第295話 迷宮(5)
言っている内容は理解出来るが証拠が無い。
女性は、少女の頭を撫でながら
「正確には、そこに居る男の優ちゃんが作り出した世界ね。
判断基準となる情報が無いって顔ね。
ほんと、この娘が事前に説明してくれなかったら、私が殺されていたわね」
と苦笑いしながら言うと一呼吸置いて
「あなたは、ここに来る直前に何をしていた?」
と聞かれたので
「東海支局の女性隊員用研修寮で、夕食を食べていた」
と素っ気なく答えると
「ええ、その通りよ。
現実の世界では、あなたが食事後席を立った瞬間に意識を失って倒れたのよ。
もっとも、私は現場に立ち会っていないから、植松さんから状況を聞いただけだけどね。
今、あなたの身体が支局付属病院のベットの上よ」
と返ってきた。
男が僅かに身動ぎしたので、新しい水晶柱を突き刺し動きを封じる。
女性と少女が顔を顰めた。
「酷い。
どうして同じ自分なのに、こんな事が出来るの?」
と少女の悲痛な声が響いた。
「同じ?
違うだろ。
ココが精神世界であると仮定しても。
違う意思を持ち、違う考え方をする者が同じはずではない。
それは他人だ。
お互いに尊重出来る相手なら兎も角、こいつは最初から敵対行動を取った。
ならば滅ぼすのに何のためらいが必要?
敵になるなら、お前達も倒すだけだ」
淡々と答えると、少女は落ち込み
「そんなー」
と呟く。
「どこまでも冷静冷徹で合理的な判断ね」
と女性が答えため息をつく。
女性は、自分に縋り付く少女に顔を向けると
「残念だけど、向こうの優ちゃんの言葉が正しいわ。
ここは対話の場では無く戦場だからね。
心優しいあなたには、辛いわね」
と言ってから頭を撫でる。
女性は再び私を見て
「そちらの子を殺しても、ダンジョン・コアは出現しないわ。
この空間から脱出する方法は2種類。
1つは、その子とこの娘を殺す事。
もう一つは、この2人を吸収して1人に戻る事。
ちなみに私を殺すと、現実の私の身体も死ぬわ。
だって、植松さんの
と言う。
「何故その2種類だけなんだ?」
と問うと
「私が聞いた範囲だと
1つ目は、ここが優ちゃんの精神世界である事。
2つ目は、優ちゃんの
3つ目は、並列意思の暴走により、短時間で高レベル化した事。
4つ目は、この並列意思に別人格が宿った事。
5つ目は、完全に消滅・吸収されたと思われていた男性の
の5つね。
それで対処方法が、暴走している並列意思を止めるしかないのよ」
と言われ
「それが、統合か排斥かの2択と?」
と問い返すと
「その通りよ」
と返ってきた。
「私としては、そっちの甘ちゃんなら統合しても良いと思うが、こいつは受け入れられない」
と男に鋭い視線を向けながら返す。
女性は
「まあ、そうなるわよね」
と言って、大きなため息をついた。
「お願いがあるんだけど、そっちの子と話をさせてくれない」
と言う。
少し考えてから
「少しでも変な動きをすれば即殺す」
と告げ、男から少し離れる。
頭に刺さっている水晶柱を消す。
女性は、少女をその場に残し男の前に行き膝立ちになる。
その間に男の頭の傷は回復した。
男は泣きながら
「死にたくない。
消えたくない」
と訴える。
女性は
「何故戦いを選んだの?」
と尋ねると
「本来なら、俺が主人格のはずだったのに。
そいつに奪われたからだ。
だから、取り返そうとしただけだ」
と叫ぶ。
女性は、ため息をつき
「残念だけど、それは違うわ」
と答えると、男は驚愕の表情をする。
女性は、男の頭を胸に抱くと
「きちんと生んであげられなくごめんね」
と言う。
男が
「え」
と驚きの声を上げると
「あなたは、私のお腹に居る時に消えた子なのよ」
と女性が告げる。
「何を言っている?」
と男が呟くと
「最初は双子だったのよ。
妊娠中期初めの検査で、男の子と女の子の2卵生双子と診察されたわ。
でも、妊娠中期の終わり頃までに1人消えてしまったの。
その時点で残った子供の性別は、女の子だったのよ」
と女性が告げると
「うそだ」
と男が呟く。
「いいえ。
残念だけど本当よ。
妊娠後期の検査では、女の子と診断されていたの。
でも出産間近になると、性別が男と判定されたわ。
最初は驚いていたけど。
エコー診断だと性別がはっきりと分からない事があるからと言われて納得していたのだけど。
実際は、あの実験の結果、女の子の優ちゃんが男の子の優ちゃんを取り込んでしまったの。
でも、性転換が起きて男の姿で生まれたの。
だから、男の
と女性が告げると
「うそだー」
と男が叫ぶ。
女性は落ち着いた声で
「本当よ。
三上主任から、私と優ちゃんへ行われた実験の詳細情報を見せてもらったから、間違いないわ」
と告げると、男は崩れ落ち
「じゃあ、俺は、俺は……」
と言って沈黙してしまった。
「あなたは、優ちゃんの男としての後悔と男の
そして、依代の男の
と告げる。
「なぜ」
と男が絞り出す様に言う。
「壊れて破片になっている物をつなぎ合わせ補強したものでしょう。
元々強度が無い物を無理やり大きくしたから、もう限界なの。
だから…もうおしまいなの」
と告げた。
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