第262話 1年次夏期集中訓練 2日目(11)

 射撃位置に着くと、千明さんを射撃位置に立たせて

「50m先の的に目掛けて、光玉ライトボール光矢ライト・アローを撃って下さい」

 と言うと

「えー!

 ぜっったーーい。

 届かないし当たらない」

 と力説された。


「別に当てる必要も届く必要もありません。

 ただ、的を目掛けて撃って欲しいだけです」

 と言うと

「え?なんで?」

 と聞くので

「幾つか気になる事があるので、その確認です。

 なので、どの位届くのか試すつもりで撃って下さい」

 と答えると

「良く分からないけど、分かった。

 取り敢えず、的に向かって撃てば良いんだね」

 と返したので

「それで構いません。

 合図したら、終了の合図をするまで交互に撃って下さい」

 と指示をする。


「分かった」

 と答えると、的に向かって射撃姿勢を取った。

 私は射撃姿勢を取った千明さんの真後ろに移動し、計測器を担当している研究員に合図を送ると両手で大きな丸を作った。


「撃ち方 始め」

 と指示を送ると千明さんは射撃を開始した。

 勢い良く撃ち出された光弾や光矢は、15~20m位で霧散している。


 後ろから魔力塊マナ・コアの魔力の動きを確認しながら、計測を担当している研究員を確認する。


 研究員の後ろに伊島さんが立ち、計測データを見ながら指を差して何か言っている。

 研究員が慌て始めると、周囲の人達も集まりだした。

 彼らが騒ぎ出したが、射座の外の観測場なのでココまで聞こえない。


 十分データが取れた頃に再び彼らを見るが、データと議論に夢中になっている様だ。

 自然とため息が漏れた。

「撃ち方 辞め」

 と指示を出し射撃を中止させると、千明さんを伴って人だかりの山に向かう。


 人だかりの山に向かって

「データはどうでしたか?」

 と声を掛けると、目の前の人だかりが左右に別れた。


 驚く千明さんの手を引き、計測装置の前に行く。

 計測を依頼した研究員は、素早く端末を操作してデータの一覧をモニターに表示してくれた。


 全員が固唾を呑む中、データの確認を続ける。

「概ね、予想通りのデータになりましたか。

 これは、間違いないかと」

 と言うと、研究者達から歓声が湧き上がった。

 そして、研究員達が次々と千明さんに近づくと、両手で千明さんと握手して

「おめでとうございます」

 とか

「良いものが見れました」

 と口々に言って離れていく。


 千明さんは、訳も理由もわからずポカーンとした顔で握手を繰り返していた。


 研究者達が全員去った所で、状況が飲み込めて居ない千明さんが

「一体、何だったの?」

 と疑問を口にする。


「鳥栖君が魔性物質の生成に成功したからだよ」

 と伊島さんが言う。


「魔性物質?」

 と千明さんが疑問を口にすると

「体外に放出した魔力の状態は、純粋な魔力と魔性変換された物質及び現象の2種類に大別されている」

 と伊島さんが続けた。


「それって、放出系と具現化系と言う事ですか?」

 と千明さんが聞くと、伊島さんは

「それは、違うよ。

 その2つは、共に魔力が変換されたモノに当たる。

 疑似物質化したモノを放出系、物質化したモノを具現化系と分類しているだけだよ。


 純粋な魔力と言うと魔力弾だね」

 と答える。


「へぇー。そんなんだ」

 と千明さんが首をかしげながら言うと

「魔性物質と言うのは、魔力のまま物質化する現象の事で、魔力と魔石や魔晶結晶との中間物質を指す。

 属性の様に物理法則に則った物質ではなく。

 魔力の性質を持ったまま、物質と同等の物になった物。

 これまで理論上だけの存在で、観測も生成も出来なかった物だったんだ」

 伊島さんは説明を聞いた千明さんは、顔が引きつりながら

「そ、そうなんだ」

 と返すと、伊島さんは

「そう、コレまではね」

 と言って、笑みを深めた。


 千明さんは、タジタジとしながら

「それは、どういう事でしょうか?」

 と尋ねると、それはもう満面の笑顔で

「鳥栖さんが放った光属性の玉と矢は、理論で想定されていた魔性物質の特性を表していた。

 これは大発見であると同時に、世界で初めて魔性物質の生成に成功した人物になったんだよ。

 おめでとう」

 と言った。


 千明さんは

「え゛?」

 とうめき声を上げた後、完全に固まってしまった。


「凄いね」

 と都さんが言うと

「そうだね」

 と美智子さんが返し

「千明も遠い所に行っちゃったな」

 と郁代さんと呟いた。


「ちょっと、私はココにいるからね。

 ところで、私はどうなるの?」

 と千明さんが早口で捲し立てる。


「どうにもなりませんよ。

 ただ、前例が無い事をしたから称えられただけですよ」

 と伊島さんが言うと、千明さんは怯えながら

「それじゃあ実験の為とか言って、監禁されたり、解剖されたりする事は無いの?」

 と言った。


 それを聞いた伊島さん達は、大声で笑い出した。

「いくら私達がマッド・サイエンティストよりだと言っても、人の道を踏み外す程落ちぶれていませんよ。

 せいぜい協力依頼をして、実験に付き合ってもらう位ですよ。

 当然、正当な報酬も支払いますよ」

 と伊島さんが言った。


 千明さんは、明らかに安堵した様子で

「そうなんだ。良かった」

 と呟く。


 伊島さんは

「安堵した所悪いんだけど、鳥栖さんには魔光まこう(仮)を極めて欲しいから、明日は厳しく指導するからね」

 と宣言する。


 千明さんは、狼狽した様子で

「うぇ、お手柔にお願いします」

 と返すが、伊島さんはニコニコと笑っているだけだった。

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女体化したら最強(凶)!? イリュウザ @Iryuza01

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