第103話 牢屋の中 6

 牢屋生活も15日目だ。

 朝食をすませ、いつもの様にボディーコントロールのトレーニングをしていると、誰かがやってくるのを感知する。


 あれ? 女性?


 牢屋番が鍵を開けるとその女性は1人で通路に入ってきた。


 なんだろうと意識を向けていると、カツカツというヒールの音と共に現れた女性に驚く。


 肩まで伸ばしたストレートの青髪。深海を覗くような濃紺の瞳。薄暗い地下の中でも受付に座っているのと変わらずに、陰る事無く美しかった。


「し、シシリーさん??? なんで?」

「ショーゴさん、遅くなって申し訳ありません。今回の事で上層部にすぐに連絡はしたのですが、最近最高責任者が変わったのもあり、それで処理に遅れが出てしまいました」

「へ? 上層部? あ! まさかシシリーさんギルド長の事をギルド本部に内部告発してくれたんですか???」

「え?」

「え?」


 あれ? なんかお互いに話が噛み合ってない様な。

 シシリーさんは、少し気まずそうに説明を始めた。


「すみません。解りにくかったですね。実は私は、王国からギルドに派遣されている者です。なにぶん時間がかなり遅れてしまったので、上司が万が一の結果にならないように急げと。私達の事は恐らくユーヤ様から聞いているから私に行って来いと言われ」

「へ? 王国の?」

「ウーノ村のユリスが私の直属の上司になります……。あのう。ウーノ村の村長のメイドをしているのですが、お会いしていると思うのですが……」

「あ……」


 まじか。


 裕也が王国で黒目黒髪を監視している組織があるって言ってた。あれか。

 おいおい。まさかシシリーさんが諜報部員みたいな組織の人だったなんて。想定外もいいところだ。いや。ギルドに人員を置くのは監視としてはありえるのか。特に過去の勇者も冒険者として名を上げたのが始まりだっていうしな。


 いや、でもなんでだ? 黒目黒髪の監視は俺達のような転生者を危険視しているからこそじゃないのか? なんで助けるような……あれ? 助けに来てくれたんだよな?


「えっと、シシリーさんは僕を此処から出してくれる為に?」

「はい。手続きは済んでいます。あ、今鍵を開けます」

「ありがとうございます。でも何で? 組織ってスパズを危険視してるんじゃないんですか?」

「いえ、私どもはあくまでも王国に仇をなそうとする人間を危険視しているだけですので、無実の方をどうこうしようとする事はありません。特に新しいトップは新しい知恵をもたらす方はむしろ保護しようと言う考えの方ですので」

「おおー。なんか好意的に見てもらえると嬉しいですね」

「ショーゴ様もお会いしたことがあると思います。オーティス・ピケ子爵です。次期国王の戴冠に合わせて伯爵になられるそうですが」

「ああ、あの人なんだ。なんか解るなあ」



 牢から出て、体を伸ばす。

 こんな場所でも二週間も住んでいると、多少の愛着はわいているんだよな。「二週間ありがとうな」そんな気持ちで牢に向かってお辞儀をする。シシリーさんは不思議なものを見るような目でこっちを見ていた。


「あ。そうだ。ずっと気になってたんだ」


 俺は<剛力>を発動させ両手に魔力を纏わせ、向かいの鉄格子を握る。


「んぐぐぐぐ」


 <魔弾>が当たって少し凹んでいた鉄格子を何となくだがまっすぐに直す。ギシギシと嫌な音がしたが。うん。やっぱ何とかなった。


「すごい、ですね」

「ん~。ずっと向かいの鉄格子が歪んでいるのが気持ち悪くてね、気になっていたんですよ」

「几帳面、なんですね」

「いやいや。暇な牢屋生活していると些細なことが気になったりするんですよ」



 通路の出口に行くと、牢屋番がキョドリながら鍵を開けてくれる。牢の中に解放される俺しかいないのにシシリーさんが入った後鍵を閉めるとか意味無いよな。



 シシリーさんの後ろを付いて階段を上り、そのまま警備団の受付に行く。シシリーさんが声を掛けると、受付の男性が一枚の書類を出してきた。シシリーさんはそれを受け取るとサインをするように言ってきた。


「釈放の書類です。不当な拘束と言う事で1日当たり5000モルズお支払いいたします。金銭的には不満があるかもしれませんが、今回はこれでご容赦願いたいのですが」

「え?いやいやいや。そんなに貰えるんですか? だって15日分ですよ?」

「半月も薄暗い地下牢で拘束されていたのですから、当然の権利です」

「ううん。まあ貰える物はもらいますよ」


 そういうと、書類にサインをして渡す。


「数日中に商業ギルドの口座の方に振り込むように手配しますね」

「……口座があるのも知ってるんですね。そうか。商業ギルドにもいるのか」

「はい」

「あ、もしかして受付の子? たしか冒険者ギルドの受付に友達がいるって」

「ふふふ。内緒ですよ?」


 ああ……可愛い子がみんなアンタッチャブルになっていく。


 そうか。ようやく俺も無罪放免か。どうしようもなくなったら護送中に逃げ出そうとか思ってたけど、賞金首にならないで済んでよかったよ。それにしてもあのムカつく副団長のやつはどこだ? いやみの1つも言って行きたいんだが。そう思い、受付の奥のほうを覗いているとシシリーさんが何かを察したようだ。


「副団長はきっと不貞腐れて自室に篭ってますよ。ショーゴさんの釈放にだいぶお怒りでしたから」

「ぬ。そうか。残念」




 久しぶりに見る空は雲ひとつ無い澄んだ青空だ。こっちに転生してきてこの青空が一番気に入っている。日本じゃ雨の日の後くらいしかこんな青空見れないもんな。


「ショーゴ様はこの後どうしますか?」

「うーん。とりあえず風呂かシャワーを浴びたいんですよね。あ、家の鍵教会に預けたままだった。あれフォルが引き取ったかな……」

「もしよろしければ今日はラモーンズホテルをお取りしましょうか?」

「あ、使うホテルも知ってるんですね」


 俺はそのまま甘えることにして、一緒にラモーンズホテルに向かう。受付でシシリーさんにお金も払ってもらうと何となくヒモみたいな気分になれる。もう少し説明しておきたいことがあるので今日の夕食をご一緒にどうでしょうか。と聞かれればNOと言える男は居ないだろう。夕食の代金もシシリーさんが持ってくれるという事だし。




 二度も三度も体を洗い、あぶらでべっとりした髪も丹念にあらう。


「ぷっは~。マジ生き返る。やべえ~」


 二週間ぶりの入浴は最高だった。壁に描かれた赤富士がこれまで以上に俺の心を刺激する。温暖なゲネブは海の近くにあるからか湿度は程よく高い。冒険者生活の中で風呂に入らないのにもそれなりには慣れては来ていたが、やっぱ気持ち良い物ではない。



 風呂から上ると、シシリーさんに渡された衣類一式を身にまとった。

 確かに風呂で綺麗になったまま、あの服を再び着ちゃったら意味無いもんな。ホントにシシリーさんは気が利く子だ。ていうかサイズまでピッタリでちょっと怖いくらいだが。立場が違ったら絶対惚れちまってたな。


 約束の時間まではまだ時間があったので、ベッドの上でゴロゴロする。明日にはフォルの家で鞄を受け取って自宅に帰ろう。


 サクラも寂しがってるだろうしな。




ショーゴ ヨコタ

レベル 20

スキル

 アクティブ

  剛力 魔弾

 パッシブ

  言語理解 極限集中 根性 頑丈(Lv2) 直感 逆境 魔力操作(LV2) 俊敏

  強回復(Lv3)魔力視 速視 上魔質 体幹

魔法

 ノイズ 光源 光束 ラウドボイス

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