第236話 大掃除
なんとかリル様の試乗会を終え、後は出発の日を待つのみとなる。この頃になるともう仕事は受けていない。まだフルリエ達が帰ってきてないが、少なくとも正月前には帰るように言ってあるのでそろそろ帰ってくるだろう。
ブルーノは、突然出発の日が伸び、結果帰宅も遅くなりそうという事で、仕事明けの依頼の消化が間に合うかと頭を悩ませていた。俺とみつ子とモーザと言うサクラ商事のトップ3戦力が居なくなればそれだけ受けられる仕事も狭まる。それでも王都行きが旅行から依頼へと変わったので収入はあるんだが。
ということで、俺達は今年もゲネブで新年を迎えることになった。日本での慣習に習いサクラ商事は年末年始をはさみ2週間程休みをすることにしている。いや、日本だと1週間が良いところか、まあ特に三賀日は働きたくないしな。
それに合わせ、特にうちに多い身寄りのない社員を中心に新年会的な催しはやりたい。こたつでみかんを食べながら朝からニューイヤー駅伝や箱根駅伝を眺めたりは出来ないが、餅つきとかはしたいじゃないか。
そんな事を、事務所の大掃除をしながら話す。横で窓を拭いていたランスが申し訳無さそうな顔で答える。
「すいません、俺はフォルとエルフの集落に行く約束しちゃってて……」
「おう、そうだったな。それはそれで良いよ。エルフの女の子紹介してくれるっていうんだろ? それはもう気合入れて行ってこいよ」
「へへっ。もしかしたら連れて帰ってきちゃうかもしれませんね」
「ん? まあ……がんばれ」
ランスは、元々タル村で冒険者をしていた。スタンピードの余波でやって来た魔物をこともなげに処理していた俺達に憧れて居るところにウチが黒目黒髪を募集しているのを聞いて、黒目黒髪じゃないが自分も雇ってほしいと押しかけてきた。
ちょうどフォルやスティーブと同い年だったため良く組んで仕事をさせていた。動けるデブといった感じの男で、体も大きくタンク的な戦い方を仕込んである。
ただ、そこまでイケメンと言う訳でもなく、なかなかモテない男で彼女が出来たことが無いらしい。なんだかそんな男が多いぞ。うちの事務所。
今回はフォルが紹介してくれると大見得を切り、正月休みを利用してエルフの村に行くことになっていた。
「ランスさん良いなあ。俺もエルフの集落に行きたいなあ」
「ミュラは黒目黒髪だからあそこじゃそういうの無理だろ? 俺だってエリックさんの付添がないと未だに集落の中を1人で歩くのが許可されてないんだぜ」
「うう……良いなあ。エルフ」
ミュラは、シュワの街から海の方に進んだところにあるルッカ村の出身だ。黒目黒髪は加護持ちという告知で両親が、漁師を継ぐよりとサクラ商事への就職を勧められてやってきた子だ。今年の正月はルッカ村に帰る予定でいる。
この正月休みでミュラと一緒にシュワの街まで行き、そこで分かれる予定では有るのだが。男心としては、美人揃いのエルフの女の子を紹介してくれると聞けば、気に成ってしょうがないだろう。
そのフォルは、今はゲネブに来てエルフの集落での年越しの買い出しに来ている。こんなあっさり行き来して、行商人達のビジネスの邪魔をしないように自分たちで使うものだけ買うようには言ってある。転生初年度で苦労してエルフの集落への往復をしていたことを思えば色々変わりすぎてる。
「ところでフォルは?」
「フォルさんは、みつ子さんの手伝いで正月の飾りを作るとかで隣で作業してますよ」
「ああ、そっか。竹買ってたもんなあ」
この世界の風習とは全く違うのだが門松っぽいのを作りたいとか言っていたな。なんだかんだ言ってこれも昔を懐かしんでの作業だろうけど。ちょっと出来は楽しみだ。
冒険者としてはここまで長期で休みを取るのは珍しいが。お盆やGWの無い異世界だからこそ正月休みはまとめて休ませたいという気持ちがある。今日の大掃除が終われば今年はこれで休みにするつもりだ。
「年越しは寮の食堂で宴会的なのを考えているんだけど、ブルーノはどうする?」
「家族も居るので私は家で過ごします」
「そっか、うん。まあ……ジロー屋のオヤジが料理作ってくれるって言っているんだ」
「なっ。ジェラルドさんが?」
「ふふふ。まあ嫁さんと相談して決めなよ。宿屋の食堂だから広さだけは十分あるしな。もちろん金は取らないから気楽においで」
「は、はい」
ジロー屋も年末年始は俺達の真似して休むらしいので、大晦日の料理を出張して作ってくれるようにお願いしたら、快く引き受けてくれた。たまにみつ子が何気なく見せる料理もこの世界にない技法を使うものがあるらしく、俺とみつ子が料理をすると聞いて気になるものもあるのだろう。作る方も楽しみだ。
掃除もだいぶいい感じになってきた頃、ミドー、ハンス、タント、ジンの4人が帰ってくる。4人は泊りがけで森の中での素材採取の依頼で歩き回ってきていた。
「おう、おかえ――ちょっと待て! お前ら泥だらけじゃねえかっ! 靴だけでも洗うからそのまま外でろっ!」
入ってきた4人は流石に汚れまくっており、歩く後に泥が落ちまくる。せっかく大掃除して綺麗になっていたのにたまったもんじゃない。慌てて4人を外に連れ出し、水魔法で水を出して靴の泥だけでも落とす。
「えー。旦那~。そんなに綺麗好きでしたかい?」
「せっかく大掃除したんだ。年越しくらい綺麗に過ごしたいだろ?」
「うーい」
この中では年長のミドーは、元々冒険者ギルドでも俺と同じ様になかなかランクが上げて貰えず、王都の近くにあるダンジョンで、案内人的な事をしていた男だ。元々それなりの強さもあり、今回の遠征でリーダーを勤めてもらっていた。
ハンスとタント、ジンは訓練的な意味合いもあり同行させていた。
「で、どうだ? うまく行ったか?」
「へい。問題なくノルマはこなせましたさ。ギルドで納品もしておきましたぜ」
「そっか、ご苦労さん。まあ今日はお前ら皆寮に帰って風呂でも浴びてこい。夕食はおごるから後でクレイジーミートでも行こう」
「お、ありがてぇ。よし、お前ら寮にいくぞ」
「了解です」
4人が寮に帰っていくと、再び床を掃除して、今日の大掃除を終わりにした。
その後、打ち上げも兼ねて参加できる社員を引き連れてクレイジーミートで仕事納めの宴会をした。
※色々登場人物を出して訳わからなくなりそうで不安もw 章頭の登場人物をちょくちょく更新していますので、わからなくなったら確認していただければと。
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