第250話 裕也と再会

「はい、泊まられております。ラウンジの方で少々お待ちいただけますか?」


 うん。さすがは本店だ。ゲネブのホテルより更にでかい。それにしても……高そうなホテルだ。西門近くの支店で部屋を取っておいて正解だな。これは。

 ラウンジには、喫茶店の様に飲み物も頼めるように成っているようだ。


 ……それにしても。


「ん? 省吾君どうしたの?」

「いや。このソファーすげえ良くない?」

「え? ……まあ座り心地は良いね」

「やっぱ。サクラと作者が同じかもしれない。このステッチの感じといい、足の造形。確か裏に刻印が……」

「ちょっちょっと。省吾君、恥ずかしいって!」


 俺がソファーを持ち上げて裏の製作者の刻印を確認しようとするとみつ子が止めてくる。まあ。女性には男のロマンってのが理解しにくいかもしれないが、刻印くらいは確認しないといけない。


「お、お客様???」


 ちょうど通りかかった女性のスタッフも何か慌てたようにやってくる。


「あ、このソファーの製作者だけでもちょっと確認させてもらっていい?」

「え? あ。はぁ」


 やがて、裕也がラウンジにやってくる。


「省吾……お前何やってるんだ?」

「いやね、ほら。お。やっぱりそうだ。サクラの姉妹なんだよ、こいつは。おおお。久しぶりだな。おめでとう!

「あ、ああ……まあありがとう……ていうかやめろよみっともない」

「え? そうか? ん~皆そういうの興味ないのかなあ、ゲネブの職人のソファーが王都で使われているんだぜ? これってすごいことじゃねえか?」

「まあ、すげえっちゃすげえかもだけど。王都は本気の職人は少ないから大抵は余所の街からの仕入れだからな。たくっ。変わらねえなお前は」


 久しぶりに見る裕也は短めに髭なんて伸ばして、ちょっと新進気鋭のデザイナーですか? って感じのイケ親父を気取っていた。


「本当に王都まで来たんだな。せっかくだからなんか飲み物でも頼むか」


 裕也はホテルのスタッフを呼ぶと、お茶などを人数分頼む。その手慣れた感じで注文してる姿がセレブっぽくて嫌味だぜ。まさにダンディーっぷりを売りにしてる感じだ。


 とりあえず、一緒に来た仲間は紹介しておきたい。フォルや、スティーブ等といった裕也メソッドをこなして来た社員とかと違い、裕也の事は話でしか聞いていない連中だ。それでも武器などを作ってもらっている事もあり、顔見せはしておこうと思ったんだが。


 流石に子供は今寝ているらしく、大勢で行くのは避けるべきだということで、お茶など飲んで会話を楽しむ。その後、俺とみつ子以外は好きに王都を楽しんで貰う。一応明日の朝食はホテルのレストランで顔を合わせる約束はした。


 皆がホテルから出ていく中、モーザが残る。


「ユーヤさん。すいませんが、これってお願いできます?」


 そう言うと、剣聖に穂先を叩き切られた短槍を取り出して裕也に見せる。裕也は「ん? 良いぞ」と言いながら切り口を眺めていた。


「モーザ。これは。誰にやられた? 省吾か?」

「え? いや。まあショーゴじゃないですけど……」


 そう言いながらチラッと俺の方を見る。まあ裕也には教えても良いんだが。トラブルになったとき、今は赤ちゃんも居るしな。知らないほうが良い気がするのだが……。そんな目配せも裕也はすぐに何かあったことに感づく。


「で、省吾。またお前は面倒に巻き込まれたのか?」

「巻き込まれちゃ……居ねえよ。それにもう終わったし。問題ないさ」

「おう。長槍だったら俺だって負けてなかったさ」

「だろうな、お前らレベルのが苦労するのなんて、そうそう居ねえだろうしな。まあ、剣聖でも出てくれば――」

「ぶっっっ!!!」


 軽く言う裕也の一言に思わず咽る。それを見て裕也は白目をむく。


「……マジかよ……」



 それ以上はここでは不味いということで、モーザの短槍の修理は裕也が請け負うと、モーザは出ていく。そして。俺とみつ子が裕也に連れられて裕也達の部屋に向かった。


「ほら、ラモーンズさんと俺は知り合いって言っただろ? 何処かに部屋を借りようとしていたんだけどな、出産祝いで一年くらい使ってていいぞと言われてな」

「くらい、って何だよ。アバウトだな」

「まあ、その代わり、王都の違うホテルだけどな、浴室のデザインとかを頼まれてるんだ。お、ここだ」


 そう言うと、部屋の鍵を開け中に入っていく。俺とみつ子も恐る恐る中へ入る。


「!!!」


 まじか……超スイートルームじゃねえか。確かにこの部屋なら暮らせる。部屋の入口でまじまじとその豪華な部屋にドン引きしていると。奥からエリシアさんが出てくる。産後とは思えない神々しさのままだ。


「お久しぶりね、お二人共わざわざ遠くからありがとう」

「いえいえ。友達のお祝いです。距離なんて関係ないっすよ」

「はい。エリシアさん。おめでとうございます」


 みつ子は今日のために赤ちゃん用のロンパース的な服や、何やら色々と作っていた。元々コスプレ趣味が在るため裁縫には自信があったらしいが。きっと地球のデザインのベビー服はこの世界のそれより色々と工夫があって具合が良いに違いない。


「え? これをみっちゃんが? まあ。素敵。今ソフィーは寝ているの。見てみる?」

「はい! お願いしますっ!」


 みつ子とエリシアが、隣の寝室の方へ行く。こういうのは俺も裕也も大した事は出来ない。俺は裕也に勧められるままに部屋のソファーに腰掛ける。


「で。剣聖と揉めたのか? よく生きていたな」


 裕也が剣聖との話を聞いてくる。俺は剣聖がこの国の竜騎士を始末に来ていた話など、詳細を説明していく。そしてなんとか3人で倒すことが出来たと。


「ふむ……ゾディアックか、もしかしてウブロット共和国のか?」

「なんだ。知ってるのか?」

「俺の聞いたことの有るゾディアック本人ならな。俺がこの世界に転生してきて冒険者をやっていた頃にはすでに伝説に成っていたぞ? まあそれがあの爺さんとは解らんが」

「ハーフドワーフって言うから長生きでは在るんだろ?」

「そうなんだがな。ゾディアックはたしか冒険者じゃなく軍人だったぞ」

「軍人?」

「ああ、百年近く前に、帝国の支配からウブロット共和国が独立を勝ち取った戦争があったんだ。俺の転生してくる前の話だ。確かその戦争での英雄だ。まあ、同じ名前の人間なんて、いくらでも居るだろうから実際のところは分からねえがな。確か<ブルガリスの2英雄>と言ったと思う。夫婦揃って英雄として共和国では伝説に成ってるはずだ」

「まじか……いやでも。なんとなく剣聖との時とかも只者じゃねえ感じはしたんだよな。それに居なくなった奥さん探してるって言ってたから、夫婦で英雄ってのもイメージはわからんでもないか」


 やっぱり裕也も剣聖を埋めて無かった事にしたのは正解だと感じたようだ。国家間の揉め事に無理して巻き込まれる事は無いと。



※いやあ、カツカツでギリギリ完成で即投稿って感じです。落としちゃったらごめんね~。ちょっと王都編を挟んで本題に入っていく予定です。

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