第284話 遺跡へ向けて 1

 俺たちは地図を見ながら目的地を目指していた。

 初日は、プレジウソが慣れるまでと言う名目で割りとゆっくりに進んでいく。恐る恐るハーレーの背中に登ったプレジウソは、ゴツゴツした乗り心地にも文句を言わずに必死にしがみついていた。


 はじめは島の北側の方からぐるっと海岸沿いに進んでいく。砂浜は無いが、北側は割と岩がゴツゴツと有るため樹木なども少なめでハーレーもまっすぐ進んでいけるようなんだ。そして途中から内陸に入っていくルートを使う。


「うぉっ……すげえ景色だなあ」


 海岸沿いの景色はそれは素晴らしい。村からまず北に向けて海岸線を走っていく。東側から登る朝日が反射してキラキラと輝く早朝の静かな水面を眺めながらハーレーに揺られていた。こんな絶景を見ていると、とてもここがアンデッドの巣食う島とはとても思えない。


「綺麗だねえ」


 みつ子もぼ~っと海を眺めている。そんなみつ子の横顔を眺めながら、こんな時は「お前のほうが綺麗だぜ」なんて言うのが転生勇者の宿命かもしれないが。無理だな。俺のキャラじゃない。


 その刹那。


「みつ子さんの方がずっと綺麗じゃよ」


 しわがれたジジイの声が流れてくる。


「え? えへへ。お爺ちゃん上手なんだから~」

「ジジイが言うな!」

「ん? なんじゃ、お主が言おうとしておったのか? これはすまなんだ」

「え~ ホント? 省吾君?」

「いやいやいや。勘弁してよ。ほら、よそ見してると落ちるよ」


 くそう。心理戦を挑んできやがって。



 道中はたまにフォレストウルフや、キラーエイプとはちょっと違う、あまり見たことのない猿っぽい魔物のアンデッドなどが出てくる。これは大陸で湧くような魔物が、呪いのせいでアンデッド混じりの状態で発生するということなのだろうか。よくわからない。

 ただ、村を組織的に襲ってきたオークやゴブリンのような亜人種の魔物はまったく見られない。モルニア商会の連中が使役していると思われるアンデッドとは生態というか組織図が別なのだろうか。


 いずれにしても、アンデッド化した魔物はおそらく食料として成り立たないのだろう。魚の漁が発達しているのを見てもわかる。

 だがハーレーはお構いもなしに食料として口にしていた。心配になって大丈夫かと聞くが「こんなチンケな呪いがドラゴンたるオデに効くわけはねえ!」と偉そうにしている。ふうむ。やっぱりアンデッドは呪いの類なのだろう。

 それでも心配だからと、みつ子は食後のハーレーのお腹の辺りを<ホーリー>で清めてあげていた。


「ん? ということはだよ。殺したアンデッドにみっちゃんがお祓いをすれば、もうそれは食料として成り立つということか」

「え……省吾君食べる気?」

「あ、いや。食いはしないけど……例えばの話ね。例えばの話」


 ハーレーに乗っているとやることも無いためどうでもいい会話が増えてしまう。それでもずっと背中で揺られていると体が固くなるので、定期的に下りて走ったりはするんだ。流石に未知の島だからな、特訓だなんていってミドーたちに走らせるようなことはしないつもりだったが、皆、定期的に走ったりして体を伸ばしたりはしている。



 だんだん日が傾き、夜が近づいてくると俺たちはちょうどいい場所を探し始める。場所を確保出来ればすぐに野営の準備を始める。


「夜は2人づつで夜番を回していくか。7人か……モーザはハーレーと一緒でいいか?」

「良いぞ」

「じゃあ、後はクジで決めるか。ああ、プレジウソさんはよく寝て。俺たちだけで回すから」

「すまないな……ドラゴンの背中に慣れず、かなり限界だ」

「気にしないでください。ほら。俺たちは冒険者だからこういう野営は慣れてますし」


 なんとなく、転生前のイメージでアンデッドは夜になると活発に、強くなるというイメージがあったのだが、ファーブルらに聞いた感じだと日夜の違いはあまり無いらしい。多少の襲撃は有ったもののさしたる問題もなく、朝を迎えた。



 2日目もしばらく。海岸沿いを進んでいく。太陽が真上に差し掛かってきたあたりで、ふと開けた場所に出る。そこは一見砂浜のようだが下は砂ではない。海岸一面が色とりどりの小石で埋め尽くされていた。基本は青や翠の石が多いが、オレンジ色や、無色透明な小石など、様々な色彩の石で埋め尽くされている。


 ちょうどお昼くらいということも有り、休憩を取ろうと皆ハーレーから降り、その不思議な光景を見つめていた。


「ここが宝石海岸か……ホントに地図にある通りだな」

「すごい幻想的ね。これって、翡翠とかかしら?」


 みつ子も、水の中から綺麗な石を持ち上げ日にかざしてみていた。

 ユタカは山の麓で遺跡を封印した後に数日森の中を歩いてこの海岸にたどり着いたという。その後、この場所を気に入って妻たちと何度か訪れていたようだ。

 ルートとしてはここから内地に行っても良いのだが、この規模の島なら海岸沿いに行っても山の位置は確認できる気はする。ここからどうしようか皆で相談しないとな。


「あれ?」


 その時、石を透かせるように上を見ていたみつ子が空を見つめて不思議そうに声を上げる。


「ん?」


 つられて俺もそちらを眺めると、かなりの上空に一匹の魔物が飛行しているのが見えた。


「……あれ、もしかして」

「ワイバーン???」


 俺は慌てて<千里眼>を発動させ、魔物を観察する。魔物は俺たちに気がついているのか分からないが、そのまま西の方に飛んでいってしまう。多分、見た感じはワイバーンで間違い無さそうだが……。


「行っちゃったな……」

「私達の場所の確認かな?」

「うーん。どうだろう……木もない所に居るからな、俺達の存在は見つけたとは思うが」

「やーね。素直に下りてきてくれたほうがわかりやすいのね」

「まあな、でもまあ、とりあえず警戒は怠らないようにしよう」


 仲間たちにもワイバーンが上空を飛んでいたことを話し、もしかしたら俺たちの場所を見られたかもしれないと説明する。その上で警戒を緩めること無くこのまま進んでいくことにする。


 まあ、その前に昼飯を食わないとな。


 とりあえず火をおこしたりはやめて、干した果実やナッツ類で軽くエネルギー補給をするに留める。既に気は抜け始めていたが、ドクペシロップを溶かして皆で飲む。糖分はカロリーが取れそうだからな。


 そして俺たちはそのまま海岸沿いに歩みを進めていった。

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