチは紙一重で避けていく。上がるボルテージ。沸き立つアドレナリン。行ける! 行けるさ! ……ん? なんだい? 今の<直感>。
バキッ
……げ。剣が折れた。
お……をおおおおおお。
折れた剣をストーンドールに投げつけ再び走り出す。前から来るストーンドールを避けながら次元鞄から予備の剣を必死に探す。焦って中々取り出せない。これがドラ○もんの心境か!
ストーンドールはまた増え始める。
ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ
「ちょっ。ちょったんま。待ってって!」
剣を取り出した時には再びトレインが熟している。げっこれ両刃のやつだ。まあいい。切れれば問題ナッシング!
再び急ブレーキをかまして振り返る。こっこわくなんか……。
「シャーコノヤロー」
何時だって燃える闘魂は……まあいいか。
たまに掠るパンチに肝を冷やしながら斬って斬って斬りまくる。ふふふふ。俺は戦闘ジャンキーさ!
「フー。フー。フー。ダッシャー!」
大量に散らばる魔石の中で俺は雄叫びを上げていた。やばい。達成感半端ねえ。後半戦はほぼミス無かった。追い込まれて覚醒する俺の底力や! 頭の中ではロッキーのテーマが鳴り響いている。
しばらくしてちょっと落ち着きドロップの回収を始める。魔石を拾う手が疲労でプルプルしている。だいぶ奥まで来たから取り敢えず階段まで頑張ってやすむか。
そして、これを夕暮れまで続けたわけで……。
「旅ゆけば~~♪」
ふう。やはり風呂は生き返るぜ。思わず浪曲を口ずさんでしまうくらい素晴らしい。裕也の銭湯画が初めてありがたく感じる。まあしかし、ダンジョンのおかわりは大成功だな。鋼の剣の課題はクリアした。
よし。明日午前中に最終仕上げをして帰るか。
次の日、受付でチェックアウトをする。
鍵を返却して宿から出ようとした時、受付のダンディーなおじさんが話しかけてきた。
「ショーゴ様。もしよろしければこれをお受取りください」
そう言って渡されたのは一枚のカードだった。高級感たっぷりのゴールデンなカードだ。しかも俺の名前まで刻印されている。
「これは?」
「私共、ラモーンズ・ホテル・グループのVIPカードでございます。我々のグループのホテルでございましたら全国どこのホテルでもこのカードで割引料金でご宿泊出来ます。通常ホテルでは満室でも予備の部屋を用意してございますので、このカードをご提示いただければ一般のお客様ならお断りする場合でもご宿泊の用意をさせて頂けます」
おおお、マジか……裕也のコネも有るんだろうけど……ていうかホテルだったのか??? ずっと宿って表記しちゃってたぞ???
うやうやしくカードを受け取り宿……ホテルを後にした。
そして最終仕上げとして鋼の剣でのダンジョン制覇。
「だしゃぁ!」
無事完了。
そして帰……おっ! おお!!!
ストーンゴーレムの消えた跡にいつぞやの玉虫色のオーブが転がっていた。ゴーレムだとやっぱ<頑丈>かね。でももう金に換金する感じなのかな。
……そうだ。
そのまま急ぎダンジョンを出る。流石に昼は回っていたが雑貨屋まで走っていく。
「おばちゃん、<解析>か<鑑定>って使えるか???」
「んあ、<鑑定>なら使えるぞ、どうしたそんな息を切らせて」
「今日ストーンゴーレムからこれが落ちたんだ見てもらっていいか?」
「オーブか、ラッキーじゃな。良いが鑑定料は取るぞ?」
「かまわねえ。よろしく頼むよ」
鑑定料を払うと早速鑑定をしてもらう。
「……<頑丈>じゃな。まあ低レベルのストーンゴーレムはこれしか落とさないがな。」
「そうか、良かった。俺はすでに<頑丈>覚えているからさ、おばちゃん器が余ってたら使ってくれっ」
「はっ? 器は余ってるが……何を言っておるんじゃ?」
「おれさ。こんな優しくして貰えたのって初めてでさ。お礼がしたいんだ。<頑丈>があればなんか、長生き出来そうだろ?」
「何を言ってるんじゃこの子は……」
そう言いながらまじまじと俺を眺める。やがてふっと表情を緩めて。
「良いのか? 売れば軽く1万モルズくらいはするぞ?」
「金なんてこれから幾らでも稼げるさ」
「……そうか、ありがたく使わせてもらうぞ」
雑貨屋のおばちゃんがオーブを砕くのを見守ると。また村に寄ったら買い物に来るからと言って店を出た。
ふう。よし。これで後腐れなく帰れる。
ちょっと時間食ったからな。ダッシュで帰るべ。
そして、裕也の小屋に向かって走り出した。
あ、魔石売るの忘れた……。
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